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第26話 秘密を打ち明けます

 待て、落ち着け。私は大きく深呼吸した。

 完全に予想外だった。まさかシルファが勇者候補だったなんて。


 本人はまだ何のことか分かっていないようだ。

 教えるべきなんだろうけど、どう説明すればいいんだ?


「あれ? キアラさん。足、血が出てますよ」


 そう言われて、視線を向けると、膝のあたりに血が少し滲んでいた。

 蟹のハサミがかすったのかな?

 戦闘中は興奮してたせいか痛みは感じなかったんだけど。


「あっ、ほんとだ。まぁ、かすり傷なんで大丈夫ですよ」


「ちょっと待ってくださいね」


 シルファは腰のポーチからガーゼと包帯を取り出し、私の膝にそっと当てた。

 手際よく傷口を覆い、包帯を巻いていく。


「はい、これで大丈夫ですよ」


「おお、ありがとうございます」


 うーん、シルファって可愛いだけじゃなく、女子力も高いんだなぁ。

 私も見習わないと。


「さて、じゃあ蟹を回収しちゃいます。シルファさんは少し休んでてください」


「うん、お願いします」


 しかしこれは大漁だな。

 普通なら、一人や二人ではとても持ち帰れないだろう。

 でも、私なら全部運べる。

 辺りに倒れているリバークラブを手当たり次第アイテムボックスに入れていった。


「《収納》《収納》《収納》」


 次々とリバークラブを収納しているうちに、ひとつ気づいた。どうやら、アイテムボックスに収納するには対象にある程度近づく必要があるらしい。


 だいたい一メートルくらいだろうか?

 まぁ、それでも十分便利なスキルだけどね。


 回収している間も、シルファが勇者候補だったことが頭から離れなかった。

 いきなり『それは勇者候補の証だから、私と一緒に世界を救おう』なんて言っても信じて貰えないよね? 下手したら中二病と思われてしまうかもしれない。


 うーん、これはアリシアにも相談した方がいいかな?

 あんなポンコツでも、一応は女神なんだし。

 ……いや、本当に女神なのか少し疑問の余地があるけど、まぁいいか。


 今からなら、たぶんお昼前には街に戻れるはずだ。

 シルファを連れて一度牧場へ行こう。


「蟹の回収終わりましたよ。街に戻りましょうか」


「はい、たくさん獲れたから報酬が楽しみですね」


「ふふっ、そうですね。あと、ちょっと一緒に来てほしい場所があるんですけど」


「えっ、一緒に? どこに行くんでしょうか?」


「あっ、それは街に着いてから説明します」


 とりあえず、歩きながらどうするかを考えよう。

 そうして、私たちは川を後にした。


 ◇ ◇ ◇


「そういえばキアラさんっておいくつなんですか?」


「あっ、十六歳ですよ」


 シルファのそんな質問に思わずそう答えてしまった。

 しかし、本当は転生したばかりだけど設定上は十六歳だ。

 うん、嘘はついていない。


「へぇ、同い年だったんですね。じゃあ私のことはシルファって呼び捨てでいいですよ。敬語も必要ありませんよ」


「えっ、そう? じゃあ私もキアラでいいよ」


「はい、キアラさん!」


「あっ、さんもいらないからね」


「ふふっ、わかりました。キアラ」


 名前を呼び捨てにされただけなのに、妙に嬉しくなってしまった。

 うん、なんかいい感じだな。

 こういうのなんだよ、私がやりたかったのは。


 女の子同士で、こんなふうに気兼ねなくおしゃべりすることにずっと憧れてたんだ。その後も、私たちは好きな食べ物や街のお店の話をしながら、街へと戻った。


 ◇ ◇ ◇


「えっと、さっき話した場所なんだけど。街はずれの牧場まで来てもらえるかな?」


「牧場? ああ、ヨハンさんのところですか? でもなんで牧場に?」


「えっとね、シルファのステータスに表示された加護について説明したいんだよ」


「えっ、そうなんですか? でもどうして牧場に行く必要があるんですか?」


「うん、そこで働いてる人に会ってほしいんだよ。あと、私の秘密も話すことになると思う」


「……キアラの秘密?」


「うん。詳しいことは着いてから話すね」


 シルファは首を傾げながらも、牧場まで一緒に来てくれることになった。

 さて、どう説明しよう?


