一致団結
バンッ
「遠征軍が引き返して来ただと!?」
人間達が暮らす土地、最北端の国では1万にも減った遠征軍を迎え入れていた。
魔王討伐の報告を受けて、数か月後には魔王城を陥落できると思っていた矢先に引き返してきた報告を受けていた国王は机を叩いていた。
「光の勇者様は左腕を失い、遠征軍も約4万も損失し撤退との事です」
「そんな、馬鹿な」
ギィッ
「一体何があったというのだ・・・」
国王は信じられない報告を聞いて力なく椅子に座る。
「魔王城から発せられた目を開けていられない程の光の奔流が遠征軍を飲み込み、勇者様が守り切ったのは僅か1万だったとか」
「待て・・・光の奔流と言ったか?」
「報告書にはそう書いてあります・・・」
「馬鹿な・・・魔族側から光だと」
バサッ
それを聞いて報告していた兵は報告書を落とす。
「魔族側に寝返った人間がいる? 光の勇者にダメージを負わす人間が?」
「居ないと存じます・・・かの大賢者は中央にいるのですよ」
「そうか。勇者の容体は?」
「現在、治療室にて治療を」
「腕の再生は容易ではない・・・早くて1ヶ月は無理だぞ。中央にはなんて報告をすればいいのだ」
この度の遠征軍は各国から集められた実力がある兵士だけで固められた最強の軍とまで言われている。
それがたった一撃で撤退になったという報告を誰が信じるというのだろうか。
「最前線という事で多額の援助金も貰っているというのに・・・」
人間領の中で最北端に位置する国で勇者と遠征軍を任せられており軍を維持するための援助金も貰っている。
「すぐに会議の準備を」
「はっ!」
最北端の国で緊急会議が開かれている間に遠征軍撤退の報は瞬く間に人間領へと広まっていった。
・・・
「アリア様、ワインよぉ」
「うむ」
ゴクッ
純潔の血が混ざったワインを飲み喉を潤す。
幾ら血を飲んでも喉の渇きは癒えず、定期的に血を飲まなくてはならなくなった。
今はサリーナの部下で男を知らないサキュバス達からの血を貰っている。
モンスターの血や男の血等で渇きを潤そうにも癒える気配が全くないのだ。
「早く何とかしないとな」
「はい。私に考えがあるわ」
「なんだ?」
「早期に魔族達を纏め上げて最北端の国へ攻め入ればアリア様の求めている物が手に入るかと」
「それには時間が掛かっているようだな」
新たな魔王の出現に方々に散った魔族達は難色を示しているという事だ。
「皆、先代の事もあり早々には受け入れられないわ。私もそうだったから」
先代魔王は魔族を率いるカリスマ性を所持していたらしい。
恐らく俺の【絶対支配者】とは異なった物なのだろう。
「魔王様、竜王殿を連れて参った」
空の魔族でも最強と謡われるドラゴン族。その頂点に君臨する王がやってきた。
ドシッ
体長は3m程にまで縮んで入ってきた。
「お主が勇者を退け撤退に追い込んだのか・・・俄かに信じられんな」
「竜王殿、魔王様のお力は本物で御座る」
「どうだかな・・・」
「王だというのに脳筋か。いいだろう、その挑戦受けてたとう」
王座から立ち上がり城の前に広がる草原へと出向く。
「ワシ本来の姿に戻るぞ」
「構わない」
ビリビリビリッ
来ていた衣服を破き体が大きく膨れ上がる。
体長にして15m程のブラックドラゴンが立っていた。
「確かにデカいな」
見上げる程大きな体格を持つ竜王。
「なら、第三形態」
ググッ
ブワッ
大量の魔力を放出して巨大化する。
「んなっ!?」
大きくなるのは分かっていたようだが、竜王は俺を見上げる事となった。
「大きさなら俺の方が一枚上手だったな」
30m程となった俺を見上げて顎が開きっぱなしになった竜王。
倍もの体格差がある俺と竜王、大人と子供が戯れるような物になるのは想像に難くない。
「竜王よ。魔王が配下より弱いというのは早々に無い事を知れ。むっ?」
キュイィイインッ
竜王の口に濃厚な魔力が集まり始める。
「ワシの一撃を耐えて見せよ。その姿が幻でなければのぉ。武技:激竜破」
「武技:天竜波」
闇と光の奔流がぶつかり合う。
ゴバゥ
天竜波が竜撃破を飲み込み竜王を飲み込む。
ブスブスブスッ
流石にドラゴンの長だ。
俺の天竜波を喰らってなお立っている。
「見事なり」
ドドオォンッ
と、思ったが倒れ伏した。
「これ程の一撃・・・本物と認めようぞ」
シュォオオ
3m程へと縮み気絶する。
「竜王、お前に死なれたら困るぞ。ハイヒーリング」
シュォワアア
天竜波で負った傷跡が治っていく。
光属性に弱い魔族は総じて悪魔や不死系の魔族が多く、ドラゴンや動物系の魔族には通用する。
「これは回復魔法・・・魔王が使えるとは」
「魔王が光魔法を使えないなんて常識は捨てろ」
「ガハハッ、完敗である。ワシ等ドラゴン一族は魔王に就くのである」
「そうか」
ドラゴン族の参戦が決まった事を皮切りに魔族達が集結し始める。
ワァアアアッ
魔王城前の草原に我こそはという魔族達が集結をしていた。
「2週間で300の兵が1万にも膨れましたな」
「数年振りの光景ねぇ」
「ガハハッ! 俺様がビシッと言えばこんな物よ」
「竜王殿達が来てくださったから他の魔族達も感化されて集まったので御座るよ」
「皆、新魔王様の力に集まってきたブモォ」
四天王達も城から草原に集まった同胞を見ている。
「む~」
屋内から俺を睨みつけるフレア。
「どうした、お前の望んでいた事だろう」
「それは私の力で・・・」
最後の方は小声になり聞こえなかった。
「皆の者! 静粛に!! 新魔王様からの言葉を聞くのである」
バホメットの声により魔族達からの声援が掻き消えた。
「諸君、初めましてだ。先代魔王が打ち取られ、魔王領へ人間達が侵略すると言う事態に異界の魔王として俺が呼び出された事は知っているだろう。さて、諸君。戦争は好きか?」
ウォオオオオオオオ!
