転入
ガラガラガラ
サーペンティン王国を発って1週間が過ぎた。
「アリシア王女様、聖王国の学院ではどの様な場所ですか?」
馬車の中でアリシア王女と向かい合うように座っている。
「とても奇麗な場所ですわ」
「まぁ、楽しみだわ」
ニコニコとアリシア王女と他愛のない会話をする。
「新生レーヴァン聖王国内にそろそろ入るころかしら?」
馬車の窓から風景を眺める。
「そろそろ国境に到着予定かとお嬢様」
隣に座っているアキラがメイド服を身に纏い背筋を伸ばして畏まった口調で答える。
「アリア様はどうしてこの時期に?」
「私、少し前まで持病で療養の身でしたの」
俺は病弱の身で表舞台にも出たことの無い身だった、という設定で病が治った為に表舞台に出て来た令嬢として振舞う事となった。
「アリアンロッド家とは聞いたことがありませんわ」
ある訳ないだろう・・・魔大陸にある俺の都市名なんだから。
「私の家系に・・・いえサーペンティン王国にはそのような家があるなんて記録にもありませんでした。何者なんですか?」
「アリアンロッド家は昔から存在しておりましたが、表に出ない家であることも確かですわ」
「どういう事ですか?」
「アリアンロッド家は裏の家系と言えば分かりますか?」
「・・・存在するのですか?」
「存在しない様に表に出てこない家ですわ」
「なら、なんで出て来たんですか?」
「先代女王様の依頼とだけ」
「・・・あの件ですね」
頑なにアリシアは王侯貴族が集まる学院について口を開かなかった。
「私のというより、あの国に用件があるのですね?」
「先代女王様の指示はアリシア王女の友人となるようにと」
「お婆様はそんなお人ではありません。裏に何かあります」
孫に疑われているぞルーデシアよ。
「一度は奪われた国を自身の力で奪い返した女王なのですよ。私なんかを気にする人では」
「アリシア王女様、ルーデシア様は本当にアリシア王女様をご心配になり私達を表に出してきたのです。その気持ちには嘘偽りはございません」
裏でした動かない家を態々動かしてという事実はアリシアに揺らぎを与える。
「ですから、仲良くしてください」
「わかりました・・・アリア様の真の目的は分かりませんけど邪魔にならなければ構いません」
アリシアは嘆息を漏す。
「ボッチですわね」
「ボッチですね」
「勝手にボッチ呼ばわりしないでください!」
アリシアの冷たい言い方から友達が出来ていない感じが伝わってきた。
「アリシア王女様は好きな殿方はおりますか?」
「・・・おりません」
「婚約者の方もですか?」
「政略結婚ですから」
アリシアの情報を貰う際に婚約者がいる事が分かった。
「王侯貴族ですからね」
「アリア様はおりますか?」
「居ましたといいましょうか・・・彼は既に遠い世界へ旅立たれましたの」
少し遠くを見る。
「御免なさい。そんなつもりではなく」
「いいのですわ。このような体ですから・・・無茶をするような方では無かったんですけどね」
ハニカミながら笑う。
「御免なさい」
アリシアはそれっきり口を開くのを止める。
それから数日程馬車に揺られてアルマテリアル学院へと到着を果たす。
「私は編入の手続きがありますの」
「はい」
校門で降りて挨拶を交わしてから離れる。
広大な敷地内に真新しい校舎が立ち並び、全てが耐魔レンガで作られている。
「行くぞ」
「はい、お嬢様。プククッ」
「つかの間の自由だからな。くそっ」
この2ヶ月間は本当に地獄だった・・・淑女の嗜みを叩き込まれてストレスフルだ。
「コホンッ、お嬢様」
「オホホっ」
扇で口元を覆い、笑いながら颯爽と足早に受付へと向かう。
冬休みを終えた王侯貴族の少年少女達が俺に奇異の視線を送ってきたからだ。
「アリア・アリアンロッド様。確かにサーペンティン王国からの紹介状を預かりました。編入試験を免除となります」
流石王家からの紹介状であるフリーパスだった。
「編入先は2年生・・・貴賓クラスですか」
貴賓クラス・・・各国の王侯貴族の子息や令嬢が集まるクラス。
アリシアもソコに在籍している。
こういった事も慣れた手つきで手続きがトントン拍子に進んでいく。
「案内する者を呼びますので少々お待ちください」
近くの席に座って待っていると若い女性が近づいてきた。
