第11話 錬成師
ライアとミネッサに連れられて、ギルドの扉を開く。
ドキドキしながら中を覗き込む。
そこにはいくつかのテーブルと椅子が並んでいた。
そして奥には受付と思われるカウンターがあり、肩まで伸びた栗色の髪をした女性が立っていた。かなりの美人だし、胸も大きい。
……なんだろう。
ギルドの受付嬢って美人で巨乳じゃないとなれない決まりでもあるんだろうか?
そんなことを考えながら中を見回すと。
もっと賑わってるのかと思ってたけど、ギルド内には受付嬢以外誰もいなかった。
「よかった、まだ他の冒険者たちは戻ってないのね」
「うん、早く戻って良かった」
「えっ、それはどういうことです?」
ってことは冒険者って普通はもっと遅い時間まで働いてるってことなの?
ちなみに今は夕方だ。
そう考えると意外とブラックな職業なのか?
「いいから、行くわよ」
そのまま三人で受付に歩いて行く。
「ライアさん、ミネッサさん。お疲れ様です。薬草採取はどうでしたか?」
「ええ、たくさん採取できたわよ」
「それで、その子はどうしたんでしょうか?」
ライアはチラッと俺の方を見た。
そして奥にある扉を指さす。
「そのことなんだけど、奥いいかしら?」
「分かりました、ではどうぞ」
ライアの真剣な表情を見て何かを察したのか、受付のお姉さんは奥の扉を開いた。
そしてライアが俺の耳元で囁いた。
「彼女は信頼できるから、キアラのスキルのこと話そうと思うんだけどいいかな?」
そういうことか、俺は少し考える。
確かに今後もしギルドを利用するなら、受付嬢には俺の能力はバレるだろう。
取ってきた素材なんかをアイテムボックスから出さなきゃいけないんだから。
それなら、最初から信頼できる人にだけは話しておいた方がいいか。
「はい、お願いします」
「ふふっ、分かったわ。ありがとう、キアラ」
ライアは軽くウィンクをして扉へと歩く。
「おお……」
思わずドキッとした。
いいなぁ、俺も自然にあんな仕草ができるようになりたい。
そう思いながらライアの後を追った。
中には大きめのテーブルと椅子がいくつか並んでいた。
「まずはお座りください」
お姉さんに勧められ席に着く。
「まず紹介するわね。彼女はエルナ。さっきも言ったけど信頼できる人だから安心して」
「このギルドの受付をしています」
エルナは俺を見て軽く会釈をした。
「あっ、俺はキアラと言います。よろしくお願いします」
「はい、キアラさんですね。それでどうしてお二人とご一緒に?」
「そうね、まずはこの子はアイテムボックスを持ってるのよ」
「えっ、それはすごいですね」
それからライアは、森で俺と出会った時のことから順を追ってエルナに説明した。
「なるほど、鑑定にアイテムボックスですか。それは確かにあまり人には言えませんね」
「やっぱり大騒ぎになっちゃいますかね?」
「そうですね、どちらか一つならそこまでではないと思いますけど」
「え? どちらか一つなら公表しても大丈夫なんですか?」
「ええ。もちろん容量にもよりますけどね。ちなみにどのくらいなんですか?」
「あっ、小さいです!」
反射的に即答していた。
なるほど、確かにいくらでも持てるのとバッグ一つ分しか入らないのとでは全然違うよな。正直、自分でもどのくらい入るのかは分からないんだけど。
でも、正直に話すよりは小さいと言っておいた方が安全だろう。
「容量を確認させていただくことは出来ますか?」
「えっと……これくらいで限界だと思います」
正直、容量はまだちゃんと調べてないんだけどね。
――ドサッ!
俺はアイテムボックスから山のような薬草と月光草、そしてフォレストウルフをテーブルの上に出した。
うん、これくらいの容量なら多分大したことないだろう。
そう思っていたのだが。
「キアラ、それを全部アイテムボックスに入れてたの?」
ライアは声を上げテーブルに手を付いて勢いよく立ち上がる。
その隣でミネッサは完全に固まっていた。
そしてエルナは積み上がった薬草とフォレストウルフを交互に見ていた。
「あれ? 俺なんかやっちゃいました?」
まさか自分がこんなテンプレセリフを言うとは思わなかった。
いやまぁ、ちょっと調子に乗って取りすぎちゃったかもしれないけど。
でも、それほどじゃないと思うんだけど?
「これは……荷馬車一台分くらいはありそうですね」
エルナは額に手を当てたまま、しばらく言葉を失っていた。
「あの、これって多いんでしょうか?」
「そうですね、普通ならこの三分の一も入れば優秀な方です」
えっ、普通はそんなもんなの?
どうしよう、思わずライアに視線を向ける。
「はぁ、私もこんなに入ってたとは思わなかった。エルナ、これ内緒にしてもらえる?」
「そうですね、分かりました。この件は私の方で上手く処理しておきます」
「ありがとう。助かるわ」
「すみません、よろしくお願いします」
良かった、騒ぎにならなくて済んだ。
しかし、この後はどうしよう?