「戦争は好きか。諸君、蹂躙は好きか?」
ウォオオオオオオオ!
「蹂躙も好きか。諸君、人の肉は好きか?」
ウォオオオオオオオ!
ブゥウウウ!
どうやら人肉の好き嫌いはあるらしい。
「諸君たちの同胞を殺した人間が憎いか?」
ウォオオオオオオオ!
「憎い人間達に復讐はしたいか?」
ウォオオオオオオオ!
「では、行くぞ! まずは駐屯場を一つずつ潰して行くぞ!」
ザッザッザッ
魔族達が南に向かって進軍を開始する。
「サリーナとドラゴは飛行魔族部隊を率いて左右に展開」
「「はっ!」」
バサバサバサッ
2人は空へと飛び去りドラゴンを含んだ空を飛べる魔族達を率いて左右に分かれていく。
「ガルゥ、ミーノンは徒歩の魔族を率いて左右に展開」
「おう!」
「分かったブモォ」
2人は左右に分かれて動物系、巨大系の魔族を率いる。
「バホメットは悪魔、亜人系を纏め上げて中央を行け」
「承知しました」
ブンッ
影へと溶け込み中央部隊へと合流する。
「さてと、着いてくるか?」
「いいの?」
「魔族達の安寧を願い、俺を呼び出したんだろう。見る権利はある・・・それとも見るのは嫌か?」
「連れて行って」
「ならば」
スッ
両手を広げる。
「な、なに?」
「特等席で見せてやる。俺に抱き着け」
「う、うん?」
ギュッ
優しくフレアを腕で包み込む。
「良い匂いね」
「石鹸を使っているからな」
「石鹸って?」
「こっちの世界は石鹸も無いのか・・・この戦が終わったら教えてやる」
「香水では無いのよね?」
「あんな物で匂いを誤魔化しているなんて言わないでくれよ」
「そ、そんな事ないでしょ」
この動揺っぷりはそうなんだな。
バサッ
「空には初めて行くか?」
「昔、父上に」
「ならば大丈夫そうだな」
ドッ
「キャァアアアア!」
「この程度のスピードで悲鳴か」
魔王城から一気に空高く舞い上がるだけでフレアは悲鳴を上げた。
・・・
ゴォオオッ
魔王城より南下して見れば至る所に人間達の駐屯基地が設置されていた。
空の魔族達が見つけ出しては即座に攻撃を仕掛けて火を掛けて回っていく。
「これが、戦争」
腕の中に居るフレアが眼下に広がる火を見て呟く。
「こんなの序の口だ。まずは魔王領を取り戻す事からだ」
僅か1ヶ月もしない内に全ての駐屯基地は壊滅、次なる目的地は人間領と呼ばれる場所だ。
「あれがか」
人間領へ続く、幅30m、長さ100mの橋が見えていた。
地図では瓢箪型の大陸だと思っていたが大小の大陸が近づいているポイントに橋が架かっていただけであった。
橋以外は海が広がっている。
人間領側の橋には数千名の兵士達が集まっていた。
「なぜ橋を落とさない? それだけで俺達の侵攻は止められるだろうに」
「この橋は古代と呼ばれる時代に作られた橋で壊したくても壊せないのです」
バホメットが俺の疑問に答えた。
「そうか・・・ならば今一度俺の力を振るう時が来たようだな」
「なるほど、アレですか」
「フレアを頼む」
「フレア姫様、こちらへ」
「う、うん? 何をするの?」
「あの邪魔な兵士達の士気を下げるのです。見ててください。魔王様が真なる力を出しますぞ」
ブワッ
魔力を放出して両手に集める。
「武技:天竜波」
ドォオオッ
両手から放たれた天竜波は人間領側へと一直線に伸びて集結していた兵士達を一撃で薙ぎ払った。
大量の土煙が舞い上がる。
「さぁ! 道は開かれたぞ!! 我こそはと思う者達は突き進め!」
ウォオオオオオオオ!
俺の攻撃を見て士気を上げた魔族達が一斉に橋を渡り始める。
バサバサッ
空を飛ぶ魔族達も遠慮なく海を渡っていく。




