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第十七話

「若い娘は脱出したわ」


 しかし、村役場では男達と年配の元気なおばちゃん達がフーシェの軍と戦うと息巻いており、彼女達は残ると言い張った。


 セシルは武器になりそうなものを集めてから屋敷に戻ると、シャルロットが兄と共に居間で出迎えたものだから蒼褪めた。


「お、お兄様、何を考えているのですか」


「聞いてくれ。シャルロットもフーシェのことは憎いのだよ。でも、仕方なく言いなりになっているだけなのだよ」


 兄は、赤くこすれたシャルロットの華奢な腕に軟膏を塗ってやったようである。


 セシルとクロードは色ボケしている兄に対して冷めた顔をしていた。


「シャルロット、てめえ、色仕掛けでお館様を騙したな」


 クロードは、またシャルロットを拘束しようとして腕を掴む。


「待って。見せたいものがあるの」


 シャルロットの凛とした声が響いた。


 次の瞬間、シャルロットがブラウスを脱ぎ出した。何と、シャルロットの背中に焼印が押されていたのだ。


 セシルは棒立ちしていた。


「わたしは、十五歳の時に異端者と認定されました。東方派の教えなど興味はないと叫んでも誰も信じてくれませんでした」


 異端者として娼婦になる代わりに密偵として働いてきたという。


「自分がフーシェの言いなりになっている限り、妹の身体に焼印を押されることはないのです」


 クロードが言った。


「おまえ、物資をコソコソとリユンに運び入れているじゃねぇか。なんで、妹を亡命させないんだよ?」


 むろん、シャルロットもそれは考えた。しかし、常に妹には監視がついている。


 街にはフーシェの目や耳となっている者達がいて、常に見張られているので迂闊に動けない。


「妹と暮らしているロメーヌは我々の叔母です。叔母は筋金入りの信者なのです。叔母は、フーシェ達のシナリオ通りに不幸な女を演じてセシル様達を騙して私をここへと道きました」


「えっ」


 あの時から、彼等の術中に嵌っていたようだ。セシルが悔しさに頬を歪めていると、シャルロットは思いがけない事を言い出した。


「私は、この村を救いたいのです。私には起死回生の策があるのです」


「てめぇ、調子のいいこと言ってんじゃねぇぞ」


 クロードは興奮するが、シャルロットの目は真剣だ。


 セシルは促した。


「いいわ。話して」


「今回、この村に来るフーシェの私兵のうち四割人が神の番犬と呼ばれる武闘派です。あとの三割は武術をたしなむ神学校の生徒。そして、残りの三割が異端者とされて焼印を押されているアルギーナです。妹を監視している秘密警察や国境警備の者も遠征に参加します。つまり、村を占拠された時こそ、妹をあの忌まわしい国から救い出すチャンスなのです。お願いします。どうか、私の妹を亡命ざせて下さい。もしも、協力して下さるのなら、武力で闘わずして、村を守る方法を教えます」


 そんな便利な方法などあるのだろうか。


 もしかしたら、時間稼ぎの為の方便かもしれない。セシルは懐疑的だった。


 クロードは食って掛かっている。


「黙れ、シャルロット。おまえの口車に乗るもんか。おまえに妹がいるかどうかも怪しいぜ」


「……そうよね」


 セシルは念の為に方の焼き印が作り物でないかどうか確認していく。すると、それは本物の火傷の痕だった。しかも、かなり古いものだ。


 兄は、その焼印のことは知らなかったようだ。


 蒼褪めたように目を見開いている。


 シャルロットは、いつもさげている銀のペンダントの蓋を開ける。そこには赤毛が入っていた。


「妹は赤毛です。リユンでは赤毛の者は少数派です。わたしがいなければ、妹は異端者として酷使されていた事でしょう」


「……」


 シャルロットに妹がいるのは、多分、本当だ。


 先刻、シャルロットの部屋を調べたところ、妹が幼い時に描いたと思われるシャルロットのスケッチ画が机の引き出しに入っていたからだ。


 お世辞にも上手いとは言えない絵で、はっきり言うと落書きだ。


 お姉ちゃん大好き。そんな文字が絵に添えられていた。幼いころに描かれたものなのかもしれない。


 姉妹の絆は深い。


「あなたの妹を助けるのに協力してもいいわ。でも、条件があるわ。先に、そのとっておきの方法とやらを教えてよ。あなたがあたしを信用してくれないのなら、あたしもあなたを信用できないわ」


