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第24話 リバークラブ

 翌朝。

 目が覚めると、大きく伸びをして、そのまま鏡の前に向かう。


 櫛で髪をとかし、リボンで後ろにまとめる。

 ちなみに、この櫛はライアが使わなくなったものを譲ってもらったのだ。

 最後に、鏡に映った自分をじっと見つめる。


「私、私、うん、大丈夫。いい感じだ」


 よし、口調の練習もばっちりだ。


「今日は初めての討伐依頼だし、気合入れていかなきゃな」


 そんなことを考えていたら、ドアをノックする音が聞こえた。


「おはよー、キアラ。起きてる?」


 ライアの声だった。


「あっ、はい。起きてます。ちょっと待ってくださいね」


 両手を広げ、アイテムボックスからワンピースを取り出し、ぱっと装着する。

 そして、ライアとミネッサと一緒に一階に下りて朝食をいただく。


「キアラは今日はシルとリバークラブの討伐だっけ?」


「はい、レベル上げにもなるかと思ったんでやってみようかと」


「たしかに、初心者向けの相手ではあるわね。リバークラブは数は多いけど、一匹あたりのレベルは十以下だからね」


 なるほど、フォレストウルフよりは弱いってことかな?

 まぁでも、所詮は蟹だ。

 数が多いのは厄介だけど、一匹ずつなら何とかなるだろう。


「はむはむ。でも、ハサミは危険」


 ミネッサがパンを齧りながら呟いた。


「そうね、もしキアラも戦うなら最初はシルに数を減らしてもらってからがいいと思うわ」


「なるほど、わかりました」


 しかし、ライアがそこまで言うってことはシルファってかなり強いのかな?

 見た目は可愛い女の子だけど、どんな戦い方をするのかちょっと楽しみだな。

 食事を済ませて少し待っていると、準備を終えたシルファがやってきた。


「キアラさんお待たせしました。じゃあ行きましょうか」


「あっ、はい」


 いつもは白いエプロンを付けていたのだが、今日は軽鎧を身に着けていた。

 腰には剣を下げているのだが、手には木剣を持っていた。


「あれ? なんで木剣を持ってるんですか?」


「ああ、リバークラブは切るんじゃなくて叩いて倒すんですよ」


 話を聞いてみると、リバークラブは食材としての価値が高く、出来れば切らないで持って帰りたいらしい。頭が弱点なので、そこを木剣で殴って倒すのが一番いい倒し方なんだそうだ。


 なるほど、じゃあまた木の枝でも拾ってバットでも作った方がいいかな?

 後でこっそり作ってみよう。


「よし、じゃあライアさんミネッサさん。行って来ます」


「ええ、気を付けてね」


「キアラ、怪我しないようにね」


 手を振る二人に見送られて、私とシルファは宿屋を後にした。


 ◇ ◇ ◇


 そのまま城門を出て、二人で街道を歩いていた。


「そういえばキアラさん、武器は持ってるんですか?」


「うーん、そうですねぇ……あっ、ちょっと待っててくださいね」


 私は歩きながら周囲を見回し、大き目な木の枝を見つけた。

 近づき手に取ってみると、太さもいい感じだ。

 シルファからはこの角度なら何をしてるのか見えないだろう。


「よし、これならいけるだろ《神具創造》」


 枝が淡い光に包まれる。

 そして、次の瞬間。

 森で作ったのと同じようなバットが出来ていた。

 私はバットを掲げ、シルファに見せる。


「こんな武器どうですか?」


「……えっと、キアラさん。それは何ですか?」


「これはバットっていって、殴るための道具なんです」


「へぇ、殴るための道具……ですか?」


 シルファは不思議そうにバットを眺めていた。

 まぁ、この世界に野球なんてないだろうし、知らなくても当然だろう。


「これならリバークラブの頭を叩けるでしょ?」


「そ、そうですね……。ちょっと持ってみていいですか?」


「あっ、どうぞ」


 シルファはバットを受け取ると、上段に構え一気に振りぬいた。


 ――ビュン!

 風を切る音が静かな街道に響いた。

 おお、なんかすごく様になってるな。

 しかし、シルファは少し困ったような表情を浮かべた。


「うーん、少し重いですね。先が太くなってるから当てやすいかもしれないですが、リバークラブは動きが速いのでもう少し細いのがいいと思いますよ」


 なるほど、じゃあ細くて硬い物の方がいいのか。

 私はふと、シルファの木剣に視線を向けた。


「あの、その木剣見せてもらっていいですか?」


「あっ、はい、いいですよ」


 私は木剣とバットを地面に並べて見比べた。

 だったらこのバットを木剣に変えればいいんじゃないか?


「木剣になれ!《神具創造》」


 バットが淡い光に包まれる。


「えっ、なにこれ?」


 シルファが慌てて目を塞ぐ。

 次の瞬間、バットはシルファが持っていたのとそっくりな木剣になっていた。


「よし、うまくいった」


 だが、そこでシルファが唖然としていることに気づいた。

 しまった、ついやってしまった。


「あっ、私って錬成師だから。こういうことも出来るんですよ」


「へぇ、錬成って初めて見ましたけど、こんな風に作るんですね」


 シルファは目を輝かせながら、二本の木剣を見比べていた。

 すみません、たぶん違うと思います。

 でもまぁ、納得してくれたならいいか。

 シルファが素直ないい子で助かった。


 ◇ ◇ ◇


 武器も出来たのでそのまま川を目指して歩いた。

 そして、街道から少し外れた場所に大きな川が見えてきた。


「キアラさんあそこですよ。あの川にリバークラブがたくさん住み着いてるそうです」


「へぇ、結構大きな川ですね」


 深さはそれほどでもなさそうだが、幅は数十メートルはあるだろう。

 そのままゆっくりと二人で河原に向かう。

 岩陰から川岸を覗くと、赤い生き物がカサカサと歩き回っていた。


「あれがリバークラブです、なんだか思ったより数が多いですね」


「えっ、あれなの?」


 なんだか思ってたのと違うんですけど。私は手のひらサイズの蟹を想像してたのに、目の前にいるのは明らかに別物だった。


 赤い甲羅に覆われた体。大きな二本のハサミ。そして、左右に広がる八本の脚。

 そこまでは普通の蟹だ。


 だけど問題なのは大きさだ。

 足を広げると五十センチくらいはあるだろうか。

 前世で見たズワイガニよりも、さらに大きい。


 ……いや、これ、本当に蟹なの?

 特になんだよあのでっかいハサミ。

 あんなのに挟まれたら絶対痛いだろう。


「《鑑定》」


 たくさんいる中の一匹を鑑定してみた。


【リバークラブ Lv7】

『川に生息している蟹の魔物。大きなハサミで攻撃してくる。頭部が弱点※食用可』


 レベルは7か。

 っていうかなんか弱点が表示されるようになってるな、鑑定がレベル2になったからか? 私がそんなことを考えていると、シルファは木剣を構えた。


「じゃあ、私がある程度倒しますので、キアラさんは少し待っていてくださいね」


「えっ、一人であれと戦うんですか?」


「大丈夫ですよ、私は連撃スキルを持ってますから。数を相手にするのは得意なんです」


 ニコッと笑ってシルファがリバークラブの前に飛び出した。

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