第2話 ある少女の失恋
キンシンソウカーン♪
キンシンソウカーン♪
学校の開始を告げる朝のチャイム
市立 辺呂中学校
2-1
煎じて砂漠ステージの生徒たちは
今日も朝から元気よくガヤガヤと騒いでいる
あの流行りの曲かっこいい とか あの服ほしい とか
ま、それが普通ですわな
そんな教室の片隅で我関せず道といった一人の少女がいた
長い黒髪によって隠れた耳にはワイヤレスイヤホン
流しているのは『Without Me』
そして、背中を丸めて『我が闘争』を読んでいた
狂ってる?それ、誉め言葉ね。
高草木 純
彼女は学校というものが嫌いであった
イスと机の脚同士のぶつかる金属音
変声期の男子の大人とも子供ともつかない不安定な喉から発せられる不愉快な話
我が物顔で、いや、そんなことさえ意識の埒外に置いた女子の下品な笑い声
その全てが純を平穏の崖から突き落とした
なんというか喉に空気が詰まり段々と脳が死んでいくようなイメージの中に居た
あ~あ、義務教育の辛いとこね、これ
純の精神がジリジリと漸減しているそのとき
教室の門戸をくぐり一人の人間があらわれた
予鈴が鳴った以上この時間に現れるのは教師か遅刻した生徒であろう
生徒たちは、その人物に意識を向けたが教師ではないことを確認すると波のようにまた騒ぎ始めた
その人物は教室の隅にある自席に着くと純に話しかけた
「おはざんす」
純は安堵し万感を込めて言った
「おはよ、全身ボロボロだけどなんかあったの?」
「交通事故を起こして人を轢いてしまいました」
「怪我とか大丈夫なの?」
「相手はすぐに起き上がって走って逃げたから多分大丈夫だと思う」
「は?そうじゃなくてあなたの」
狂ノ進はニヤニヤと吊り上がる口角を手で引き下げながら
「見ての通りウッキウキしているよ」
純は困惑した
この彼が変なのは日常だが、今日はいつにも増して様子がおかしい
「なんで?」
狂ノ進はやはりニヤニヤしながら訪ねる
「デニニ 聞きたい?」
「うん」
「恋しちゃったんだ」
純は全身の血の気が引くのを感じた
「誰に?」
「轢いちゃった人」
「ふーん」
純は平静を装ったがその内心は、人生最高に動揺していた
だがそれを押し込め平静を装い間を繋ぐために問いかけた
「どんな人?」
「なんか温泉でしゃなりしゃなりと歩きそう人」
純はこの動揺がなぜ起こったのかに思慮を巡らせた
そしてその答えには簡単に然し大きな衝撃を伴って至った
彼女は狂ノ進に恋をしていたのだ
自分でも気づかないうちに
そういえば寝る前に狂ノ進と家庭を築く妄想をしたのは一度や二度ではないし
意味もなく彼の名前を紙に書くことも頻繁
学校が嫌いなのに毎日元気に通学していたのも彼に会いたかったからだ
この結論に至り自らの気持ちに気づいた純の心は暗くて寒い洞窟の中に忘れられたナイフのように脆く鋭くなっていった
人生初めて恋に気が付くと同時に彼女は失恋したのだ
つんのめる鼻の奥を誤魔化しながら純は自席を立った
「ごめんトイレ」
足早に教室を出てトイレへと向かい廊下を歩く
その姿はあまりにも気丈で情けなかった
ただそれでも純は極めて悠然と......それを意識し個室へと入った
失恋をした乙女がトイレですることといえば、一つしかないが彼女の名誉を慮りここでは割愛させていただく
あの一応言っておきますけど、うんこやシッコじゃないですからね。一応ね