「分かりました。では、神学校の生徒達の攻略法を言います。彼等は神の教えに反したなら、ただちに三日間、飲まず食わずの状態で祈りを捧げます。そうしないと地獄に堕ちると本気で信じています」


 なるほど。


「つまり、そいつらに『違反』させたらいいのね」


「フーシェの私兵は、あなたの国の王軍を一網打尽にしようとしています。精鋭部隊は渓谷へと向かうと思われます」


 それらの者達を弱体化させる方法もあるとシャルロットは言い切った。


「フーシェは武器を自分の領地から運びますが、食料や水はここで調達しますわ。村の倉庫には様々な保存食がある事を知っています。しかし、わらび餅だのうどんだの、彼等には理解できないものもあります。それを調理するようにと命じるはずです。ですから、その中に毒を仕込んで動きを封じるといいのです」


 シャルロットの計略を聞いたクロードは考え込んでいる。


「そんな劇薬、村にはねぇよ」


「そうね。腹下しとか眩暈とか、そのレベルの毒草しかないわよ」


 兄嫁のジェーンの実家なら、とんでもない毒、例えばヒ素などもあるかもしれないが、今すぐに入手するのは難しい。


 それに、人殺しをするのは、さすがに村人も嫌がるだろう。


 クロードが言った。


「仮に、上手く毒を仕込めたとしても、多分、フーシェは次々とこっちに人を送り込んでくるんじゃねぇのか?」


「ええ、しかし、人を集めるのに時間はかかると思いますわ。その頃には王都の革命も落ち着いているでしょうから、革命戦士の人達に警護してもらったらどうですか? アランに頼めばいいではありませんか?」


 それを聞いたクロードはノロノロと首を振った。


「アランには頼めない。あいつは死んでいるかもしれない」


「な、何ですって」


 シャルロットの顔つきが変わった。そんな馬鹿なと言いたげだ。


 死という言葉にセシルの胸はズキズキと痛んだ。


 アランを心配する気持ちと、アランに裏切られた悔しさと絶望感がセシルの中で複雑に混ざり合っている。


 落ち着こう。


 セシルは深呼吸してからこう言った。


「と、とにかく、村の男達に毒を集めるように言いましょう。お兄様は薬草の中からピックアップしてね。男達は毒キノコや毒蛇を集めるように言ってちょうだい。そういう方法があるのなら、もっと早くに言って欲しかったわよ」


 毒の量が足りるかどうか不安になってきた。


 それでも、それらを集めまくった。


 そして、二日後。運命の時が来た。フーシェの私兵達が橋の向こうから押し寄せてきた。銃や大砲を持った男達が押し寄せてきて、すぐさま村は制圧された。


 フーシェの精鋭部隊の者は村に若い女がいない事にすぐに気付いたようである。露骨に残念がっている。


「おい、シャルロット、どういう事なんだ」


「どうやら、革命隊のアランがセシルに喋ったようですわ。それで、女達はさっさと逃げ出したのです」


 さすが、シャルロットだ。巧みに真実と嘘を織り交ぜて話している。


「アランは刺されて死んだようですわ。きっと、革命隊のブラウンの逆鱗に触れて粛清されたのね。それとも、フーシェ様の密偵がアランを刺したのかしら」


 フーシェの精鋭部隊の隊長のエミールは不敵に笑っている。


「ああ、もしかしたら、アランを刺したのはフーシェ様の忠実な密偵かもしれないな」


「しかし、問題ありませんわ。働き手の男達はみんないますもの。彼等は農民です。自分の土地を捨てる事は出来ないのですわ。それに、子爵令嬢のセシル様もここにいます。御立派な方ですわ。逃げようと思えば逃げられたのに、ここに残る決意をなさったのです」


