第15話 冒険者の朝
窓から差し込む日差しと、鳥の鳴き声で目を覚ました。
「知らない天井……」
うん、昨日見たから知ってるんだけどね。
そんな感じで言ってみたいセリフリストを一つ消化して起き上がる。
「ふぁ~、よく眠れた」
起き上がり、大きく伸びをする。
「さて、今日から冒険者だ。錬成師として頑張ろう」
そんな風に気合を入れながらも、そっと体を動かしてみる。
昨日あれだけ歩いたんだ。
もしかしたら筋肉痛になってるかもしれない。
そう思ったのだが――。
「あれ? なんか全然平気だな」
もしかして、この体は思った以上に丈夫なんだろうか?
そういや俺、霊神人とかいうよく分からない種族だったな。
後でライアたちに聞いてみようかな?
しばらくそんなことを考えていたら、ノックの音が響いた。
「キアラー、起きてる?」
「あっ、はい。ちょっと待ってください」
まだ下着姿のままだ、服を着ないと。
俺は両手を広げ、その場でくるくる回りながらアイテムボックスからワンピースを取り出す。すると、体にふわっとワンピースが現れた。
「うーん、なんか思ってたのと違うな」
魔法少女みたいに、こう――キラキラッ! クルッ! シュパッ! みたいなのをイメージしたのに。
一瞬で終わってしまったので、少し物足りない。
これはもう少し改善する必要があるな。
そのうち絶対、格好いい変身シーンを完成させてやる。
そんなことをブツブツと呟きながら扉を開ける。
「おはよう、キアラ」
「おはー」
「おはようございます、ライアさん、ミネッサさん」
そして、三人で一階に下りる。すると、奥にはいくつかのテーブル席が並び、数人のお客さんが食事をしていた。
「おはようシル、朝食三人分お願いね」
「はーい、少々お待ちくださーい」
空いている席に着き、ライアが注文すると、シルと呼ばれた少女が元気に返事をした。なんだか物凄く親しげだけど、仲いいのかな?
「あの子、知り合いなんですか?」
「ええ、あの子はシルファ。この宿屋の娘さんで、冒険者もやってるのよ」
「へぇー、あの人も冒険者なんですね」
「私と同じ剣士で、まだEランクだけどなかなか腕前よ」
「Eランク……」
普通の女の子にしか見えないのにすごいんだな。
俺も頑張らなきゃ。
少し待っていると、シルファが料理を運んできてくれた。
「おまたせしましたー!」
「ありがとう、シル」
「うむ、ご苦労」
ライアが片手を軽く上げ、ミネッサはなぜか敬礼をしていた。
いや、なんで敬礼?
シルファは気にする様子もなく、俺の前にもパンとスープを置いてくれる。
「ありがとうございます。シルファさん」
「いえいえ、ではごゆっくり」
そのまま受付の方へ下がった。
「さて、じゃあいただきましょう」
「はい、いただきます」
「はむはむ、いたらきまふ」
「「あれ?」」
俺とライアが手を合わせている間に、ミネッサはすでにパンを食べていた。
苦笑しながら、俺もパンを手に取る。
昨日行った食堂のパンも美味しかったけど、これも柔らかくておいしい。
次にスープ。具は野菜と干し肉だろうか?
恐る恐るスプーンですくって口に運ぶ。
「うん、あっさりしてておいしい」
とろとろに煮込まれた玉葱の甘みが、干し肉の塩気を包み込んでいる。
朝からでも、しっかり食べられる味だ。
なんというか、異世界の食事って感じで少しテンションが上がった。
そして、食事が終わると。
「さっ、じゃあギルドに行きましょうか」
「えっ、こんなに早く行くんですか?」
時計がないので今が何時かは分からないけど、外の様子からしてたぶんまだ早朝だろう。
「そうよ、早めに行かないといい依頼を取られちゃうのよ」
「ああ、なるほど」
冒険者の朝は早いらしい。
宿を出ようと立ち上がると、ライアがこっそり話しかけてきた。
「それとね、私たちのパーティメンバーにはキアラのこと話しておこうと思うんだけどいいかな?」
まぁ、別にそのくらいなら問題ないかな?
