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第28話 女神の力と少女の覚悟

 シルファも落ち着いてきたところで、私はアリシアに尋ねた。


「なぁ、アリシア。こんなに高レベルなのに戦えないのか?」


「本来なら戦えるんだけど、今は能力が制限されてるのよ。だから今の私にできるのは、治癒や結界を張ったりするくらいよ」


「なるほど、治癒と結界か」


 うん、それ自体は悪くないかな。

 これから戦うことも増えるだろうし、優秀なヒーラーは重要だ。

 前衛が敵を倒し、後衛が支えて、私は安全な場所から――。


 ……いや、私も戦うんだった。


「あっ、それから支援魔法も少しは使えるわよ。あとは小さい祝福を与えるくらいかしら?」


「支援って、味方の攻撃力とか速さを上げたりできるのか?」


「そうよ。神域を展開した範囲内ならさらに効果が上がるわね」


「神域ってなんだそれ?」


 名前からして、めちゃくちゃかっこいいじゃないか。

 要するに、その範囲内で戦えば味方が有利になるってことか。

 シルファの攻撃力や速度を底上げできるし、私自身も強くなれる。

 かなり頼りになる能力じゃないか。


「それ凄いな。そのスキルっていつでも使えるの?」


「ええ、使えるわよ。ただし、さっきも言ったように能力が制限されてるから、時間は五分くらいが限界だけどね。そして一度使うとしばらくは使えないから連続で使うのも無理よ」


 制限時間は五分で、一度使うとしばらく再使用できないのか。

 いや、それでも十分凄いスキルだ。

 チラッとシルファに視線を向けると、目をキラキラさせながら話を聞いていた。


「ねぇ、シルファ。これで信じてもらえたかな?」


「あっ、はい。ステータスに女神さまって書いてありましたし、お二人が嘘をついてるようにも見えませんので」


 よかった、結果的にアリシアがステータス見せてくれて助かったな。


「それで、私たちは女神ティリスさまにまずは王都へ行くように言われてるんだよ。シルファにも一緒に来てもらいたいんだけど、どうかな?」


 私がそう尋ねると、少しだけ視線を落とし考え込んだ。

 まぁ、いきなりこんなこと言われても簡単には決められないだろう。

 宿屋の仕事だってあるだろうし。

 そう思っていたのだが。


「……私も、一緒に行きたいです」


 シルファは覚悟を決めたように顔を上げた。


「勇者候補というのはよく分かりませんが、私もいずれは王都に行こうと思ってたんです」


「えっ、本当にいいの? 宿屋の仕事とか親御さんのこととか大丈夫なの?」


 思わず聞き返してしまった。

 決断が早い!

 人生を左右する選択だよ?


