休戦
2年続けて戦死者を大量に出してしまった魔王軍は魔王領へと戻り一時休戦の命令を下した。
「何故だ! もう一度進軍すれば勝てる戦いだろう!」
一番血気盛んなガルゥが一番に反発する。
「去年と今年で失われた戦力は1万にも登った・・・この損失は簡単に補えない。人間界にはその数十倍もの戦力が残さているんだぞ」
5万もの遠征軍は強者達だけで集った混成軍だと聞いた。質も量も魔王軍を壊滅するには十分すぎたのだろう。
俺と言う魔王さえ出て来なければな。
まだ人間界には数十万、数百万という戦力が残されているのは明白だ。
たかが数万程度の魔王軍では太刀打ちできない・・・
これ以上の戦力低下は魔王領を守る戦力が無くなってしまう。
「今回の魔王は腰抜けか! これなら先代魔王の方がよほど」
「ゴホンッ。ガルゥ、口が過ぎますぞ」
バホメットがガルゥを諫める。
「先代魔王のやり方は分からんが、どんな奴だったんだ?」
「それは勇猛果敢な方だった。自ら先陣を切り俺様達を鼓舞して引っ張って行ってくれた」
「あぁ、だから討たれたのか」
「なっ!?」
「総指揮官が先陣を切ってどうする・・・向こうには光の勇者という弱点を突いてくる奴もいるのに」
「魔王さま、ちょっと」
サリーナの声で視線が玉座の間に入って来れる通路に視線が向けられていた。
ギッと睨みつけてくるフレア。
父親を貶されて怒りに満ち溢れているといった所だ。
「これは単純な喧嘩じゃない戦争だ。戦争をするなそれなりの戦略も必要だ。バホメット、お前は幾つの戦争を目の当たりにしてきた」
「私の生涯で累計しますと300は」
「その300の戦争に総指揮官が突っ込んでくる輩は居たのか?」
「中にはおりましたがアッサリと討ち取られましたな」
「いくら強いからと言って突っ込むとそうなるのは明白だ。総大将が死んだ場合、軍はどういう行動を起こせばいい? 命令は誰が出す? 唯一の希望が失われた時士気はどうなると思う? ガルゥ、お前はソレが分かって言っているんだな?」
「う、うぐぅ」
「別に勇猛果敢に万の軍勢に立ち向かう事自体は悪くない。褒められるべき行為だ。だが、総指揮官としてはダメだ。やってはいけない行動だ」
その場の空気が沈黙に包まれる。
「我々、魔族の方が劣勢である事は常だ。個々の質が人間より強くても集団で来られた時、敗北が決する。それを理解してくれ」
魔族は人間より単純に力が強い事も魔力が上の者達が多い。それを根拠に人間より強いと錯覚する連中がいる。
「ドラード、他に戦力になりそうな連中がいるか?」
「先日、紹介したのが全てです。後は人間界に住まう者達かと」
「人間界にも魔族がいるのか?」
「はい。しかし、同じ種族でも魔王領にいる者達より力も知能も落ちているかと」
「それは何故だ?」
「魔王領と同じ環境では御座いません。魔素が薄いのも原因かと」
魔素の薄い人間領では魔族達は強くなれず、いつかは討伐されてしまうと言う。
「あの国にも居るのか?」
「森や洞穴などに隠れ住んでいるかと」
「ガルゥ、ミーノンはソイツ等を連れてこい」
「分かったよ」
「分かったモゥ」
「戦力が回復するまでは戦えない。アーガルム砦を最前線とする」
「それまでは何を?」
「質の高い武器を作り出す」
飛距離の出る武器があれば、それだけで有利に立てる。
堅牢な壁を崩せる物を作り出せれば攻略は一気に進む。
・・・
「何故です! 我らは王都を犠牲にしてまで魔王軍を退けたのですぞ」
ここは人間界中央部に聳える帝国の城内。
会議室には最北端に位置する、冬の国の王が出席していた。
「お主の苦肉の策が王都と共に魔族達を一網打尽にする作戦。報告によれば大した被害を出さなかったようだな」
皇帝が口を開く。
「それは、勘づかれてしまったようで」
「無人の王都を怪しむのは当然の事だ。前回の魔王と違い今回の魔王は慎重に動くようだ」
「それです! 光の勇者が魔王を滅ぼしたのではないのか!?」
「魔王が倒されれば次の魔王が現れてもおかしくはない。やつの娘か・・・別の魔王か」
「この短期間で魔王が生まれてくるなんて」
「考えて見よ、勇者召喚があれば」
ザワッ
会議に出席している者達が騒めく。
「魔王を呼び出したと仰るのか?」
「勇者と魔王は常に対峙して然るべき存在だ。魔族共も同じことを考えるのであろう」
「魔族共め汚い真似を」
あと少しで勝てたという所で覆された事に冬の国の王は怒りを露にする。
「幸い勇者は回収できたのだからな」
勇者の治療は終わり、前線に立たせるべくリハビリをさせている所だった。
「問題は冬の国から流れ込んでくる難民達の対処であろう」
国一つ分の人口が他の国へと流れて周辺諸国が悲鳴を上げ始めた。
村一つ分であれば土地を渡して開墾させるという事が可能であるが国一つ分となると難しい。
平民だけならばなんとかなるかもしれないが、問題は貴族だった者達だ。
遠縁にいる家に身を寄せるならば良いが、避難国に行っても貴族の振る舞いをしている事に問題がある。
国が崩壊した場合貴族としての地位は他国では通用はしない。その事を理解していない者達が多すぎた。
「現在、各国ではお前達が流れてきた事にワシの所にも報告が舞い込んできておる」
「我らを見捨てるおつもりですか」
「国に納められる人間にも限りがあるのは知っているだろう。国一つ分の人口を受け入れられると思っているのか」
冬の国に各国が苦しめられているとは思っていないのか?
