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第十五話

 夕刻から盛大に村祭りが始まる。今年、セシルとアランが共同で作ったジャガイモ惣菜専門店のフランチャイズの各店舗の売り上げが伸びたおかげで、村はおおいに潤っている。


 それに、各地の村祭りで売り歩いているポップコーンとポン菓子の行商も軌道に乗っている。


 アランが街で見つけた浮浪者や孤児を雇っているのだ。田舎はジャガイモやサツマイモやキャッサバのおかげで飢えから免れたものの、都市部は、なかなか厳しいものがある。


 セシルは王都の河川敷に、貧民達がサツマイモを植えたらどうかとアランに提案したのだが、国の土地なので植える事は出来ないという。


 それならば、都会で飢えている人に職を与えようと思い、屋台料理の企画開発に励んでいるところだ。


 もちろん、今夜のお祭りでも、セシルが開発した新しい食べ物の屋台を設置している。


 まずは、村人達に食べてもらいモニター調査をする。


 村の長老は餅を頬ばりながら神妙な顔をしている。


「バター餅……というのですね。むむっ、なんとも不思議な食感ですな」


 大福餅は前にも作ったけれど、王都にある自分達の惣菜店で売り出したところ不評だった。どうも、彼等は餡子がお気に召さないらしい。


(豆が甘いというのが、アルビオン人は嫌なのね)


 セシルはあずきが大好きだ。いつかアンパンの良さを全土に知らしめたいと思っている。


 だから、手を替え品を替えて、めげずに餡子を推している。


 すると、五人の母親を育て上げた逞しい主婦が言った。


「羊羹ってのは石鹸みたいな見た目だね。あたしゃ、どうも苦手だよ。美味しそうには見えないね」


「でも、味はいいと思うわよ」


 ちなみにセシルが作ったのは水羊羹である。


「そうだね。食べると美味いが、やっぱり、好きにはなれないよ。お嬢様は、よく、そんなものを思いつくね」


 すると、羊飼いの少年が言った。


「おいら、梅干しっていうのは好きだぞ」


 これも好き嫌いが分かれる。酸っぱいのが嫌いな人はマジで嫌そうにしている。


 好評なのは味噌汁。特に、豚汁はみんな大好きだ。


「うんめぇ。まじでうめぇな」


「ほんとね。このスープは癖になるわね」


 セシルは得意げに説明していく。


「キノコを入れてもいいわよ。硬くなったパンをここに浸して食べるのもいいかもね」


「しかし、味噌ってのは見た目が馬糞に似てますね」


 トーマスの言葉に村人達が笑っている。


「こりゃ、食える糞だな」


 セシルは、プーッと頬を膨らませた。


「糞じゃなくて味噌よ。ほんと失礼しちゃう」


 おでんの屋台の前では、こんな会話が聞こえてきた。


「これ、もしかしてコンニャクか……。豚汁に入れるとうめぇな」


「あたしゃ、コンニャクだけは嫌だと思ってたんだけど、豚汁とおでんに入ってるのは普通に食べられるよ」


 とにかく、こんな調子でみんなで盛り上がっている。


 砂糖ダイコンのおかげで砂糖には不自由しなくなった。だから、果物のコンポートも各家庭の食糧庫にはたくさんある。


(冬も、ビタミンCがとれるから壊血病にもならないわ)


 セシルに教えてもらったおかげでハイカラな料理のレパートリーも増えている。


 それもこれもセシルのおかげだと村人達はセシルに感謝している。


「次は、どんな面白いものを発明するのかね」


「セシル様がいれば、あたし達は安泰だよ」


 村で作ったビールや焼酎や果樹酒でみんなが陽気に酔っぱらう。子供達は、お餅という謎の食べ物に黄な粉と砂糖をまぶしたものや、モンブランという栗をふんだんに使った米粉のケーキにを頬張り喜んでいる。