「キアラ、冒険者登録はどうするの?」
「あっ、そうでした。エルナさん、俺も登録できますか?」
「はい、できますよ。では一度受付の方に戻りましょうか。お預かりした素材の査定は別の職員に任せますので」
俺たちは再び受付に向かった。
◇ ◇ ◇
「まずはこちらの用紙に必要事項をご記入ください」
あっ、どうしよう。
俺この世界の文字知らないんだけど。
そう思っていたのだが、いざペンを持ってみるとなぜか普通に書けた。
これも女神がくれた能力なのだろうか?
何も言わずにこんな配慮までしてくれるなんて、思っていたより親切な女神じゃないか。アリシアにちょっとだけ感謝しながら、名前と年齢を書いた。
「あの、職業とかスキルっていうのも書かないと駄目なんですか?」
「あっ、スキルはアイテムボックスだけで大丈夫ですよ。鑑定については、こちらでは記入しなくても問題ありません」
「そうなんですか?」
「はい。ギルドに申告したスキルは内部で共有されますので、必要のないスキルまで申告する必要はありません」
そうか、両方持ってたら目立つからエルナが気を遣ってくれたのか。
「分かりました。ありがとうございます」
俺は言われたとおり、アイテムボックスだけを記入した。
「書けました」
「はい、では適性を調べますのでこちらの水晶に手を乗せてください」
おお、こういうのアニメで見たことあるよ。
いかにもファンタジーっぽい水晶を見て、少しテンションが上がった。
しかし、その時。
ふと、あることが気になった。
――ギルドカードには、スキルも表示されるんだろうか?
もし表示されるなら、かなりまずい。
特に神具創造は絶対にバレるわけにはいかない。
「……あの、ギルドカードにはスキルも表示されるんですか?」
恐る恐る尋ねると、エルナは首を横に振った。
「いいえ。基本的には名前や冒険者ランク、年齢、職業などの登録情報が表示されるだけですよ」
「そうなんですか」
「はい、スキルに関してはカードには記載されません」
「では、さっき記入したアイテムボックスは?」
「ギルドの登録情報として記録されます。カードには表示されませんよ」
「なるほど。そういうことですか」
どのみち、アイテムボックスのことはギルドに話しておこうと思ってたんだ。
それなら、まぁいいか。
神具創造が知られる心配もなさそうだし。
安心したところで、透明な水晶に手を乗せてみる。
すると、淡く光を放ち、半透明のウィンドウが表示された。
「適性のある職業が表示されますので、その中から一つ選んで……えっ?」
そこには剣士や魔法使いなど、おなじみの職業が並んでいた。
「キアラさん、すごいですよ。最初から上位職も選べます!」
「へっ?」
「聖騎士や賢者、錬成師なども選べますよ」
なんだそれ?
いや、聖騎士とかはなんとなく分かるけどなんでそんなの選べるんだ?
「あの、ちなみにここで決めた職業ってどういう意味があるんですか?」
そう聞くと、ライアが説明してくれた。
「職業を選ぶとスキルの取得や成長に補正が掛かるのよ」
「補正ですか?」
「ええ、私の場合は剣士だから剣技に関するスキルが成長しやすいのよ」
「なるほど、そういうことですか」
「ただし、転職できるのは、今選んだ職業から派生する上位職だけだけどね」
ふむ、他の職業には転職できないのか。
だったら慎重に選ばなきゃいけないんだろうけど。
でも今聞いた中に一つだけ気になるものがあった。
「あの、錬成師ってどんな職業なんですか?」
「錬金術師の上位職になります。レベルを上げると魔道具だけでなく武器や防具も作れるようになります」
なるほど、でもそれは神具創造で出来るよな?
いや、待て!
これを選べば神具創造で作ったものを錬成で作ったと誤魔化せるのでは?
少なくとも、いちいち説明に困ることはなくなるはずだ。
ここは錬成師を選ぶべきか?
「ただこちらは戦闘職ではないので戦闘系のスキルの補正はありません。まぁ、まったく習得できないというわけではないですが」
「あっ、戦闘かぁ」
「まぁ生産職だものね。でも錬成師も別に戦えないわけではないわよね?」
ライアが腕を組みながら言った。
「確かにそうですが、かなりの経験が必要ですよ?」
なるほど、経験は必要だが戦えると。
ついでに戦闘スキルも補正がないだけだから頑張れば覚えられるかもしれない。
いや、俺は別に戦いたいわけではない。
だけど、この世界で生きる以上、自分の身くらいは守れた方がいいよな。
「あと、錬成師は稼げるわよ? 腕が良ければだけどね」
「マジですか!?」
「マジ、安全に稼げる。うらやましい」
それまで黙っていたミネッサが、ぐいっと顔を近づけてきた。
ふむ、安全に稼げるし、神具創造の言い訳にもなる。
それに戦えないわけでもない。
何より、俺は別に強くなりたくて冒険者になるわけじゃない。
静かに暮らせるなら、その方が絶対にいい。
前世では仕事に追われる毎日だったんだ。
だから今度こそ、好きなことをして暮らしたい。
それに剣を振り回すより、物を作っている方が楽しそうだし。
……そう考えると、錬成師って俺にぴったりの職業じゃないか?
よし、決めた。
「俺、錬成師になります!」