「はい、宿屋は結婚して家を出たお姉ちゃんがたまに手伝いに来てくれますし」


 シルファは少し照れたように微笑んだ。


「なにより私、物語に出てくるような冒険をしてみたいって、ずっと思ってたんです。まぁ、それで冒険者になったんですけどね」


 その表情には、期待と少しの不安が入り混じっていた。

 物語の主人公のように、知らない土地を旅して、さまざまな人と出会う。

 そんな冒険を、彼女はずっと夢見てきたのだろう。

 そして今、その夢を叶えるために一歩を踏み出そうとしている。


「それに、女神さまから与えられたお役目が終わったら帰ってくることもできるんですよね?」


「うん、それはそうなんだけど」


 はっきりと答えることができなかった。

 私たちがこれから向かうのは、魔王軍との戦いが待つ道だ。

 無事に帰れる保証なんてないんだ。


 しかも、シルファは前衛だ。

 戦闘になれば、敵の攻撃を真っ先に受けることになるかもしれない。


 私は膝の上で、そっと手を握りしめた。

 この子を危険な目に遭わせてしまうかもしれない。

 そう考えると、簡単に『大丈夫』とは言えなかった。


「キアラ、そんな顔しないでください。危険なのはわかってますから」


「でも……」


「私は自分で行くと決めたんです。それに、私は冒険者ですよ? 危険なことがあるのは、最初から覚悟してます」


 シルファはまっすぐ私を見つめた。

 その目には、わずかな不安が浮かんでいた。

 それでも、自分で決めた道を進もうとする強い意志が感じられた。


「それに、キアラやアリシアさまと一緒なら心強いです。私、お二人と一緒に冒険してみたいです」


「……わかった。じゃあ、一緒に行こう、シルファ!」


「はい!」


 シルファは嬉しそうに笑い、右手を差し出した。

 私はその手を握り返す。

 小さな手だったけれど、その握り返す力は思ったよりもしっかりしていた。


 よし、必ず目的を果たして、シルファを無事にこの街へ帰してあげよう。

 ついでに全部終わったら、私もこの街でお店でも開こうかな。

 うん、きっとそれがいい。


 ◇ ◇ ◇


「ふふっ、心配しなくても私がついてるんだから大丈夫よ。大抵の怪我なら、すぐ治してあげるわよ」


 私とシルファがこれからのことを話していたら、アリシアがそんなことを言い出した。


「そういえば、アリシアの治癒ってどの程度まで治せるんだ?」


「そうね、腕や足が千切れてもすぐ生やせるわよ」


「なんかちょっと怖いなそれ」


 でもそうか、部位欠損も治せるのか。

 女神の力って、想像以上にとんでもないらしい。


「あっ、でも『首ちょんぱ』はダメよ。死んじゃうから」


「だから怖いこと言わないでくれる? って、蘇生はやっぱり無理なの?」


「それはやっちゃダメなことなのよ。この世界に蘇生魔法は存在しないんだから」


 なるほど、今の言い方だと出来ないわけじゃないんだな。

 もちろん死ぬつもりはないし、シルファを死なせるつもりもない。

 だけどいざってときのために保険は必要だ。

 今度ティリスさまに会ったら、どうにかできないか相談してみよう。


「あら、キアラ。足怪我してるの?」


 アリシアが私の膝に巻かれた包帯に視線を向けた。


「ああ、リバークラブの討伐に行ってたから、でもかすり傷だよ?」


「ちょっと見せてみなさい。女神の力を見せてあげるわ」


 アリシアは包帯とガーゼを素早く取り外した。

 そして、傷口に手をかざす。


「行くわよ《ヒール》」


 アリシアの手のひらから、柔らかな金色の光があふれた。

 光は傷口を包み込むように広がり、温かな感覚が膝に伝わってくる。

 傷口がみるみる塞がっていった。

 やがて光が消えると、そこには傷跡すら残っていなかった。


「おお、治った!」


 私は思わず膝をさすった。

 痛みもない。

 中身はアレだけど、やっぱり本当に女神なんだな。


 しかし、そう感心したのも束の間――。


「ふふん、どうよ! さぁ、私を崇めなさい!」


 そんなアリシアのドヤ顔を見て、なんだか感謝の気持ちが一気になくなってしまった。


 ……やっぱり、こいつはアリシアだった。


「うん、すごいね。ありがとう」


「反応薄いわね。もうちょっと感謝しなさいよ」


「うん、感謝してるよー。ものすごくしてるよー」


「なんで棒読みなのよぉ!」


 アリシアは私の背中をポカポカ叩いていた。

 私はそれを適当に受け流しながら、王都への準備について考え始めた。


「シルファ、王都に向かうのはいつぐらいがいいかな?」


「そうですね、両親に話さなきゃいけないので、できれば早くても二週間後くらいにしてもらえると助かります」


「うん、そうだね。私ももう少しレベル上げしておきたいし。アリシアもそれでいいかな?」


「いいわよ、じゃあ私はそれまでこの牧場のお手伝いをして待ってるわ」


 ……大丈夫だろうか。

 牧場でまたなにかやらかさないか心配だな。


「わかった、じゃあたまに牧場にも来るよ」


 こうして、王都への出発は二週間後に決まった。


 私とシルファはアリシアと別れ、冒険者ギルドへ向う。

 出発までに、少しでもレベルを上げておきたい。

 これから始まる旅に備えて、やれることはやっておこう。


 シルファを無事にこの街へ連れて帰れるように、私が強くならなきゃ。

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