 その言葉に対してエミールが言い捨てた。


「しかし、今後も逃げないとは限らぬぞ。ちゃんと幽閉しておけ。見張りもつけておくのだぞ」


 シャルロットはたおやかに頷くとセシルとセシルの兄と侍女を三階の一室に連れて行った。後ろを歩くエミールの直属の部下の隻眼の男が舌なめずりしている。


「セシルお嬢様ってのは美人だな」


 エミールが釘を刺した。


「セシルには手を出すなよ。侍女ならいいけどな」


 侍女だと想わせているけれど、実は女装をしたクロードだった。


 クロードは子供の頃に栄養不良だったせいで背が低い。クロードはチビだという事がコンブレックスだったが、おかげで女としても通用している。


「食事もここで取れ。便器も置いといてやる」


 ここは、セシルの父が使用していた部屋だ。実は仕掛けがある。本棚の奥に隠し部屋があり、そこから梯子を伝って地下通路へと降りられるようになっているのだ。


 これは、前世、フーシェが使った通路である。セシルは隠し扉の前のソファに腰かけると腹ごしらえを始めた。


「今夜は長くなりそうだわ」


「お嬢様、本当にやるんですね」


「ええ、そうするしか生き残る道はないのよ」


   ☆


「しっかし、この村に女がいねえっていうのは、つまんねぇよな」


 村の家々を覗き込むフーシェの精鋭部隊の男達は舌打ちしている。すると、孫がいるエルザという女性が言った。


「何、言ってんだよ、あたいも女だよ」


「うっせぇ、ばばぁ。てめぇ、オレの母親よりも年上だろう」


「あたしゃ、まだ五十七歳だよ。女盛りだよ」


 雑貨店を営むエルザが恰幅のいい身体を強請るようにして息巻いている。


 男達は雑貨店のカウンターに置かれている美味しそうなケーキを手づかみしながら食べているが、鼻にしわを寄せるようにして尋ねた。


「なんだ、野菜のケーキか?」


 緑色のケーキだった。


「それは抹茶のシフォンケーキだよ」


「やわらけぇな」


 男達は、他の食べ物にも興味津々だ。


「ばばぁ、このパンの中身は何だ?」


「小豆という赤い豆を甘く似たものだよ。アンパンだよ」


「げっ、甘い豆かよ」


 甘い豆なんて気持ち悪いと言いながらも、粗野な男達は、全部、豪快に平らげていく。


 一方、教会では、別の男達が銀食器や銀の燭台を奪っていた。


 そして、牧師を殴りつけると、憎らし気に言った。


「おまえは異端の教えを広める悪魔だ」


 リユンでは、祈りの言葉は神王を通して神に伝えられる事になっている。しかし、ここでは、教会でも自宅でもいいので、とにかく真摯に祈ると神と対話できる事になっている。それが、彼等には気に入らない。


