43:異端認定
理解は、必ず線引きを生む。
その線の外に置かれたものは――“異端”と呼ばれる。
教国・聖都リュミナ。
大聖堂最奥、封鎖された議場。
重い扉の内側。
枢機卿会議。
灯りは絞られ、祈りの声は届かない。
「……決める時だ」
最上席の男が言う。
「評価は出た」
「聖君」
その言葉が、場に落ちる。
誰も否定しない。
だが。
「……それを認めるのか」
別の枢機卿が問う。
「民は救われている」
「だが」
一拍。
「信仰が崩れている」
それが本質。
沈黙。
「……両立しない」
誰かが呟く。
「救いと、信仰は」
その言葉に。
最上席の男が、ゆっくりと目を開く。
「違う」
静かな否定。
「“救い方”が違う」
一拍。
「我らは導く」
「だが、あれは――」
「選ばせる」
その違い。
それは、決定的。
「……ならば」
一人が言う。
「放置すれば、どうなる」
答えは、誰もが分かっている。
「……信仰は崩壊する」
それが結論。
最上席の男が、ゆっくりと頷く。
「そうだ」
「ならば」
一拍。
「選ぶしかない」
静かな宣言。
「何を」
「“正しさ”を」
その言葉で。
すべてが決まる。
沈黙。
重い。
だが。
誰も、反対しない。
「……認定する」
最上席の男が言う。
「エルガード・カウフマン」
一拍。
「“異端”とする」
その瞬間。
空気が変わる。
線が引かれた。
内と外。
正と誤。
救いと、拒絶。
「……処理は」
「段階的に行う」
即答。
「直接排除はしない」
「理由は」
「民が動く」
事実。
今、彼を否定すれば。
民もまた、離れる。
「……ならば」
「“信徒”を守る」
一拍。
「切り分ける」
それが戦略。
教国は、戦いを選んだ。
森の拠点。
「……来たわね」
エルディア・ヴァレンティナが言う。
帳面に、新しい線が引かれている。
「教国、正式対応開始」
「名称」
一拍。
「“異端”」
その言葉。
レオニア・アルディウスが鼻で笑う。
「……やっとか」
待っていたかのように。
マリナ・ルクレツィアは、静かに息を吐く。
「想定通りですわね」
「ええ」
エルディアが頷く。
「ここからが、本番」
ただの影響ではない。
“敵”になる。
エルガード・カウフマンは、何も言わない。
ただ。
火を見る。
揺れている。
だが。
変わらない。
「……どうする」
レオニアが問う。
短く。
だが、重い。
エルガードは、少しだけ考える。
そして。
「変えない」
即答。
全員の視線が集まる。
「……いいの?」
エルディアが問う。
「敵になる」
「なる」
エルガードは頷く。
「でも」
一拍。
「やることは同じだ」
それが答え。
マリナが微笑む。
「……強いですわね」
「変わらないという選択」
それは。
最も難しい。
レオニアが笑う。
「いいじゃねえか」
「分かりやすくなった」
剣に手をかける。
今度は、完全な“敵”。
エルディアは、帳面を閉じる。
「……再定義ね」
敵の。
そして、自分たちの。
エルガードは、火を見る。
揺れている。
だが。
消えない。
異端。
その言葉は、重い。
だが。
それは、ただの“名前”だ。
本質は変わらない。
選ばせる。
それだけ。
そして今。
その選択が。
世界を分け始めていた。




