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第25話 戦う覚悟

 リバークラブは突然目の前に現れたシルファに気づくと、ハサミをカチカチと動かし威嚇していた。


 シルファが一歩前に出ると、数匹のリバークラブが襲い掛かる。


「まずは一匹!」


 迫ってきたリバークラブのハサミをひらりとかわし、頭部に正確に木剣を叩きつけた。


 ――ゴンッ!

 リバークラブは脚をばたつかせ、その場にひっくり返った。

 シルファはそのまま動きを止めず、すぐ隣にいた別の一匹へ木剣を振る。


「これで二匹目です!」


 うわっ、速いな。

 それは、可愛らしい見た目からは想像もつかないほど見事な剣捌きだった。

 シルファはその後も凄まじいスピードで次々とリバークラブを倒していく。


 その姿に見惚れていると、今度は二匹のリバークラブが、左右から一斉に飛びかかってきた。


 シルファは迫る攻撃を紙一重でかわし、すれ違いざまに木剣を叩き込んだ。


 ――ゴンッ! ゴンッ!

 鈍い音が連続で響き、二匹がひっくり返る。


 シルファはなおも足を止めず、隣の一匹にも木剣を叩きつける。

 さらに横から迫るハサミを跳び退いてかわし、次の敵へと向き直った。

 まるで、次にどこから攻撃が来るのか、すべて分かっているかのようだった。


 あの小さな体のどこに、これほどの力と体力があるんだろう。

 数分の間に、シルファは数十匹を倒していた。


「ふぅ、やっぱり聞いてたより数が多いですね」


 シルファは額の汗をぬぐい、小さく息を吐いた。

 さすがに疲れているようだ。


 しかし、リバークラブは川から次々と岸に上がってくる。

 浅瀬では水が絶え間なく流れ、川底の小石がさらさらと音を立てていた。

 その水面をかき分けるように、赤い甲羅が次々と姿を現す。


 カサカサ、カサカサ。


 無数の脚が河原の小石を踏み、乾いた音を響かせていた。

 倒したはずの場所にも、新たなリバークラブが這い寄ってくる。

 これ、倒した数よりも、増えていく数の方が多いんじゃないか?


 シルファの言う通り、聞いていた数の倍くらいはいそうだ。

 ざっと見渡しただけでも、百五十匹……いや、二百匹近くいるように見えた。


 ……いや、多すぎだろ。

 ギルドも、依頼する前にちゃんと調査したのかこれ?

 でもどうしよう、このまま任せてしまっていいんだろうか?


「シルファさん大丈夫? 私も手伝いましょうか?」


「ふふっ、まだ大丈夫ですよ。もう少し減らしますから」


 そう言ってシルファは再びリバークラブの群れに突っ込んでいった。

 しかし、疲れのせいか動きが少し鈍くなってる気がする。


 私は、思わず木剣を握りしめた。

 手のひらがじっとりと汗ばんでいる。


 目の前では、シルファが次々とリバークラブを倒していた。

 あれだけ動き回っているんだから、疲れないはずがない。

 それなのに、私は岩陰から見ているだけだった。


 正直ちょっと怖い。

 できることなら、このまま安全な場所から見ていたい気持ちもある。


 でも、本当にそれでいいのか?

 私は何のためにここへ来たんだ?

 魔物を倒して、レベルを上げるためだろう!


 私はいつか勇者候補を見つけて魔王軍と戦うことになるんだ。

 こんな蟹なんかにビビってたら世界なんて救えない。

 私は木剣をしっかりと握り直し、シルファの背中に視線を向けた。


「よし、私も行こう」


 その時、シルファの背後から一匹のリバークラブが忍び寄っているのが見えた。シルファは目の前の敵に集中していて、まだ気づいていない。


「あっ、危ない!」


 考えるより先に体が動いていた。私は岩陰から飛び出し、シルファの背後に迫るリバークラブへ木剣を振り下ろした。


「うりゃー!」


 ――ゴォン!

 木剣が頭部に直撃し、リバークラブは仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。


「……倒せた?」


 私でも、倒せるんだ。

 木剣を握る手には、まだ衝撃が残っている。


 動きは速いけど、体が大きいので頭部を狙うのはそこまで難しくないかも。

 私は木剣を握り直し、目の前のリバークラブを見据えた。

 よし、これならなんとか戦えそうな気がする。


「あっ、キアラさん。ありがとうございます」


「シルファさん、ここからは私も戦います」


「えっ?」


「足手まといにならないようにしますから!」


 その直後、飛びかかってきたリバークラブに木剣を叩きつけた。


「えいっ!」


 ――ピコン♪


『レベルが上がりました』


 あっ、レベル上がった。

 やっぱり霊神人はレベルが上がりやすいんだな。

 この調子で、どんどんレベルを上げよう。


「わかりました、でも無理はしないでくださいね」


「はい」


 私とシルファは手分けして、次々とリバークラブを倒していった。

 木剣を振り下ろし、倒れた魔物を確認して、次の一匹へと向かう。


 よく見ていると、リバークラブは動きこそ素早いが、直線的な動きしかしない。ハサミを振り上げた瞬間を狙えば、頭部に攻撃を当てられる。何度も同じ動作を繰り返すうちに、最初に感じていた恐怖は少しずつ薄れていった。


 むしろ、なんだか妙に気分が高揚している。

 私って、自分で思っていたより戦闘に向いてるのかな?

 そんな考えまで頭に浮かんだ。


 その後、体感で三十分くらい戦っただろうか。

 リバークラブをほぼすべて倒すと、私はその場にへたり込んだ。

 これは、さすがに体力が限界だな。

 木剣を何度も振るったせいか、腕がプルプルと震えている。


「はぁ、はぁ……これで依頼完了でいいんですかね?」


「はい、何匹かは逃げちゃいましたけど十分な成果だと思いますよ」


 シルファが笑顔を浮かべる。

 その頬を、一筋の汗が伝ってキラリと光った。


 おお、こうしてみるとやっぱりシルファって凄い美少女だな。

 あんなに可愛いのに、あんなに強いなんて……ちょっとずるい。


「あっ、キアラさん。私レベルアップしてましたよ」


 そんなことを考えていたら、シルファの嬉しそうな声が聞こえた。

 まぁ、シルファは一人で百五十匹は倒してるはずだからね。

 そりゃ、レベルも上がるだろう。


 私も何度かレベルアップはしたけど、倒したのはせいぜい十数匹だ。

 いや、これでもかなり頑張った方だと思うよ。

 ステータスを確認すると、レベルはいつの間にか7まで上がっていた。


「あっ、おめでとうございます。ちなみにレベルいくつになったんですか?」


「レベル18になりました。……あれ? でも、なんだかよく分からない項目が増えてる?」


「えっ? よく分からないってなんですか?」


 そういえばシルファはまだ鑑定してなかったな。

 気になったので、立ち上がってシルファのステータスをチラッと覗き込んでみた。


「ほら、これなんですけど」


「えっ……?」


 シルファが指さした文字を見て、私は一瞬思考が停止した。


 見間違いだろうか?

 いや、シルファは宿屋の娘だし、そんなはずはないだろう。


 しかし、目をごしごしと擦って見直しても、そこに表示されている文字は変わらない。


 私は思わず、シルファの顔を見た。

 シルファは不思議そうに首をかしげている。


 自分のステータスに何が表示されたのか、まだよく分かっていないらしい。

 そこには、はっきりとこう表示されていた。


【加護】女神ティリスの加護


 ……ええっ!?

 シルファが勇者候補だったの!?

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