表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦わずに大陸を落とした男――気づけば公爵令嬢と参謀と商人に囲まれている  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/90

32:価値観衝突(利益 vs 人間性)

 正しさは、一つではない。

 だからこそ――ぶつかる。


 森の拠点。昼。


 再編が始まっていた。


 配給は止まり、列は分かれ、人は迷いながら動き始める。

 安定は崩れ、だが“停滞”もまた崩れた。


「……効率が落ちてる」


 エルディア・ヴァレンティナが言う。


 帳面を睨む。


「配給速度、三割減」


「流入数、減少」


「定着率、不明」


 冷静な報告。


 マリナ・ルクレツィアが静かに頷く。


「当然ですわね」


「“与えない”のですから」


 その声に、わずかな苛立ちが混じる。


「……本来なら」


 一拍。


「ここは拡張フェーズでしたのに」


 明確な不満。


 レオニア・アルディウスが笑う。


「止めたのはお前だろ」


「違いますわ」


 即答。


「“方向を作った”だけです」


「止めたのは――」


 一瞬だけ、エルガードを見る。


「あなたですわ」


 視線が集まる。


 エルガード・カウフマンは、何も言わない。


 ただ、火を見る。


「……説明しろ」


 レオニアが言う。


「何で止めた」


 単純な問い。


 だが、本質。


 エルガードは少しだけ考える。


「……増えてた」


 短い。


「人が」


「だから?」


「動いてなかった」


 それだけ。


 マリナが即座に返す。


「それでも、価値はありますわ」


「人がいる=力ですもの」


 論理は明確。


「人が増えれば」


「労働力になる」


「市場になる」


「影響力になる」


 一気に言い切る。


「それを切る理由が、どこにありますの?」


 鋭い問い。


 エルガードは答えない。


 だが。


 レオニアが口を開く。


「気に入らなかったんだろ」


 単純な答え。


 だが、核心。


 マリナが眉をひそめる。


「感情ですの?」


「違う」


 エルガードが言う。


 初めて、はっきりと。


「結果だ」


 一拍。


「同じになる」


 その一言で、空気が変わる。


「……何と?」


 エルディアが問う。


「教国」


 即答。


 沈黙。


 誰も、すぐには否定できない。


「……依存構造」


 エルディアが小さく呟く。


 理解が早い。


「ええ」


 マリナも頷く。


「ですが、それは“強い”構造ですわ」


「安定する」


「崩れにくい」


「長く続く」


 それが利点。


 だが。


「……止まる」


 エルガードは言う。


 静かに。


「動かない」


「選ばない」


 一拍。


「だから、変わらない」


 それが問題。


 マリナが一歩踏み出す。


「……それの何が問題ですの?」


 真っ直ぐな問い。


「変わらないことは、強さです」


「安定は、価値です」


「利益も、最大化できます」


 正論。


 完璧な論理。


 だが。


 レオニアが笑う。


「つまんねえな」


 軽く。


「それで勝っても、意味ねえだろ」


 マリナが振り向く。


「意味?」


「そうだ」


 レオニアは言う。


「生きてねえ」


 短い。


 だが、強い。


 マリナは、わずかに言葉を詰まらせる。


「……それは」


 反論しようとする。


 だが。


 エルディアが口を開く。


「……両方正しい」


 冷静に。


「利益も、人間性も」


「どっちも必要」


 一拍。


「だから、ぶつかる」


 それが現実。


 エルガードは、火を見る。


 揺れている。


 だが。


 消えていない。


「……選ぶ」


 小さく言う。


「何を?」


 マリナが問う。


「全部は取らない」


 一拍。


「動く方を取る」


 それが答え。


 マリナは、しばらく黙る。


 考える。


 そして。


「……非効率ですわね」


 小さく言う。


「そうだな」


 エルガードは頷く。


「でも」


 一拍。


「止まらない」


 その一言で。


 マリナは、完全に理解する。


「……なるほど」


 小さく笑う。


「“回る”構造ではなく」


「“進む”構造ですのね」


 言葉にする。


 エルディアが頷く。


「ええ」


「安定は落ちる」


「でも、変化する」


 それが選択。


 レオニアが笑う。


「やっとまともになってきたな」


 満足そうに。


 マリナは、ゆっくりと息を吐く。


「……修正しますわ」


 認める。


 自分の論理を。


 そして、その限界を。


 エルガードは、火を見る。


 揺れている。


 だが。


 強い。


 価値観は、ぶつかる。


 だが。


 それでいい。


 ぶつかることでしか。


 選べない。


 そして。


 選んだ先にしか。


 進めない。


 それが。


 今の答えだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