 もちろん、スイートポテトも大人気である。


 セシルが食べ物の屋台をうろついていると、アランがやってきた。


「アラン、どこに行っていたの?」


「お墓参りだ。昔、世話になった人のお墓に花を備えてきた。それにしても、しばらく来ないうちに新しい家が増えていて驚いたよ」


「そうなのよ。建築ラッシュで大工のハドソン一家は大忙しなのよ」


 セシルの館の使用人達がお菓子や食べ物を振舞う様子を見つめながら言った。


「あのね、子供の数が増えたと思わない? 前は、こんな貧しい村に嫁に行きたくないって避けられていたのよ。村の若者は結婚するのに苦労していたの」


 だから、結婚できない男が年老いた両親の面倒を見ていたのである。本人が年老いた時、誰も彼の世話をする者もおらず、侘しく死んでいく。


 たまにリユンから若い娘が亡命してきたりすると、村の男達は必死になってプロポーズしてきたという歴史がある。


「牧師様の母親も元々はリユンからの亡命者なのよ。栄転の話もあったのに、牧師様はこに残っているわ」


 そんな風に語るセシルの視線には初老の牧師がいる。


 アランはハッとなった。あの日、アランに靴をくれた牧師がまだここにいる。 


「……そうだったのか」


 それで、あの時、アランに優しかったのかもしれない。


「うちの村での暮らしは大変よ。牛を飼う土地はあるけれど、その牛を売りに出るのが大変なの。峠で牛泥棒が待ち構えているからね。街まで行く前に奪われるのよ。牛を川船に乗せる訳にもいかないし、色々と苦労してきたのよ」


 もちろん、ハムや干し肉にするという方法もあるけれど、それでも、やっぱり、他の土地の製品と競争すると見劣りしてしまう。


 アルビオン南部の牧草地帯の香草入りの洒落たハムやソーセージの方が人気があったのだ。


「でも、今は、王都にもないようなお菓子を作れるわ。何といっても、うちは砂糖が豊富よ。しかも、冬でも食べ物に困らない。それで、若い娘さんが、この村の男と結婚したいって思うようになったのよ」


 可笑しそうにセシルは笑う。


「ほら、あそこにいるトーマスを見てよ。もうすぐ結婚するのよ。トーマスのプロポーズの言葉ってね、オレと結婚したら、一生、美味しいお菓子をプレゼントしますなの。ふふっ。あたし、試作品を真っ先にトーマスに食べさせているわ。そのせいて、トーマス、太ったみたい」


「というか、おまえも背が伸びたな。最初はこんなにチビだったのにな」


 そう言うと、アランは自分のへそのあたりを指さした。


「失礼ね。もう少し高かったわよ」


「あの時のおまえは男の子みたいに見えたぜ」


 しかし、現在のセシルは金髪の髪を風になびかせて微笑むエレガントな女だ。


 健康的で溌剌とした美人だ。誰よりも輝いて見える。


 お祭りの人混みの中、セシルはふと立ち止まった。


 今夜の祭りには街から大道芸人も来ている。


 口から火を吐く大男にみんなが見入っている。


 ながーい竹馬を乗りこなすピエロもいる。


 村人達は、そんな大道芸人にチップを渡す余裕がある事を、セシリは誇らしく感じていた。


 今夜、祭りを盛り上げる為に、この広場はランタンで飾られている。


 やがて、弦楽器の楽団が演奏を始めた。


 村の祭りそのものは、ずっと前からある。


 しかし、こういうふうに華やかになったのは、セシルの事業が成功したおかげだ。


 隣の村からも、食べ物の屋台の珍しい試作品を目当てに、家族総出で荷馬車に揺られてここまで来ている。


 その中の一人がセシルを指さした。


「ほら、見て御覧。あそこにおられるのが、セシル様だよ」


「うわー。綺麗な人だね。母ちゃん、あの人がジャガイモの女神なんだね」


 セシルは近隣の農民から、ジャガイモの女神と呼ばれているのだが、これは、誉め言葉である。


 踊りの輪を見つめていると、酔っぱらった大工のハドソンの妻のキャサリンがアランの背中を叩いた。


「そこの男前、こんなところで立ってないで、お嬢様と踊りなよ」


 すると、トーマスも婚約者の手を引いて輪の中へと進みながら言った。


「そうですよ。お嬢様は主役なんだ。ほら、アラン、あんたも、我々の仲間なんだから、みんなで踊ろうぜ」


 仲間……。そんなふうに思ってくれていたのか。その言葉にアランの胸はジンワリと熱くなる。


 この村の人達の商売を全力でサポートしてきた。


 それは、妹を救ってもらった恩があるからだ。


 しかし、今は、もっと複雑で深い気持ちで溢れている。


 祭りの終盤。村の広場でフォークダンスを踊りながら、アランは改めて思った。セシルを守りたい。


(この娘を不幸にしたくない……)