「はい、ライアさんの仲間なら信用できると思うんでいいですよ」
「ふふっ、ありがとう。じゃあ行きましょうか」
俺たちは宿を出て、まだ人の少ない大通りを歩き、ギルドへやってきた。
扉を開けて中に入ると、朝早いというのにすでに数十人の冒険者が集まっていた。
「うわ、もうこんなに人がいるんですね」
「朝一番に新しい依頼が貼り出されるからね。みんな少しでも条件のいい依頼を取りたいのよ」
「なるほど。依頼争奪戦か……」
冒険者って意外とシビアなんだな。
「ライア、みんな来てる」
「あら、本当ね。キアラ、私たち『四花の輝石』のメンバー紹介するわ」
そんなパーティ名だったのか。ちょっとカッコいいな。
「あっ、はい」
どんな人たちなんだろ?
ライアたちは、二人の女性が座っている席に向かって歩いて行った。
一人は軽鎧をまとった亜麻色の髪の女性。
もう一人は、薄い青髪の女性だ。
「おはよう、二人とも。いい依頼あった?」
「おっ、ライアにミネッサ。やっときたか。おや、その子は?」
鎧姿の女性がこちらを見る。
「彼女はキアラ。昨日シナノの森で出会ったのよ」
そして、ライアはその女性に近寄り、耳元でささやく。
「キアラはアイテムボックス持ちなの」
「へぇ、それはすごいな」
「あっ、どうも……」
よく分からないのでとりあえず軽く会釈をしておいた。
「ああ、ごめんね。彼女はディオナ、戦士よ。それでもう一人がセレネ、魔法使いなの」
「魔法使い!」
「どうしたの、キアラ?」
「あっ、俺も魔法覚えたいんですよ。よかったら今度教えてもらえませんか?」
「……魔法は素質がないと使えないよ?」
セレネは淡々とそう答えた。
「そうなんですか? でも俺ちょっとだけ使えるんですよ」
「えっ? キアラ。あなた魔法まで使えるの?」
「本当に使えるの?」
それを聞いてセレネの表情が初めて変わった。
「はい、と言ってもこのくらいなんですけど。《ファイア》」
集中して手をかざす。
――ボウッ!
小さな火が発生した。
あれ? 森でやった時は火花だったのに、ちょっと大きな火になってる?
やっぱり練習すれば魔法も上達するんだな。
「ええっ? キアラ錬成師でしょ、どうして魔法使えるの?」
なぜかみんな呆然としていた。
どうしたんだろ?
全然大したことない魔法だと思うんだけど。
もしかして、錬成師で魔法使えるのは珍しいのか?
「えっと……俺、何か変なことしました?」
セレネが俺の顔をじっと見つめる。
「まぁ、錬成師でも魔法が使える人がいないわけじゃないけど……」
もしかしてこれってまずい流れ?
騒ぎになったりしないよね?
「まぁ、本当に魔法の才能があるみたいだし。いいよ、私でよければ今度教えてあげるよ」
「おお、本当ですか!? すごく嬉しいです」
「ふふっ、よかったわね。セレネはこの街でもかなり優秀な魔法使いなのよ」
よし、もっと魔法が使えるようになれば、いざというとき自分の身を守れるようになるかもしれない。戦うのはちょっと怖いけど、早くレベルを上げてできることを増やしたいし。そのためにも、地道に依頼をこなさなきゃな。
「ライアさんたちは、今日受ける依頼は決まってるんですか?」
「ああ、ゴブリンの討伐依頼が出てたから、それを受けるつもりだよ」
ディオナが依頼書をひらひらさせながら、そう答えた。
「ゴブリン……」
それってあれだよね?
異世界物定番の緑色のやつ。
俺みたいな美少女を孕ませようと襲ってるやつだよね。
うん、今は関わりたくないな。
「じゃあ俺も、ちょっと依頼探してきます」
「ええ、頑張ってね」
そして俺は、依頼書が貼り出された掲示板の前に立った。
さて、錬成師キアラの初仕事だ。




