第19話 魔道具
俺は気を取り直して、今やるべきことは何かを考えた。
「……うん、わからん」
考えても答えが出そうにないし、ひとまず保留だな。
神具創造が世界を滅ぼしたと言われても、いまいちピンとこない。
とりあえず今は目の前の牛乳が先だ。
チーズがうまく完成したのはいいが、まだバケツ五杯分の牛乳が残っている。
「なぁ、他も加工した方がいいのか?」
「今日販売用の牛乳はバケツ三杯もあれば足りるでしょうけど、何を作るつもりなの?」
「そうだな、バターとかどうかな? ちょうど塩も残ってるし」
「いいわね、きっとおじいさんも喜ぶと思うわ」
「よし、試してみよう」
アイテムボックスからバケツを一つ取り出し、四角いバターをイメージしながら手を翳す。
「バター来い! 《神具創造》」
牛乳が淡い光に包まれる。
やがて光が収まった。
バケツを覗き込むと、黄金色の四角い塊ができていた。
「おお、これうまくできたんじゃない?」
ちょっと行儀が悪いかもしれないけど、指先にバターを付けてペロッと舐めてみる。すると、程よい塩気と濃厚なバターの香りが口の中に広がった。
「うん、バターだこれ!」
「えっ、本当に出来たの?」
アリシアも驚いた様子でバケツを覗き込み、同じように指先にバターを付けて、パクっと指をくわえた。
「あら、これほんとにおいしいわね。さっそくおじいさんのところに持って行きましょう」
俺たちはチーズとバターが入ったバケツを持って、牛舎を後にした。
アリシアの後をついて、牛舎のすぐ近くにある小屋へ向かう。
たぶんここが工房なんだろう。
入口には、牛乳瓶の絵が描かれた看板が掲げられていた。
どうやら、ここで牛乳の販売もしているようだ。
扉を開けて中に入ると、白い髭を蓄えたおじいさんがいた。
「おじいさん、しぼった牛乳持ってきましたよー」
「おや、すまないねぇアリシアちゃん。じゃあそこの瓶に入れていってもらえるかい?」
「はーい。あっ、それから依頼を受けてくれた冒険者が来てくれてるんですよ」
アリシアが俺を手で指し示す。
「えっと、錬成師のキアラです。よろしくお願いします」
とりあえず自己紹介をして、ぺこりと頭を下げておいた。
「おや、来てくれたんだねぇ。助かるよ」
おじいさんは髭を撫でながら嬉しそうに微笑んだ。
「あの、牛乳が余るって聞いたんで錬成でチーズとバターを作ったんですが……」
恐る恐るバケツに入ったチーズとバターを見せる。
「ほう、これは凄いのぅ、錬成師っちゅうのはこんなことができるのかい?」
「あはは、そうですね」
うん、これくらいなら錬成師にもできるはずだ。
……たぶん。
おじいさんはチーズとバターを交互に見つめ、興味深そうに髭を撫でた。
「よし、お昼に商人が来るから見てもらおうかのぅ。高く売れたらキアラちゃんにもいくらか追加報酬を出させてもらうよ」
なんと、追加報酬!
それはめちゃくちゃありがたい。
だったらもう少し頑張っちゃおうかな。
「あの、まだバケツ四杯分あるんですけど。余ったらもう少しチーズ作りましょうか?」
「それは助かるねぇ。じゃあそこにある瓶に入りきらない分をお願いしていいかい?」
俺は瓶に視線を向ける。
一リットルくらいの瓶が三十本並んでいた。
これなら、バケツ一杯分くらいは余るだろう。
「わかりました!」
「じゃあ、ワシは地下の貯蔵庫へ行ってくるから、後は任せたよアリシアちゃん」
「はい、任せてください」
軽く手を振りながら、おじいさんは小屋から出ていった。
俺はアリシアと一緒に、販売用の牛乳を瓶に詰めていった。
三十本の瓶を並べ終えても、まだ牛乳が余っている。
「うん。やっぱり、一杯分くらい余ったな」
「そうね、これもチーズにしちゃう?」
「そうだな。捨てるのはもったいないし」
俺は残った牛乳と塩を使い、もう一度神具創造でチーズを作った。
「じゃあ、とりあえず瓶に入れた牛乳はここに入れて頂戴」
アリシアが木でできた大きな箱を指さした。
「えっ、なにそれ?」
「ふっふーん。これはねぇ」
得意げに胸を張りながら、もったいぶるように俺を見る。
ゆっくりと取っ手を引くと、箱の中からひんやりとした空気が流れ出した。
「それってもしかして……」
「そう、あなたの前世の世界でいうところの冷蔵庫みたいなものなのよ」
「……この世界にも冷蔵庫ってあるんだ」
「ええ、こんな感じの便利な魔道具は結構あるのよ」
「魔道具? ってことはもしかして、それ作ったのって錬成師なのか?」
「そうよ、といってもこれが作れるのはかなり熟練の錬成師じゃないと無理みたいだけどね」
なるほど。俺も頑張ってレベルを上げれば、こんな魔道具を作れるようになるかもしれないんだな。
いや、正直作りたい。前世であった便利な道具をこの世界でも再現できたら、かなり稼げるんじゃないか?
……これは、ちょっと本気で考えてみる価値がありそうだ。
うまくいけば、安全な街の中で自分のお店を開いてのんびり暮らすという夢も叶うかもしれない。
「何をニヤニヤしてるの?」
「あっ、ごめん。ちょっといろいろと妄想を……えっ?」
アリシアに言い訳をしようとしたその時。
目の前が眩い光に包まれた。
「うわっ、なにこれ?」
思わず声を上げ、目を閉じた。
耳鳴りがしたわけでも、何かが壊れたわけでもない。
それなのに、周囲の音がすっと消えた。
「これって……まさか!」
そんなアリシアの声が聞こえて、恐る恐る目を開ける。
そこは、たしかに先ほどまでいた小屋の中だ。
だが、何かがおかしい。室内は青白い光に包まれ、まるで時間が止まってしまったかのように静まり返っていた。
「アリシア、これってなんなんだ?」
「しっ、静かに。来るわよ」
「えっ? 来るってなにが……」
次の瞬間、俺は目を見開いた。
何もない空間が、ゆっくりと歪む。
そこから、長い金髪をなびかせた女性が姿を現した。