 自分命に代えてでも守らなければならない。その為にどうするのがいいのか。頭がぐちゃぐちゃになるほどに考えてきた。


 もう、アランの心は定まっている。


「セシルお嬢様、オレと踊っていただけますか」


 かしこまって尋ねると、セシルは明るく頷いた。


「ええ、もちろんよ」


 フォークダンスなんて農業高校の文化祭以来だ。


 アランと共にリズミカルに踊ることが心地よかった。


 セシルの心にもアランへの想いが溢れている。


 自分達の商売が成功したのはアランとアランの伯父のおかげである。二人は自分達が築いた販売網にセシルを招いてくれて、色々とアドバイスをしてくれている。


 物資の運搬を任せる業者。各地の市場の顔役の男。商売の注意点を細やかに教えてくれた。


(アランは不愛想だわ。でも、本当は優しいわ)


 前世では敵だったというのに、今は、この手を話したくないと感じている。曲が鳴りやむまで、ずっとセシルはアランと踊り続けていたいと感じている。そんなセシリをクロードは黙って見つめていた。


 しかし、ふっと音もなくクロードに近付いた者がいた。シャルロットがクロードに囁く。


「あなたは踊らないの?」


「オレみたいなチビの流民と踊りたい女なんていないよ」


「そんなことないわよ。セーラは踊りたそうにしているわ。あの子を誘ってあげてよ」


 セーラは羨ましそうに踊りの輪を見つめている。そんなセーラを見ていて哀れになったクロードはセーラに手を差し伸べていく。


「セーラ、オレと踊るか?」


「い、いいの?」


「ああ、いいさ。オレも相手がいないんだよ」


 クロードはモテない訳でもない。


 半年ほど前、村の娘とデートをしていた。でも、村の娘といても退屈でセシルの事ばかり考えていた。


 そんな自分の邪念を吹き飛ばしたくて、セーラに微笑むとセーラも小さく微笑み返してくれた。


 セーラと自分は境遇も似通っている。何も話さなくても分かり合えるような気がするのだ。


    ☆


 やがて、祭りは終わった。


「片付けは、明日の早朝だ」


 トーマスの掛け声と共に村人達は帰路についたのだが、トーマスとクロードは火の用心の為にランタンの片付けに追われている。


 いつも健気なセーラが言った。


「あたしも手伝うよ」


 少し優しい顔になりながらもトーマスは首を振る。


「おまえは子供だ。早く寝ろ」


 クロードもランタンを取り外すために天幕添いの木に梯子をかけながら言った。


「そうだよ。セーラは帰れ」


「でも、あたし、村の人の役に立ちたいよ」


「よし分かった。それなら、明日の早朝、ここに来い。ゴミ拾いをしてくれよ」


「うん。分かった」


 そんな会話がなされていた頃。


 広場から屋敷までセシルとアランは徒歩で帰ったのだが、酒も飲んでいないというのにセシルの頬は少しばかり火照っていた。心浮き立つ祭りの余韻が二人を包んでいる。


 屋敷の本館へと続く村外れの細い道を進みながら、アランは言った。


「おまえ、公爵の息子のモーリーとの縁談の話をどうするつもりなんだ?」


「ああ、あれは断るわよ」


「そうか。それを聞いて安心した」


「えっ」


 なぜか、アランは立ち止まった。そして、片方の膝をついてセシルの手の甲に口づけすると、騎士が姫君に恋焦がれるような眼差しを向けながに言った。


「オレと結婚して欲しい」


「えっ……」


 そんな展開になるなんて予想していない。


 セシルは言葉を失う。混乱していた。


(あ、あなた、前世で、あたしを処刑に追い込んだのよ……。それなのに、プロポーズをするなんて……)


 どうやら、運命は大きく変わったようだ。


 想えば、十三歳の時、アランと大冒険をして以来の付き合いだ。


 最初は、相棒のような立ち位置だったけれども、今、目の前にいるアランは誰よりも魅力的に見える。


(あたし、この人に見つめられると鼓動が高鳴るわ)