「ここは異端の地だ! こいつらに罰を与えろ」


 奴等は、価値のあるものを奪うと祭壇に火を放った。


 それを見た村人達は顔色を変えた。消火して教会が全焼するのを何とか防ぐが、信徒達は怒りに胸を震わせている。


 牧師は、気絶したまま教会の入口付近で倒れていた。


 村の若い男は牧師を肩に担ぐと、自分の家に連れ帰ろうとした。しかし、略奪者達は言った。


「てめぇら、こっちに来い」


 火がくすぶり、まだまだ焦げ臭い教会へと村人達を誘導している。


「お、オレ達をどうするつもりだ」


「心配するな、言う事をきく奴は殺しはしねぇよ」


 奴等は納屋や枯れた井戸の中まで見回り、村人全員を捕まえたのだ。そして、次々と幽閉した。


「オレの母ちゃん、あいつらに殴られてないかな」


 フレデリックは心配そうにしているけれど、彼の親である雑貨店のエルザは平然としており、略奪者相手に言いたい事を自由に言い張っている。


「ちょいと、あんた達、礼儀ってもんを知らないのかい。まったく、親の顔を見たいもんだよ」


「うるせー。ばばあ、黙れ」


「あたしにはエルザって名前があるんだよ。礼儀知らずだね。あんた、本当にリユンの敬虔な信者なのかい? 聖書によると、人のものを奪うなかれって書いてあるよ。なんで、息子の一張羅を勝手に着るんだよ」


「異端者のものは奪っていいんだよ」


「あたしらが異端者って誰が決めたんだよ」


「神の代弁者であらせられる神王様を敬わない者は、みんな異端なんだよ」


「へーえ、そうかい? あたしは、あんたの神王様ってのを敬ってるよ。あんた達の神とあたしの神は同じだよ」


「いや、おまえらは異端だ」


「なんで、異端って分かるんだよ。あたしの心を、あんたごときが、どうやって見分けんだよ。神王様とやらを差し置いて、あんたが勝手に判断する事こそ不敬じゃないのかい? ああー、恐ろしい。あんた、天罰が下るよ」