 やっぱり私のステータスを見せて、同じ加護を持ってることを伝えた方が説明しやすいかな。

 仲間になるなら、能力のことも全部話していいよね?

 シルファは人に言いふらしたりはしないだろうし。

 これから協力してもらうなら、隠し事は少ない方がいいだろう。


 街の賑やかな通りを抜け、しばらく歩くと、草地の向こうに見慣れた牧場が見えてきた。


 まだお昼前だからアリシアは仕事をしてるはずだ。

 どこにいるんだろ? やっぱり牛舎かな?


「じゃあ、ちょっと牛舎に行ってみようか」


「あっ、はい」


 二人で牛舎に向かったが、そこには誰もいなかった。


「いない、じゃあ工房の方かな?」


 工房へ行き、扉をノックする。


「はーい」


 すると中から返事が聞こえた。この声は間違いなくアリシアだな。

 そして扉が開き、中からアリシアが顔を出した。


「あら、キアラじゃない。どうしたの?」


 そっと中を覗き込むと、おじいさんはいないようだ。

 よし、これなら落ち着いて話せそうだ。


「ちょっと、中に入っていいかな?」


「ええ、いいわよ。そうだ。せっかく来たんだからこの牛乳もチーズにしてもらえないかしら?」


「ああ、今日も余ったのか。別にいいよ」


 ふと見るとバケツ一杯分の牛乳が余っていた。

 やっぱり昨日より量は減ったんだな。


 私は、後ろにいるシルファに視線を向けた。

 ちょうどいい機会だ、私の能力を見せておこう。


「じゃあシルファも入って」


「えっ、いいんでしょうか?」


「うん、いいから」


 シルファの手を引き一緒に中に入る。


「ねぇ、その子はいったい誰なの?」


 首を傾げるアリシアに、私はそっと耳打ちする。


「彼女が勇者候補なんだよ」


「えっ! もう見つかったの?」


「まだ事情を説明してないから、アリシアにも手伝ってもらおうと思ってきたんだよ」


「なるほど、そういうことだったのね」


 アリシアに納得してもらえたところで、私はバケツに入った牛乳に手をかざす。


「シルファも見ててね」


 シルファは、戦闘中も私のことを気にかけてくれた。

 怪我をしたときも、迷わず手当てをしてくれた。

 まだ知り合って間もないけれど、彼女は信用できると思う。

 といっても、問題は彼女が協力してくれるかどうかなんだけど……。


「えっ、キアラ? 何をするんですか?」


「まぁ、見てて。チーズになれ《神具創造》」


 淡い光がふわりと広がり、牛乳がみるみるチーズへと変わっていく。やがて光が収まると、バケツの中には昨日と同じようにチーズが出来上がっていた。


「えっ……今のは、何?」


 シルファはバケツと私の顔を交互に見た。


「それも錬成師のスキルですか?」


 私は静かに首を横に振った。


「いや、これは神具創造で作ったんだよ。ちょっと私のステータスを見てくれる? 《ステータス》」


【名前】キアラ

【種族】霊神人

【年齢】16歳

【職業】錬成師

【レベル】7

【ユニークスキル】神具創造Lv2

【付属スキル】鑑定Lv2 / アイテムボックスLv2

【スキル】錬金術Lv1 / 錬成Lv1

【魔法】火魔法Lv1

【状態】正常

【加護】女神ティリスの加護


「えっ、神具? ステータスはあまり人に見せない方がいいですよ?」


「大丈夫、私はシルファのこと信用してるから」


 シルファは、よく分からないという顔でステータスを覗き込んでいた。


「あれ、キアラにも私と同じ加護があるんですね。それに霊神人ってなんでしょう?」


「シルファ、落ち着いて聞いてね」


 私はシルファの肩にぽっと手を乗せた。


 神具創造のこと。霊神人という種族のこと。

 それに、私が勇者に選ばれたことも説明しなければならない。

 アリシアが女神であること……は、別にいいか。


 とにかく説明しなければならないことは、たくさんある。

 一度に全部話しても、混乱させるだけだろう。

 まずは、一番大事なことから話そう。


「私は異世界人なんだ」

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