課外授業
あれから1週間が過ぎて今日は外で授業をするという事だ。
「行きたくない」
「なんでだ?」
「森の近くまで行くから」
アンロッドが中々ベッドから出ようとしない。
「森が怖いのか?」
「うん。小さいころから森に近づくなって」
「森に何が潜んでいるかは分からないしな」
「だから、行きたくない」
「だとしても授業に出ないと親や村の人に悪いだろ」
「うっ」
そもそも平民が学校に入る事が珍しく、アンロッドに召喚魔法の適性を持っていた為に両親や村の人々に入学を進められて来たらしい。
平民でもモンスターを使役できれば将来的に安定した職業が付ける可能性があるからだ。
「早く準備をしないとな」
「う、うん」
渋々と言った感じでベッドから出て行くアンロッド。
野外授業に必要な荷物をバッグに入れて一旦集合場所へと向かう。
「全員来ましたね」
俺達が最後だったようだ。
「では、近くの森に行きましょう」
女教師・・・ルーシィの引率の元に動き出す。
街を出て行き、南の森へと歩いていく。
「ハァ」
「もう疲れたのか?」
「嫌なだけだから」
頬を膨らませて不機嫌そうなアンロッド。
「そろそろ着くそうだぞ」
森の前には他のクラスも居て賑わっている。
その殆どが貴族の子供でアンロッド位しか平民はいない。
「さて、一組と二組合同で野外授業を始めます」
総勢70人くらいの子供と召喚獣達が森の手前で集まって聞いている。
「今日一日を使ってこの森を探検します」
「えぇ~、森には行きたくない」
「私も」
「アタシもぉ」
基本的に家にいる事が多い貴族少女たちは不満を漏らす。
「いいだろ」
「早く行こうぜ」
「街の外に出た事ないしね」
同じく家に居る時間が多かった貴族少年達は好奇心に押されて森へと入りたい一心で騒ぐ。
「では、近くにあるお花畑へと移動したい人は手を挙げてください」
こういう事は毎年あるのだろう予め用意されていた様で花畑グループと森グループに分かれて行動を開始した。
「では、移動しましょう」
引率の先生に連れられて花畑へとやってくる。
少女達はいくつかのグループに分かれて召喚獣達と仲を深める。
少し離れた所でアンロッドが花畑に腰を下ろして遠くを見ている。
「友達と遊ばないのか?」
「いい」
離れた所で花の冠を作り少女たちが召喚獣達の頭や首に掛けている。
「友達がいないのか?」
「いる訳ないでしょう・・・平民なんだから」
なるほど・・・失言だったな。
チラチラと視線を送ってくる少女がいるんだがな。
トテトテトテ
一羽のホーンラビットが足元にやってきた。
「アルくん!」
ホーンラビットを追いかけるように先ほどから視線を送ってきた少女がやってくる。
アンロッドと同じくらいの背丈でフンワリとした栗毛で蒼い目が特徴の少女だ。
スリスリと俺の足首に体を寄せる。
「なんだ、お前」
首根っこ摘み上げる。
「アルくんを返してください」
少女がキッと睨み上げてくる。
「お前の召喚獣か?」
「そうです」
「ほら」
「わっぷ」
ホーンラビットことアルくんを少女に返す。
「この魔王を恐れずすり寄ってくるとは見どころがある召喚獣じゃないか」
「・・・ありがとうございます」
少し困惑しながらも少女は言う。
「アリアが迷惑かけた」
「そんなこと・・・ないです。アルくんが」
「可愛いね」
「う、うん。アルくんは可愛いですの!」
「触ってもいい?」
「はい!」
キュウッ
アンロッドがアルくんの角を避けて体の方を撫でると可愛く鳴く。
「スベスベ、一緒に寝たいくらい」
ポン
アンロッドの頭に手を置く。
「俺だと嫌か? 一緒に添い寝しているだろ?」
「それはアリアが寝ている時に潜り込んでいるじゃない」
「俺だって寒い思いはしたく無いからな。お前は温いからな」
「私で温まらないで」
「ぷっ!」
俺とアンロッドの会話に少女は吹き出して笑う。
