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第16話 思わぬ再会

 人だかりをかきわけ、俺の背丈より遥かに高い掲示板の前までやってきた。

 そこには依頼書がびっしり貼られていた。


 ざっと見た感じだと、Fランクの依頼は地味なものが多い。

 清掃や荷物運びなんかがほとんどだ。

 中には『畑を荒らすスライム退治』みたいな、ギリ冒険者っぽい依頼もある。

 チラッと報酬の金額に視線を向けると、千五百ナールだった。


「うーん、ちょっと安いな」


 まぁ、昨日の報酬を基準にしちゃダメなんだろうけど。

 これじゃ一泊分の宿代しか稼げないな。


 そんなことを考えながら依頼書を眺めていると、昨日エルナが言っていた牧場のお手伝いの依頼もあった。


「牧場か……なになに、乳しぼりに牛舎の清掃、牛のエサやり。その他雑用か……」


 仕事内容だけ見ると、完全に牧場のアルバイトだ。

 これは本当に冒険者への依頼なのか?

 首を傾げながら、報酬を確認すると――。


「四千五百ナール?」


 他のFランクの依頼と比べると、かなりいい報酬だ。

 こちらの金銭感覚はまだはっきりと掴めてないけど、宿代三日分だ。

 そう考えると、悪くないか。


 街の外の依頼を受けるためにはランクを上げなきゃいけない。

 いや、別に外で魔物と戦いたいわけじゃないんだよ。

 正直まだ怖いし。


 でも、神具創造で作れる物を増やしたい。

 それに魔法少女みたいな着替えを極めるために、アイテムボックスや魔法レベルも上げたい。


 そのためには、魔物との戦いも避けては通れないんだろう。

 だから、まずは地道に依頼をこなすしかないな。


「よし、これにしよう」


 俺は依頼書を掲示板から剥がした。

 しかし、まさか冒険者になって初めての仕事が、牧場のお手伝いになるとはね。


「でも、なんで牛が急にそんなに乳を出すようになったんだろ?」


 依頼書には詳しい原因までは書かれていない。

 まぁ、行けば分かるか。

 そう考えながら、俺は依頼書を持って受付のエルナの元へ向かった。


「あの、エルナさん。これ受けたいんですけど」


「あっ、キアラさん。えーと、昨日おすすめした牧場の依頼ですね」


「はい、報酬も悪くないんでやってみようかと思いまして」


「ふふっ、そうですね。最初は安全な依頼の方がいいですよ。はい、では受理いたしました。こちらが牧場の地図になります」


 エルナが依頼書と手書きの地図を渡してきた。

 土地勘がないからこれはありがたい。


「依頼が完了しましたら、依頼書にサインをもらってきてくださいね」


「ああ、そういうことなんですね。わかりました」


「では初依頼、頑張ってください」


「はい、ありがとうございます。エルナさん」


 エルナに会釈をして、俺はライアたちの所へ向かった。


「あら、キアラ。どれを受けるか決まったの?」


「牧場の仕事を受けることにしました。とりあえず数日分の宿代だけでも稼ごうと思いまして」


「へぇ、結局それにしたのね。ふむふむ、報酬も悪くないわね」


 ライアが依頼書に軽く目を通して、納得したように頷いた。

 うん、経験豊富な冒険者が悪くないって言ってるなら、とりあえずはこれを選んで正解だったのだろう。


「じゃあ、行ってきます。ライアさんたちも討伐頑張ってくださいね」


「ええ、さくっと片付けてくるわ。頑張ってね」


「キアラ、またね」


 俺は手を振るライアとミネッサに見送られながら、ギルドを後にした。

 牧場までは、ここから歩いて三十分くらいらしい。


「はぁ、やっぱり移動は徒歩なんだな」


 いや、馬車はあるんだけどタクシーみたいにどこでも乗せて行ってもらえるわけではないだろう。当然お金もかかるはずだ。


 そうだ、神具創造で自転車とか作ったら売れるかな?

 でも、いろんな素材が必要になるだろうな。


「鉄とかゴムがあればできるだろうか?」


 うーん、材料が手に入るかは分からない。

 そもそも、この世界にゴムなんてあるのか?

 そんなことを呟きながら、テクテクと少し人通りが増えてきた大通りを歩いた。


 地図を眺めながらしばらく歩くと、木の柵に囲まれた牧場が広がっていた。

 それほど大きくはないが、木造の牛舎があり、その奥には牧場主の家らしき建物も見える。脇には小さな畑なんかも見えた。


「ここかな? えーと、入り口はあそこかな?」


 入口らしき門に近づき、扉を開く。

 とりあえず牛舎に行けばいいんだろうか?

 そう思ったので牛舎に向かって歩いて行くと、中に人がいるのが見えた。


 デニムのオーバーオールに麦わら帽子を被った……女性かな?

 牛の乳しぼりをしているようなので、そっと声を掛けた。


「あの、すみません。冒険者ギルドの依頼を受けてきたんですが」


「えっ、ほんとに来てくれたの? よかったー! 人手が足りなくて困ってたのよ」


 その女性は勢いよく立ち上がって、大喜びだった。


 あれ?

 なんかどこかで見たことがあるような……特にあの薄紫色の長い髪。


「あら? あなた……」


 女性がゆっくりと近づいて来る。

 そして、顔を覗き込むようにして、じっと俺を見る。


「ちょ、ちょっと近くないですか?」


 あまりにも距離が近いので、思わず一歩後ずさってしまった。

 でも、近くで見ると間違いなく見覚えがある。

 この人……いや、こいつもしかして。


「あなた……もしかして晃なの?」


「ああ、やっぱりお前かぁー!」


 思わず叫んでしまった。

 俺を全裸で森に放り出した張本人だ。

 でも、なんでこんなところに?


「いや、なんでお前がここにいるんだよアリシア!」


「あなたのせいで天界を追い出されたからよ!」


「はぁ? 追い出された? 俺のせいってどういうことだよ」


「あなたに神具創造あげちゃったから主神さまに怒られて、追い出されたのよ!」


 主神さま?

 だめだ、まったく意味がわからん。

 なんでそれで俺のせいになるんだ?


「いや、神具創造はお前がくれるって言ったんだろ?」


「そうだけど、そんな危険な能力だなんて知らなかったのよ」


「だったらそれは完全にお前の確認不足だろ」


 どう考えても俺は悪くない。


 ……いや、待て。

 今、聞き捨てならないことを言わなかったか?


「なぁ、危険な能力って言った?」


 さっきまで頭に上っていた血が、一気に引いていく。

 アリシアも真剣な表情で話を続ける。


「そうよ、神具創造は世界を崩壊させちゃうかもしれない能力なのよ!」


「……はい?」


 思わず、頭の中が真っ白になった。

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