 セシルはイエスと言いたい気持ちを呑み込んだ。


「返事はもう少し待って欲しいの」


「なるべく早く返事をしてくれないか」


 アランが急ぐには理由がある。革命前夜までにセシルをここから逃がさなければならないのだ。


    ☆


 そうとは知らないセシルは、甘い余韻に浸っていたのだが、姿見を前に立った瞬間、言い様のない不安に駆られた。


(このドレス、あたしが処刑された日にも着ていたわ。前世では、アランに捕まった日から、ずっと同じドレスを着ていたのよね)


 その夜、セシルは前世の流れをおさらいしていった。


(今度は違うのね。前世と同じ結末にはならないわよね?)


 前回の革命では多くの血が流れている。


 セシルが十七歳になる頃、各地で小麦を食わせろといったデモや焼き討ちが勃発する。


(それは、すでに行われているわ。小麦商人の倉庫なども打ち壊されて収奪されているみたいね)


 政治犯の監獄と負債者の監獄がある。この二つを十月二十七日に襲撃して囚人達を開放してしまう。


(前回と同じなら、来週にでもブラウンは囚人を開放するんだわ)


 ブラウンは囚人を煽るような事を言った。だから、そいつらが、ここぞとばかりに武器庫や国家の穀物倉庫に押し入るのだ。


『革命万歳』


 それを合言葉に革命隊に加わる民衆の渦が広がっていく。


 宮殿へと革命戦士が迫っていく。その先頭にアランがいて、王の親衛隊と革命戦士が撃ち合い王都の凱旋門から宮殿にかけての一帯が戦場になった。


 五日間に渡る市街戦を経て、革命派は宮殿を占拠することに成功する。


 その直後、セシルの館にアランが踏み込んでくる。


(そして、あたしは監獄に収監されて囚人として惨めに過ごした後で処刑されるのよね)


 あっ。今、気付いた。


 ブラウンが二つの監獄にいる囚人を一気に解き放ったのは、貴族達を男女別にして収監させる為だったに違いない。


(あたしがいたのは、確か、負債者専用の監獄だったわね)


 借金を返せなくなった者達が入る監獄に貴族が拘束されるというのは何とも皮肉だ。


(投獄された貴族の夫人達や娘達は、ずっと怯えていたわ)


 処刑前日。監獄の壁でセシルも雄たけびをあげて泣いた事を覚えている。


(前世ではトラブルから逃げることを選択して結局は殺された。今度は、問題から目を逸らさずに立ち向かうと誓ったのよ)


 あの時の哀しみを繰り返してはいけない。


     ☆


(今、王都はどんな感じなのかしら)


 彼等が革命を起こす事は間違いなさそうだ。


 前回のように王党派の貴族を粛清するのだろうか。


(あたしは、今からでも革命隊を支援しますと言えば、処刑を免れるのかしら)


 今回はとことん対処しよう。


 問題から目を逸らしたりしない。 


 自分で王都に出て調べてみようとセシルは思い立ったのである。公爵に結婚を断りに行くという名目でアランと共に川船で下って王都に向かった。下りの船は放っておいても動くので王都までの到着時間は一日で済む。


