第10話 冒険者
俺たちは森を抜け街道を進んでいた。
足元は思ったより平らで歩きやすい。
もちろん舗装されてるわけでも、石畳が敷かれてるわけでもない。
それでも人や馬車が頻繁に通るのだろう。道はしっかり踏み固められていた。
街道の両脇にはどこまでも緑の草原が広がっている。
何でもないような風景だが、これも前世ではなかなか見られない光景だった。
改めて異世界に来たんだなと、実感した。
……そういえばここはどこなんだろう?
「あの、ライアさん」
「ん? なにかしら?」
「今から向かうのってなんて街なんですか?」
なんて国なのか聞こうかと思ったけど、いきなりそんなことを聞いたら怪しまれるかもしれない。なのでまずは街のことから聞いてみた。
「ラテルよ。あまり大きな街じゃないけど私たちみたいな冒険者は多いわね」
「冒険者……」
異世界物では有名な職業だよな。
俺でもできるんだろうか?
「なるほど、ちなみに冒険者ってどんな仕事するんですか?」
「なに? 興味あるの?」
「はい、お金も住むところもないんで。俺でもできるのかなって思って」
「そうなんだ、冒険者って言うのは、まずギルドに登録するのよ」
「それって誰でも登録できるんですか?」
「十二歳以上なら誰でも登録できるわよ。ただし登録したばかりの新人は簡単な依頼しか受けられないけどね」
「簡単な依頼というと?」
「さっきみたいな薬草採取ね」
「えっ、あれ簡単な依頼なんですか?」
危険な森に入るのに簡単判定なの?
難易度設定おかしくない?
「ああ、あの森はシナノの森って言って駆け出し冒険者の狩場なのよ」
「あれで初級なんですか?」
「フォレストウルフ程度なら新人でも数人いれば倒せるからね」
「いやいや、俺は一匹に殺されかけたんですけど」
「それはそうよ、レベル2の女の子一人じゃ無理で当然。普通はパーティーを組んで行くのよ」
なるほど、確かにそりゃそうか。
つまり俺が弱いんじゃなくて、一人だったから駄目だったんだな。
……いや、やっぱり弱い気がする。
でもパーティーかぁ、知らない人と組むとかあまり気が乗らないな。
能力がバレても面倒だし。
「あれ? それじゃあライアさんたちも初心者なんですか?」
「私たちはDランクだから一応中堅なんだけど、今日は他のメンバーが来れないから簡単な依頼にしたのよ」
「ランクとかあるんですね」
「ええ、最初はFランク、それからE、D、C、B、A、一番上がSランクよ」
「へぇ、じゃあDランクって結構すごいんですね」
「どうかしら。駆け出しは卒業したけど、上にはまだまだ強い人がいるわよ」
まとめると、FとEが初級。
DとCが中級。
BとAが上級冒険者と呼ばれているらしい。
ちなみにSランクは大陸に数人しかいない超越者と呼ばれる存在らしい。そんなすごい人もいるんだな、さすが異世界。まぁ、ウサギ一匹に苦戦して狼に殺されそうになった俺には一生縁がなさそうだ。
その後も、冒険者の話を聞きながら歩いていると、遠くに大きな城壁が見えてきた。それはゲームやアニメでしか見たことがないような景色だった。
高い石造りの城壁が街をぐるりと囲んでいるおなじみのスタイルだ。
「キアラ、あれがラテルの街よ」
「おお! ファンタジー!」
「ふぁんたじぃ?」
ミネッサが首を傾げていた。
「あははっ。なんでもないです」
思わず口走ってしまったが、仕方ないだろう。
異世界物が好きなら、この光景に胸を躍らせないはずがない。
きょろきょろと挙動不審になりながら城門に向かって歩く。
すると、門番らしき男がこちらに気づき、俺の方を見た。
そこで重大な問題を思い出した。
「あっ、そういえば俺、入っていいんでしょうか?」
「ええ、私たちと一緒なら大丈夫よ。ほら、行きましょう」
ライアに手を引かれて門番の所へ行く。
「おう、ライアじゃないか。その子は?」
「森で迷ってたのよ、入っていいわよね?」
「そうか。入るのは問題ないが、通行税は必要だぞ」
「えっ、お金かかるんですか?」
どうしよう、俺は一文無しである。
財布の中身どころか財布すら持ってない。
諦めるしかないのか?
そう思っていたら。
「三百ナールよね。薬草探しを手伝ってもらったお礼に私が払っておくわ」
「えっ? いいんですか?」
ライアは迷う様子もなく革袋から硬貨を取り出し、門番に手渡した。
なんだか二人には助けて貰ってばかりで申し訳ないな。
お金を稼いだらなにかお礼をしないと。
「さっ、行くわよ。キアラ」
「あっ、はい」
二人について街の中に入る。
門を抜けた瞬間、街の喧騒が一気に押し寄せてきた。
「うわぁ……すごいな」
そこには賑やかな露店が軒を連ねていた。
大きな剣を担いだ人や、魔法使いのような格好をした女性など、様々な人々が街を行き交っている。行商人の呼び声と焼いた肉の香りが街中に溢れていた。
「ほら、どうしたの? 行くわよ」
思わず呆然と立ち尽くしていたらライアが背中をぽんっと叩いた。
「すみません、ぼーっとしちゃって」
「ふふっ、別にいいわよ。こんなに人が多い場所は初めてなの?」
「あははっ、そうなんですよ。ずっと田舎にいたんで」
「キアラ、ギルドはこっち」
「えっ。あっ、はい」
ミネッサに手を引かれながら大通りを少し歩いて行くと、剣を象った大きな看板が見えた。
「あれが、冒険者ギルドよ」




