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戦わずに大陸を落とした男――気づけば公爵令嬢と参謀と商人に囲まれている  作者: 慈架太子


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33/90

33:レオニア拒絶

 組織は、強くなるほど歪む。

 そしてその歪みは、必ず“誰か”に現れる。


 森の拠点。夕刻。


 火は灯り、配給は滞りなく進み、流れは安定している。

 補給の再構築も進み、商会との接触も整いつつあった。


 すべては、順調。


 ――あまりにも順調だった。


「……気に入らないな」


 レオニア・アルディウスが言った。


 低く、抑えた声。


 エルディア・ヴァレンティナが帳面から目を上げる。


「何が」


「全部だ」


 短い。


 だが、重い。


 マリナ・ルクレツィアが微笑む。


「抽象的ですわね」


「分かってるだろ」


 レオニアは視線を向ける。


「“上手くいきすぎてる”」


 沈黙。


 否定できない。


 補給は回る。

 情報は統制される。

 帝国は動きづらい。


 だが――


「俺は、何もしてない」


 その一言で、本質が露わになる。


 レオニアは前に出る。


「戦ってない」


 拳を握る。


「斬ってない」


 声がわずかに揺れる。


「守ってもいない」


 沈黙。


 それは、否定できない事実。


「……それが問題なの?」


 マリナが問う。


「問題だ」


 即答。


「俺の役割は何だ」


 誰も答えない。


 答えは、出ているからだ。


「……前線指揮官」


 エルディアが言う。


「だったら、前に出ろ」


 レオニアの声が強くなる。


「戦わせろ」


 空気が張り詰める。


 マリナは表情を崩さない。


「必要ありませんわ」


 即答。


 その一言が、火種になる。


「……何だと」


「今の戦場において」


 マリナは続ける。


「あなたの役割は、最適ではありません」


 静かに。


 だが、完全な否定。


 レオニアの目が細まる。


「……俺はいらない、と」


「そうは言っておりません」


 マリナは首を振る。


「ただ」


 一拍。


「“今は必要ない”と言っているだけです」


 沈黙。


 重い。


 レオニアが一歩踏み出す。


「……ふざけるな」


 低い怒声。


「戦場で、戦うなって言われて納得できるか」


「できますわ」


 マリナは即答する。


 レオニアの動きが止まる。


「結果が出ているなら」


 その一言で、場が凍る。


 正論。


 そして――残酷。


「……結果」


 レオニアが繰り返す。


「結果のために、全部捨てるのか」


「捨てていません」


 マリナは言う。


「選んでいるだけです」


 その言葉。


 エルガードの言葉と同じ。


 レオニアの視線が、エルガードに向く。


「……お前も、そう思ってるのか」


 エルガードは答えない。


 ただ、見ている。


 レオニアは、ゆっくりと息を吐く。


「……分かった」


 短く言う。


「じゃあ、俺はやらない」


 空気が変わる。


「……何を」


 エルディアが問う。


「全部だ」


 レオニアは答える。


「戦わないなら、指揮もしない」


 それは、拒絶。


 組織に対する。


 やり方に対する。


「……抜けるの?」


「違う」


 即答。


「ここにはいる」


 一拍。


「だが、従わない」


 明確な線引き。


 マリナがわずかに目を細める。


「……それは、組織を壊しますわ」


「知るか」


 レオニアは言う。


「俺は俺のやり方でやる」


 その言葉に、迷いはない。


 エルディアが視線をエルガードに向ける。


 判断を求める。


 だが。


 エルガードは、すぐには動かない。


 少しだけ。


 考える。


 そして。


「いい」


 短く言う。


 全員の視線が集まる。


「やれ」


 それだけ。


 レオニアは、わずかに目を見開く。


「……止めないのか」


「止める理由がない」


 エルガードは言う。


「戦い方は一つじゃない」


 一拍。


「結果が出るなら、どれでもいい」


 その言葉に。


 レオニアは、わずかに笑う。


「……そうかよ」


 振り向く。


「じゃあ、やる」


 剣に手をかける。


 それは、これまでとは違う意味を持つ。


 個人としての戦い。


 構造ではなく。


 流れでもなく。


 “力”。


 マリナが静かに言う。


「……壊れますわよ」


「壊す」


 レオニアは答える。


「それが俺のやり方だ」


 その背中は、もう止まらない。


 エルディアが呟く。


「……分裂ね」


 マリナが小さく頷く。


「ええ」


「ですが」


 一瞬だけ、口元が緩む。


「面白くなってきましたわ」


 エルガードは、火を見る。


 揺れている。


 均一ではない。


 だが。


 消えていない。


 組織は揺れる。


 だが、それが――


 次の形を作る。


 戦いは、さらに深くなる。


 そして今。


 同じ場所にいながら。


 別の戦いが、始まった。

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