「おまえ、王都に行くのは久しぶりだそうだな」


「ジェーンの借金をすべて一括で返却するのは難しいので頭金だけでも払うつもりなのよ」


 そう言うと、アランは苦笑した。


 アランは言いたかった。


 じきに革命が起きる。そうすれば公爵家は潰れるので大金を払う必要などないが、セシルは律儀にも払うと告げているので好きにさせることにした。


 やがて船は王都の桟橋に到着した。アランは立ち去り際、こう言った。


「オレはこのまま伯父の自宅に向かう。クロード、セシルの護衛を頼んだぞ」


「ああ、分かってる」


 クロードは頷いた。


 何となく、クロードはアランがいなくなってホッとしていた。


 尊敬する兄貴のような存在なのに、なぜか、アランがいると息苦しい。


 その後、セシル一行は市内を巡行する乗合馬車に乗り込み、宮殿通りへと進んだ。


 公爵の邸宅からも近い瀟洒なホテルで身支度を整えると、セシルは侍女のサリーを連れて公爵家に向かう。


 セシルはクロードに前もって言っておいたのだ。


『革命隊は貴族排斥を訴えているから気になるの。あたし達、貴族をどうしたいのか、本音を探ってみてくれない?』


『そうですね。オレも気になっています』


 囚人として閉じ込めるのか、それとも、平民の身分に落とすことで満足するのか。クロードとしては、セシルがどうなるのか気になって仕方がない。


 クロードは革命隊の本部に潜り込む為に扮装した。煙突掃除の仕事をする貧民に扮して煙突から潜入するという方法だ。


「へへ、これならオレにピッタリだぜ」


 狭いところに入るのには慣れている。


 リユンもそうだが、アルビオンも、金持ちの家には暖炉があり、冬が始まる前に煙突掃除をする。


 掃除の道具を持っていれば屋根に登っていても誰も不思議に思わない。


「よっこらしょ」


 煙突から滑り落ちないように注意して煙突内を降下していく。どうやら、暖炉のある部屋で会議をしているようだ。


 バッチリと聞こえる。


 だが、次の瞬間、心臓が凍った。


 その時、クロードは革命隊のブラウンとアランを含む数人の密談を聞いてしまったからだ。


『フーシェの私兵が橋を越えてサマセットの村に入るのが、今から五日後の十月二十五日。王軍の駐屯地がここだ』


 王都から離れた場所に北側の防衛を目的とした駐屯地がある。彼等は、地方都市で起きた有事や暴動などを監視しているのだが、アルビオンの北側は長閑なので、ほとんど仕事がない。


 それ故に、貴族のボンボン将校の任務地として人気がある。


『ここから急いでリユン国境の大橋まで駆け付けても丸一日以上はかかる。フーシェの私兵は村に入ろうとする王軍を峠のところで足止めして兵糧攻めをして殲滅させるそうだ。その間、フーシェの私兵と闘う王軍の分隊は王都で起きた事を知る由もない。我々が監獄を襲撃するのは十月二十六日になるだろう。王が捕まったと知ったなら、王軍の統制や指揮系統は崩れ去る。宮殿で暮らす軍人の妻や子女を人質してしまえば何とでもなる』


 何という恐ろしい計画なのだとクロードは憤った。親のいない自分にとってセシルの村の人達は家族も同然だ。


 村に恐ろしいフーシェがやってくる事を革命隊は知っている。いや、むしろ、こいつらは村を利用しようとしている。


 ブラウンが確認するように言った。


『アラン、宮殿の図面はこれだ。ここが、王族の寝所だが、奴等は我々が踏み込むと同時に逃げるだろう。その為にも避難経路を先回りして遮断しておいてくれ』


『ああ、分かった』


 アランの声で間違いない。


 なんて卑劣な奴等なのか……。


 クロードは息をするのも忘れて憤っていた。あいつは、ブラウンの作戦を前から知っている。それなのに、セシルと楽しそうに踊ったのだ。


『アラン、よくも、お優しいセシルお嬢様を騙したな』


 クロードはセシルのことが好きだ。しかし、セシルがアランを強く意識しているなら身を引くつもりだった。しかし、まさか、こんな卑劣な事を企んでいたなんて……。


(フーシェの野郎に村を売り渡すなんて、ありえねぇよ)


 アランの事を兄と慕っていただけにクロードのショックは大きかった。頭の中が真っ白になった。こいつの裏切りを許してなるものか。


 ぶっ殺してやる。


 やがて、会議が終わった。


 クロードは煙突から屋根へと戻ると、建物の外でアランを待ち続けた。来た。アランだ……。あいつは一人で歩いている。


 顔に煤をつけたままクロードは突き進む。


「……えっ」


 アランは、物陰から飛び出したクロードに何か言おうとするが何も言えなかった。アランの腹部には血の色が広がっている。


 クロードは、革命隊の司令部となっている建物の裏口から出てきた直後のアランを刺した。


 その眼差しは憎しみに満ちていた。


 アランはクロードが何に対して怒っているのを悟った。


「……クロード」


 アランは何か告げようとしている。しかし、そのままクロードは何も言わずに走り去ったのだ。

 




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