「私の名前はレティシアです。2年貴賓クラスの担任をしております。女子寮を案内します」
「アリア・アリアンロッドです。以後お見知りおきを」
挨拶をしてレティシアの後ろに着いていく。
アキラが俺の後ろに静かに着いてくる。
「この時期に編入とは珍しいですね。それにサーペンティン王国から2人目を送ってくるとは」
「内々の事情がありますの」
「そうですか・・・あまり騒ぎにしなければ良いです。こちらが女子寮です」
レティシアからクールビューティーな雰囲気を感じつつ女子寮へと入る。
「詳しいルールは寮母から聞いてください。この部屋がアナタの新しい部屋です」
ガチャッ
開錠して中に入ると広い空間が広がっていた。
「応接間兼リビング、奥には寝室にバスルームが完備されています」
流石、王侯貴族があつまる場所だ部屋が2つ以上もある所が与えられるのか。
「この女子寮は主賓クラス専用です。間違っても隣の女子寮へは足を踏み入らない事ですね」
「承知しましたわ」
「指定の制服に着替えてから先ほどの場所まで戻ってきてください。では失礼します」
ガチャッ
扉が閉められて、ようやく気の抜ける空間が与えられた。
「お嬢様、お着替えです」
スルッ
動きやすい衣服とローブを手に持つアキラ。
「一人で着替えられる」
「いけません、お嬢様の着替えを手伝うのは私の仕事です」
「いつまで演技をしているつもりだ?」
「お嬢様。口調をお戻しになってください。障子に耳ありですよ」
「分かってる」
入ってきた扉に人の気配があるのは知っているからだ。
気の迷いからかユラユラと揺れている。
コンコンッ
控えめなノック音が聞こえてくる。
「どうぞ」
俺が答えるとノブが捻られる。
ガチャッ
「失礼します・・あ、御免なさい」
先ほど分かれたアリシアが引き返していった。
パサッ
手早く着替えを済ませて扉を開ける。
「着替え中だとは知らなくて」
「返事してしまった私が悪いですわ」
女性同士でも着替えている最中に入る事は淑女としてはNG行為だと教わっていた。
「案外大きいのですね」
「これですか?」
強調するように腕で挟み込む。
「淑女がその様な下品な行いを!」
顔を真っ赤にして言うアリシアの可愛い部分が見え隠れした。
「オホホホッ。態々アリシア王女様が出迎えを?」
「道に迷わないか心配で」
「優しいのですね?」
「そんな事はありません。普通です」
「アキラ、私は行きますわ。後の事は任せましたわ」
「はい。お嬢様、アリシア王女様。行ってらっしゃいませ」
ガチャンッ
「その制服姿もお似合いです」
「アリシア王女様もです」
「アリシア・・・で良いです」
「え?」
「私達は友達なんでしょう?」
上目遣いで懇願する様な表情をされる。
「アリシア様」
「はい、アリア様」
「食べたいですわ」
「何をですか?」
おっといけない、欲望が口から出てしまった。
「少々、お腹が空いてしまっただけですわ」
「それでしたらサロンに行きますか?」
「いえ、レティシア先生をお待たせする訳には参りませんわ」
「分かりました」
俺とアリシアは先ほどの受付の所へと戻ると直立不動でレティシアが待っていた。
「お待たせいたしました」
「これはアリシア王女様。お早い到着で」
俺の事は無視かい!
まぁ、王族を無視して話す訳ないか。
「レティシア先生、彼女が先に話しかけてましたが」
「これは申し訳ございません。アリア様に大変失礼なことを」
「構いませんわ。アリシア様も悪いですわ。王族を目の前にして挨拶の一つもしないのは失礼に当たる所か先生の人生を狂わせるかもしれませんの事よ」
「あ、レティシア先生。申し訳ありません。私ったら」
「いえ、こういう事も学ぶ場所ですので」
この場で誰が一番偉いのかがポイントとなる。
「では、参りましょう。アリシア王女様は先に教室へ」
「はい」
足早に貴賓クラスへと向かっていった。
「貴賓クラスとはどのようなクラスなのでしょうか?」
「各国から集められた王侯貴族達がいるクラスです。ハイレベルな授業を行い切磋琢磨しています」
つまり聖大陸のレベルを知るいい機会なのか。
「それに勇者様方がおられるクラスでもあります」
それは聞いてないぞ・・・・
「しかし、とある事情でその殆どが休学しております」
「殆ど?」
「詳しくは私も知らされておりません」
ビックリさせるな。




