第20話 新たな勇者ってマジですか?
突如目の前に現れた女性は、ゆっくりと目を開き俺を見た。
「アリシア、この人ってもしかして――」
女神さまなのか?
そう聞こうとしてアリシアに視線を向けると、彼女は地面に両手をつき、頭をこすりつけるように平伏していた。
「えっ、お前何してるの?」
俺が声を掛けると、アリシアはガバッと顔を上げた。
「ティリスせんぱぁーい。私を天界に帰してくださーい!」
女性の足元に縋りつくように、懇願していた。
うん、たぶんこの人も女神さまなんだろうな。
見た目はおっとりした感じだが、ちゃんとした女神さまならありがたいんだけど。
そんなことを考えていたら、その女性はアリシアに声を掛けた。
「あらあら、アリシアちゃんったら、どうしたのかしらぁ?」
「私、人間界で生きていくとか無理です。先輩からイシュタルさまにお願いしてもらえませんかー?」
「ダメですよぉ。これはアリシアちゃんのミスなんですから、ちゃんと責任を取らないといけませんよぉ」
「うぅ、そんなぁ~」
アリシアはがっくりと肩を落とした。
「さて、あなたが神具創造を与えられた転生者ですねぇ」
「あっ、はい。キアラです。あの、あなたは?」
「私は女神ティリス。一時的にこの世界の管理者代理に選ばれちゃいましたぁ」
ティリスはそう言ってニコッと笑った。
なんだかすごく優しそうな女神さまだな。
それにアリシアより遥かに頼りになりそうな気がする。
「ではキアラさん。今日はあなたにお話があるんですぅ」
俺に話?
これは間違いなく神具創造についてだろうな。
もしかして、能力を取り上げられちゃうとか?
「えっと、俺がアリシアからもらった能力の件でしょうか?」
「そうですよぉ、神具創造はレベル10になると神具を作れるだけでなくぅ、自分や他者に神格を与えたりぃ、神獣なんかも作れちゃうんですぅ」
「はぁ? 神格を与えるって……神さまになるってことですか?」
「そうですねぇ、ですのでいくつかの行為を禁止にしちゃいまぁす」
「禁止って、神格を与えたり神具や神獣を作ることをですか?」
「神具の作成は一部認めますよぉ。ただし神格付与と神獣創造は禁止ですぅ」
なるほど、どうやら能力を取り上げられるわけではないようだ。
それに神具は作ってもいいんだな。
しかし、神格や神獣ってよく考えたら凄いことだよね。
自分や身内とかを神にしてやりたい放題できるってことだろ?
たぶんそれが世界が滅んだ原因なんだろうな。
「わかりました。俺はこの世界で平穏にのんびり暮らしたいだけなんで、必ず約束は守ります」
「あら? 平穏にのんびりですかぁ?」
俺の言葉を聞いてティリスはなぜか首を傾げた。
「アリシアちゃん、キアラさんに説明はしてないんですかぁ?」
「えっ? 説明って……なんのですか?」
「なるほどぉ、では一から説明しないといけませんねぇ」
そう告げると、ティリスはそっと目を閉じた。
そして――。
ティリスの体がふわりと宙に浮き、光に包まれた。
「えっ、なにこれ?」
「キアラ、膝を着きなさい!」
「どういうこと?」
「ティリス先輩が真の女神モードを発動したのよ。ほら早く」
アリシアが俺を強引に座らせた。
「真の女神? いったいなんだっていうんだ……えっ?」
次の瞬間、女神ティリスの表情が一変した。
それまでのぽわわんとした雰囲気は消え去り、引き締まった表情になった。
「輝山晃さん、本来あなたは死ぬ予定ではなかったのです」
表情だけでなく口調まで平坦になっていた。
「はい? どういうことなんですか?」
「何らかの因果の乱れによってあなたは亡くなったのです」
「因果の、乱れ?」
なんだかよく分からない。
俺はあの日、いつものように会社から帰っていただけだ。
本当ならあそこで死ななかったってこと?
じゃあなんで死んだんだ?
スマホで読んでたラノベがちょっとエッチだったから、読むのに集中しすぎたせいか? まさか俺のスケベ心が因果を乱したとか?