「本当に魔王なんですか?」
笑い泣きしている少女は自然とその言葉を口にする。
バサッ
人化の一部を解除して翼を広げる。
フワッ
近くの花ビラが舞い上がる。
「俺こそが魔王序列二位にして第九魔王のアリアだ。お前の名前は?」
「申し遅れましたわ。私はナナリー・エルクシルと申します」
少女が小さな挨拶をする。
「これは失礼した」
バァッ
黒い魔力が身に纏い衣服を形成していく。
「ご機嫌麗しゅう。ナナリー様」
スカートを摘まみ淑女の挨拶をする。
その行動にナナリーやアンロッドが驚く。
「貴族の挨拶」
「これでも淑女としての教育をみっちり染み込まされたからな」
「そうなんですね」
「ときに先ほどから視線を送っていたみたいだが、マスターの友達になるか?」
「え?」
「お恥ずかしながら・・・」
ナナリーは頬を染めて言う。
「ウチは男爵家で力も弱く・・・お友達になってくれる令嬢がおりません」
「そうか・・・アンロッドはどうだ?」
「う、うん」
恥ずかしそうに頷く。
「よろしくお願い致しますわ。アンロッド様」
「よ、よろしく」
丁寧にあいさつするナナリーに対してたどたどしく答えるアンロッド。
「私の事はナナリーと呼んでください」
「ナナリー様?」
「様は不要です。私達は友達ですから」
ニコッと笑うナナリー。
「まずは召喚獣と仲を深める為に花の冠か首飾りを作りましょう」
「うん」
ナナリーとアンロッドが花畑の花で冠を作り始める。
ゆったりとした空気が流れ始めた。
ピクッ
「来る」
森から凄い勢いで移動する気配を感じて立ち上がる。
「「「「わぁあああ!」」」」
森からブルング達が走り出してきた。
ブヒィイッ
子供達よりも体格の大きいワイルドボアが森から飛び出してきた。
「「「「きゃあぁあ」」」」
ピクッ
少女たちの悲鳴に反応したワイルドボアが顔を向けて蹄を地面にこすり始める。
「アリア、守って」
「分かった」
バッ
アンロッドに答えて前へと出る。
ブヒィイイ
ワイルドボアが突進を開始する。
ヒュォッ
ドォオンッ
が、空中から黒い物がワイルドボアを両断した。
バサバサバサッ
来たか・・・
スタッ
「アリア様ぁ!」
「探したわよ」
アキラとシズカが空から降りてきた。
「心配かけたな」
「元竜魔王様から事情は聞いています」
「この子がアリア様のマスターなのね」
シズカとアキラに睨まれて委縮するナナリー。
「わた、ちがう」
睨まれてナナリーは涙目になる。
「私よ」
ナナリーの前にでるアンロッド。
「こんな子供が」
「魔王様であるアリア様を?」
疑いの目を向ける2人に強い目で返す。
「アリアは私の召喚獣なの!」
「アリア様は誰の物にならないですよ」
「人間、奢らない事ね」
バゴッ
「「っ!?」」
威嚇する2人にゲンコツを落とす。
「アリア様」
「なぜ!?」
「あまり怯えさせるな」
「しかし、ん!?」
「あぁ!!」
シズカの口を塞ぎアキラが騒ぎ出す。
「ふぁっ」
ツーっと唾液の糸が垂れて顔を話す。
「3年程だけ離れるだけだ」
「ふぁぃ」
「アリア様、私も私も!」
「仕方がないな」
「んふぅ」
・・・
「では、3年待ってるわ」
「向こうは任せて下さい」
バサッ
2人は大空に羽ばたいていった。
「ん?」
振り向くと顔を真っ赤にさせていたナナリーとアンロッドにその他大勢の少女たち。
「あの、アリアさん。その様な事は他所でやって頂けます?」
「来年からこの場所が使えなくなるよりマシだろう」
「え?」
あの2人が本気で暴れたらここの花畑は壊滅するだろう。
「それとも、羨ましいか?」
クイッっと引率の先生の顎を持ち上げる。
「や、止めてください。私には婚約者が」
「ククッ! そうか」
後ろで黄色い悲鳴を挙げている少女達には刺激が強すぎた様だ。
今日の授業は終わりを告げて街へと戻る事となった。