 エルザはリユンの神王なんて敬っていないが、敬っていると言い張っている。


 侵略者達はエルザに対して匙を投げたように怒鳴った。


「ばばぁ、まじで殺すぞ」


「おやおや。年上の女性に暴言を吐くなんて、ほんと、親の顔を見てみたいもんだねぇ」


 エルザの減らず口は延々と続いている。


 実は、エルザの家の屋根裏部屋では七歳の男の子が隠れていたのだ。エルザの唯一の孫のロバートだ。祖母に育てられたロバートは父親と祖母と一緒に残ると言い張ったのだ。


 祖母が連れ去られた後、ロバート子はガランとした家の中で泣いていた。


「とーちゃん、ばぁちゃん……」 


 これから、どうすればいいのだろう。ロバートは絶望したように泣き出していた。


 ワンワンッ。


 あちこちの家では犬が泣いている。


 御主人様達の苦境を察知した犬達も戸惑い、この先を憂いて嘆いているのかもしれない。


「おまえら、さっさと歩け」


 みんなが強引に連行されていく。


 牧羊犬やペットの犬達が御主人に付き添おうとしたが、フーシェの私兵達は犬を追い払っている。


 村の男達は教会や公民館などに閉じ込められて身動きできないし、数少ない村のおばさん連中も、やはり、同じように一か所に閉じ込められている。


 セシルの屋敷の使用人は三人。


 執事と料理長と家政婦だ。三人とも意気消沈している。


 いつも冷静な初老の執事は言った。


「ここには神学校のエリート達が泊まるようですな」


 それに対して家政婦が言う。


「ええ、そいつらの為に食事を作らねばなりませんよ。まったく、腹ただしい」


 厨房で働く料理長のマーガレットが食糧庫を見つめたまま拳を握りしめていく。


「セシル様の指示通りに作るしかありませんわね」


 コソコソと小声で家政婦が頷いた。


「そうね。我々はセシル様を信じてやるべきことを粛々とこなすしかないわね」


 夜になると、ダイニングに神学校のエリート六人が現れた。みんな、ここの料理を美味そうに堪能している。


「おおっ、川海老のフライだね」


 執事がそれに対して答えた。


「川海老の天ぷらという料理でございます。天つゆという名のソースに衣をつけてお召し上がり下さい」


 神学校の副寮長のアンドレが嬉しそうに言った。


「こっちは鶏肉のソテーのようだね」


 それに対して執事は静かに首を振った。


「いいえ、鶏肉ではございません」


 アンドレは心の中で思った。分かった。鴨肉だな。


 しかし、それはカエルの肉だったのだ。執事は、遭えて曖昧に微笑むだけに留めている。


「おやおや、珍しいスパイスだね。これは何だい?」


 着々と給仕する執事は淡々と答えている。


「柚子胡椒でございます」


「おおっ、それは珍しい。前に、市場で売られていたね。我が家でも使っているよ。ここの料理は目新しいものが多いね」


 神学校の生徒達は御馳走を食べているけれど、セシル達は部屋でパンとミルクを口にしていた。


 セシルが窓から見下ろす。


「屋敷はあいつらの見張られているみたいね」


 夜警をあてがわれた進学校の生徒が館の出入り口にいて、ずっと警戒している。


 この部屋の扉は外から南京錠をかけられている。三階なので窓から逃げる事もできない。セシルとクロードと兄の三人は、昼間から、ずっとここに閉じ込められていたのだが、兄が言った。


「セシル、夜の九時になったね。もう、そろそろ行くといい」


「お兄様、あたし達は夜が明ける前に戻ってきます」


 ディナーを食べた神学校のエリート達は食後のお酒として芋焼酎を飲ませておいたので、すっかり満腹になって眠ったようだ。


「クロード、この本棚を押して」


「うわ、扉があるんですか」


「ええそうよ。」


 この間に、セシリとクロードは秘密の通路へと通じる扉を開いた。


 久しぶりに開けたせいだろう。かび臭いニオイがした。


 狭くて暗い。それでも、急な縄梯子を伝って地下道へと抜け出してく。


(今、村にいるのは神学校の生徒達だけだわ)


 フーシェの屈強な精鋭部隊は村を南下している。武闘派のあいつらは、もう村の外れにいるだろう。


 奴等は地の利を生かしてアルビオンの王軍とやり合うつもりでいるようである。


 今夜のうちにセシル達は河を渡り、リユンに上陸して、シャルロットの妹を連れてリユンを出なければならない。今夜を逃すと、もう二度と救えやしない。


 森を駆け抜けて川を目指す。


 シャルロットから渡された地図を何度も見て場所を覚えたりたが、それでも何かハプニングがあれば大変だと案じているとクロードが言った。


「お嬢様、オレはあの街のことには詳しい。任せてくれ。地図なんてなくても辿り着くさ」


「まずは向こう岸に行かなくちゃいけないんだけど、川上にあるウェブスターさんの牧場添いにある楡の木を目印に進むわよ」


 大橋から離れており、なおかつ、船着き場からも離れた茂みの中に小さなボートを置いているという。


 それを見つけたセシルとクロードはボートを押し出して川へと入れた。


「さぁ、これに乗って向こうに渡るわよ」


 今夜は月明りもなくて真っ暗だ。


「リユンの街って街燈があまりないのね」


「そんなもん、必要ねぇんだよ。夜、出歩く奴は少ないからな。居酒屋も八時には閉めてるよ」


 そんな話をしているとリユンの岸についていた。


 ここはシャルロットがフーシェの為に密輸品を輸送するのに使う場所だと聞いている。


 確かに地面には轍の跡がある。


 岸辺の杭にボートを係留する為に太い綱を結ぶ。この後、セシル達は街を目指して一気に走り出した。


 シャルロットによると、全速力で走れば半時間ほどで妹さんがいる待ち合わせ場所に着くらしい。


 村を通り抜けると、牧草地帯に入った。


 シャルロットの妹は見張り役の叔母を眠らせた後、深夜、こっそりと移動すると聞いている。


「リユンのクレール村の外れの空き家で待ち合わせだったわよね。赤い屋根が目印と言われても暗くて色が分からないわ」


「地図によると、その近くには他に家がない。間違えたりしないさ」


 幸い、クロードは暗闇の中でも迷うことなく進んでいる。


「これがシャルロットの罠でない事を祈るしかないな」


 いざ、シャルロットの自宅に行ったら最後、フーシェが待ち構えていてもおかしくない。


 そんな恐怖に怯えながら、真夜中の異国の村道を走り続けたのだった。







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