そんなことを考えている間にも、ティリスは淡々と話を続ける。
「そしてこの世界の勇者が死に、天界のシステムが後任を探しました」
「後任? それが俺なんですか? でもアリシアは転生者リストに俺の名前はないって言ってましたけど?」
「リストが作成される前にシステムが急遽あなたを選んだのです」
「なんで、俺が?」
「勇者に選ばれる条件、それは『強い思いを持つ者』なのです」
強い思い?
それってもしかして。
「あの……まさか俺の『美少女になりたい』って願いが、システムに選ばれたってことですか?」
「そうです。とても強い願いだったようですね」
「いや、普通そういうのって誰かを助けたいとか平和を守りたいとかいう思いが選ばれるんじゃないんですか?」
「願いの内容までは、選出条件に含まれていません。悪しき願いでなければですが」
ってことは俺の魂は誤配ではなく、ちゃんと理由があって呼ばれたのか。
いや、待て。
「あの勇者の後任ってどういうことですか? まさか俺が勇者になって、魔王と戦えなんて言いませんよね?」
「あなたが戦う必要はありません。この世界にも勇者候補は何人かいます」
なるほど、なんとなく話が見えてきた。
だから神具創造で神具を作るのは許可してくれたのか。
「勇者候補……ということは、もしかして俺がその勇者候補に武器なんかを作って支援すればいいということでしょうか?」
「そのとおりです」
ティリスは、まっすぐに俺を見つめた。
先ほどまでの柔らかな笑顔が消え、静かな威厳がその表情に宿る。
「転生者キアラよ、女神ティリスの名において、あなたを勇者と認めましょう」
「……はい?」
「三人の勇者候補を見つけ出し、彼らと協力して魔王軍の侵攻を止めなさい。そして、この世界を守るのです」
ねぇ、なんかとんでもないことを言われなかったか?
勇者って言った?
誰が?
えっ、もしかして……俺?
「いやいや、どうして俺が勇者になるんですか?」
「天界のシステムがあなたを新たな勇者として選んだからです。そして私もあなたなら信用できると思いました」
「信用って……会ったばかりですよね?」
「あなたのこれまでの行動は天界の記録で確認しました」
えっ、それって、アカシヤキレコードとかってやつ?
もしかして魔法少女着替えとかも記録に残ってたりするのか?
ちょっと恥ずかしいな。
「あなた自身も勇者ですが、戦う役目は他の者に任せてもかまいません。神具を一つずつ与えることも許可しましょう」
支援役に徹していいってことか……。
でも、これ勇者になるって決定なの?
えっ? じゃあ俺の美少女満喫スローライフはどうなるの?
真剣に悩んでいると、ティリスはアリシアに視線を向けた。
「女神アリシア」
「はっ、はい!」
突然名前を呼ばれアリシアが飛び跳ねた。
「制限されていた女神としての能力を一部開放します。そして新たな勇者のサポートと監視の任を与えます」
そう言ってティリスは、紙の束をアリシアに手渡した。
「えっと、これはなんでしょうか?」
アリシアが紙束を受け取り、おずおずと尋ねる。
「あなたが見落としていた書類です。しっかり目を通しておいて下さいね」
「はい、わかりましたー!」
そしてティリスは俺に視線を向けた。
「転生者キアラよ、あなたの使命は三人の勇者候補を見つけ出し、神具創造で支援することです。彼らと協力して、魔王軍の侵攻を止めなさい」
「えっ、あの……勇者候補がどこにいるかは教えてもらえないんですか?」
「三人には私の加護を与えています。それにあなたはすでに勇者候補の一人と出会っています」
「え?」
出会ってる?
誰だ? まさかライアさんたちなのか?
それとも朝ギルドにいた中の誰か?
「それでは、またお会いしましょう」
そう告げると、ティリスの姿は足元からゆっくりと消えていった。
その直前、彼女はふと思い出したように声を上げた。
「あっ、準備ができたらまずは王都に向かってくださいねぇ」
ぽわわんとした声を残し、ティリスは完全に姿を消した。