皇帝がそう思ってしまうのは無理はない。
「何のための大連合国なのか!」
「国として終わってしまった以上は手助けする義理も無いのだ。現在、帝国は国庫から難民たちへの炊き出し代を出しておると言うのに」
「我が冬の国は終わっておりません」
会議に出ていた者達は何を言っているのだと思う。
「冬の国の王よ、王都が陥落した時点で国は終わりを告げておる。大連合国として助ける事は出来はしない。他の国では冬の国から流れてきた難民による暴行が頻発しているそうだ。当然の処置として元冬の国へと追い返すかその場で処刑をしているそうだ」
「なっ!?」
「この場で断言しよう。冬の国は終わった。そしてお主は王ではない事を宣言しよう。連れていけ」
「は、放せ! 私は王なのだぞ」
この期に及んで王であり続けようとする男を衛兵が連れて行く。
「さて、この難民問題をどうするか話し合おうではないか」
「「「「「はっ!」」」」」
ここで難民たちを処分するという手はあるにはあるが、国民達の印象が最悪になってしまうのは明白。
北部から中部にある国々へと流れてきている難民をどうするか各国で連日会議しているという。
・・・
「親方、例の物はどうだ?」
ドワーフの大工房に赴いて進捗を聞きに来た。
「魔王様、自ら来てくれるか」
「発案者は俺だからな」
「ボウガンとやらは形になったぞ」
机にバリスタを小さくしたボウガンが置かれていた。
ガチンッ
片手で弦を引っ張り、鉄のボルトを装填する。
ガシュッ
ギィンッ
「流石の威力だ」
鉄のプレートアーマーを容易く貫通させる。
「その速度で装填まで持って行けるのは魔王様ぐらいだぜ。力自慢のワシ等でも一苦労だぞ」
「だから弓を主流に置くのか」
バリスタがあるならボウガンも作り出せると思っていたが、よほどの力が必要らしい。
俺は1秒も掛からなかったが一般的なドワーフでも5秒は掛かる。
それでは相手に弓矢で殺されてしまう隙になる。
「なら」
俺はテコの原理と歯車を使ったギアについて伝える。
「作ってみるとしようか」
ガンガンガンッ
30分もしない内に金属製の歯車のついたボウガンが出来上がった。
「これなら私でも使えそうですね」
ドラードが引き金式ボウガンを使ってみると2秒で装填が可能となった。
「しかし、標準を合わせるのは難しいかと」
ギアボックスを付けた事によってボウガンの重量が増してしまいフラ付く。
「ここからは俺達の出番よ。用は軽量化すればいいんだな」
「頼む」
「任せて貰おうじゃないか」
一旦ドワーフの里を出て、エルフの隠れ里へと向かう。
「コッチの様子はどうだ?」
「流石に調合が難しいですね」
エルフの女王に木炭と硫黄と硝石の3つを調合して作り出して貰おうと思っていたが黒色火薬作りは難航しているという。
エルフ達は森の恵みからポーションを調合して作っている事を聞いて、頼んだに至った。
「その火薬?というのは何に使うんですか?」
「時には敵を倒す為に、時には楽しめさせてくれる用途に化ける代物だな」
「そうですか・・・」
「嫌か?」
「いえ、私達の薬が殺しに使われると考えると」
「薬と毒は表裏一体だろう。使いすぎれば死ぬ薬もあるしな」
「そうですが」
「このまま、何もしていなければ人間達に蹂躙されてしまうからな」
遠征軍が魔王領へと到達していた時、別動隊がエルフの隠れ里へと近づいていた時に撤退命令が下されて事なきを得ていた。
「今は戦う時だ」
「はい」
黒色火薬の開発を急がせて次なる戦争の準備をする。




