↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/26

第18話 代理の女神

 出来上がったチーズをバケツから取り出す。持ち上げると、ずっしりとした重さが腕に伝わってきた。見た目もちゃんとしたチーズだし、鼻を近づけてみるとしっかりチーズの香りがする。


 うん、神具創造は食品もちゃんと作れるんだな。

 でも食べ物だし一応、調べておこう。


「《鑑定》」


【上質なチーズ】

『長期保存可能なおいしいチーズ』


「うん、うまくできたみたいだ」


 でも、上質ってなんだろ?

 これは神具創造の使い方に慣れてきたってことなんだろうか?


「やっぱりすごいわねその能力」


「あっ、そうだ。俺、錬成師になったから、これは錬成で作ったってことにしておいて」


「それはいいんだけど……」


 すると、アリシアは一度目を閉じ、少しだけ真剣な顔で俺を見る。


「どうした?」


「キアラ、私も詳しくは知らないんだけどその能力はすごく危険なのよ。絶対に悪いことには使わないって誓える?」


「えっ、悪いこと?」


「そうよ、実際に神具創造で過去に二つの世界が滅んでるらしいのよ」


「……はぁ!?」


 思わず大きな声を出してしまった。

 その声に驚いたのか、牛たちが俺の方をジッと見ていた。

 しかし、今はそれどころではない。


「世界が……滅んだ? ……二つも?」


 ちょっと待て、俺がもらったのは、服やチーズを作れる便利な能力のはずだ。

 それが、世界を滅ぼす?

 どう考えても話がつながらない。

 俺は思わず、自分の手を見つめた。


「なんでそうなったのかは聞いてないからわからないんだけどね」


「いや、聞いとけよ。めちゃくちゃ大事なことだろそれ!」


 思わず額を押さえた。

 どこまでポンコツなんだこの女神は。

 俺の中にわずかに残っていた女神アリシアに対する敬意が、その瞬間すべて消え去った。


「だって、聞く前に追い出されちゃったんだもん」


「だもん、じゃねえよ。むしろ今からでも聞いてきてほしいんだけど? 天界に連絡とかできないのか?」


「無理よ、私だって連絡したいけど、今この世界担当の女神いないはずだし」


「えっ、担当がいないって……この世界大丈夫なの?」


「たぶんそのうち代理の女神が決まるはずだから。少なくともそれまでは連絡は取れないのよ」


 なるほど、代理が決まれば詳しい話も聞けるのか。

 たしかに重要な話ではあるけど、別に今すぐ聞かなきゃいけない案件ではないよな。


 いや……本当にそうか?

 世界が二つも滅んでるんだぞ。

 放置していい問題じゃないような気もするんだけど。

 うーん、でも待つしかないんだからしょうがないか。


「代理が決まれば話を聞けるんだな?」


「ええ、たぶんだけどね」


 ……とぼけた表情でそんなことを言っているアリシアを見て、少し不安になったけど、まぁしかたない。


 代理の女神さまがちゃんとした女神さまであることを祈ろう。

 いや……誰に祈ればいいんだこれ?


 ◇ ◇ ◇


 ここは天界にある庭園。

 空はどこまでも高く、白い雲がゆっくりと流れている。色とりどりの花に囲まれた白いテーブルで、イシュタルは優雅にお茶を飲んでいた。


 しかし、その表情はどこか浮かない。


「やはり、誰かに代理をお願いするしかありませんね」


 イシュタルは手元の書類に目を落とし、深いため息をついた。

 現在、この世界を担当する女神は不在である。

 正式な後任が決まるまでの間、代理の女神が管理する必要があった。


 通常であれば多少の空白期間があっても問題はないのだが、この世界には今、神具創造を持った転生者がいる。そのため、何かあった時に備えて天界からも監視する者が必要だった。


「やはり、ここはあの女神に任せるしかありませんね」


 イシュタルが指をパチンッと鳴らす。

 すると、淡い光が広がり、その中から金色の長い髪をなびかせた女神が現れた。


「イシュタルさまぁ、お呼びですかぁ?」


 呼び出された女神、ティリスは花が咲くような笑顔を浮かべた。

 そのぽわわんとした様子に、イシュタルの表情もわずかに和らいだ。


「ごめんなさいねティリス。急に呼び出して」


 女神ティリス、別の世界を管理しているベテランである。

 おっとりとした見た目だが、イシュタルからの信頼の厚い女神である。


「いえいえ、かまいませんよぉ。それで、何かあったんですかぁ?」


「そうですね、まずはお座りなさい」


 首を傾げるティリスに、イシュタルは座るように勧める。

 ティリスが席に着くと、イシュタルはお茶を一口飲み、ゆっくりと話し始める。


「実はアリシアが転生者に神具創造を与えてしまったのです」


「まぁ、神具創造ですかぁ? 確かある世界に転生した勇者が、仲間に神格を付与したりして問題になった能力ですよねぇ?」


「ええ。しかも神獣を大量に生み出したりして、世界のバランスを崩してしまったのです」


「なるほどぉ、別の世界では邪神になっちゃった人もいたそうですねぇ」


 ティリスは頬に手を当て、困ったように首を傾げた。


「ええ。だからこそ、今回は慎重に対応しなければなりません」


「それは大変ですねぇ。それで、アリシアちゃんはどうなっちゃったんですかぁ?」


「今は、その転生者の監視のため人間界に行ってもらっています」


「えっ、人間界ですかぁ?」


 イシュタルは目を伏せ、静かに頷いた。

 そして、再び目を開くとまっすぐにティリスを見つめる。


「あなたには、アリシアが担当していた世界も管理してもらいたいのです。もちろん、あなたにも自分の担当する世界がありますから、ずっと見ていてもらう必要はありません。一時的な代理として、お願いできますか?」


 その話を聞いて、ティリスは頭の中で三人の少女を思い浮かべる。

 勇者に聖女、それに――。


「ええ、かまいませんよぉ。私の世界には頼もしい子たちがいますからぁ、少しくらい目を離しても大丈夫ですぅ」


 自分が少し離れたくらいで、あの子たちが困ることはないだろう。

 そう思い、ティリスは迷うことなく頷いた。

 その言葉を聞いて、イシュタルは安心したように肩の力を抜いた。


「あなたなら安心して任せられます。自分の世界を長年、安定して管理してきた実績がありますからね」


「うふふ、そんなふうに言っていただけるなんてぇ。ありがとうございます」


「では準備ができてからで構いませんので、頼みましたよ」


「はぁい、ではまず現在の状況と注意すべき点をまとめていただけますかぁ?」


「それは後程書面を送りますので、そちらで確認してください。よろしくお願いしますね」


「はぁい、わかりましたぁ」


 話を終えると、ティリスは丁寧に一礼して立ち去った。

 こうして、女神ティリスが、キアラとアリシアがいる世界の代理女神となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。