依頼
「昨晩はお楽しみでしたのね」
「お前たちはそういう関係だったのか?」
翌日の朝、2人と出会うと早々と言われてしまう。
隣の部屋で声は筒抜けだったようだ。
「悪いか?」
「若い体っていいわと思ったわ」
「俺は大変困ったがな」
「興奮したか?」
「隣に居るんだぞ?」
「それは済まなかったな」
「次からは離れた場所でそういう事をしてくれ」
「善処しよう」
「はぁ」
先代の女王と王、謎の来客達がゾロゾロと廊下を歩く。
とても先代の王と同格には見えない若い娘が敬語もなく話す様子は王宮で働く者達にとっては気になる案件だった。
コンコンッ
「どうぞ」
とある部屋に到着してクラムがノックすると部屋の中から返事が返ってきた。
「フルブルト、失礼するぞ」
「父上がここに来るのは珍しいですね・・・母上もですか?」
クラムとルーデシアが入ると若い男が席を立った。
「それに、その方々は?」
「今は詳しく話せないんだ。ただ、宝物庫の鍵を渡してくれないか?」
「父上たちが我が国の宝を売るなんて事はしないと思いますが、理由を聞いても?」
「うむ。アキラと言ったか? アレを」
「はい」
アキラが両手で抱えていた物をクラムへと渡す。
「これを宝物庫に入れるためだ」
バッ
包んでいた布を取り外すと剣から放たれる光にフルブルトは眩しさに目を瞑る。
「この輝きは!? 父上、コレをどうしたのですか!?」
「うむ。この剣についても詳しくは話せないんだ」
「彼女が絡んでいるという事ですか?」
「否定はせんよ。で、宝物庫に入れるために貸してくれ」
「分かりました・・・」
ガラッ
引き出しから大きめの鍵を取り出してクラムへと渡す。
「行くぞ」
クラムが受け取ると布で剣を包みアキラへと返す。
バタンッ
「あの男は?」
「俺とルーデシアの息子だ。王位を継いだばかりなんだがな」
「王として立派にしていますわ」
「そうか」
宝物庫は城の中心部にあるらしい。
ガチャンッ
ギィイッ
大きな扉を渡された鍵で開錠して入る。
「お城の宝物庫って初めて入りますね」
「俺達の城にもあっただろう」
「アレは金庫ですよ」
「確かにな」
宝物庫を金庫にしていたな。
「先祖代々から受け継がれた物が沢山収められているんだ」
貴金属の他に芸術作品や美術作品の類が保管されていた。
「あれだ」
宝物庫の最奥に土台に突き刺さった剣が現れる。
「宝剣としての価値はありそうですが・・・実用性はなさそうですね」
飾りとしての剣であれば十分価値のある文字通りの宝剣だった。
「そうか、つり合わないか・・・アレは抜けない剣として誰も使用者がいないんだ」
「えぇ。私の先祖たちはいつか持ち主が現れるのを待っていましたが」
「そうか」
ドクンッ
「んっ!」
心臓の鼓動が跳ね上がった。
「アリア様?」
ドクンッ!ドクンッ!!
「うっ」
胸に手を当てて鼓動が大きくなるのを感じる。
「アリア様!? どうしましたか!?」
「これは!?」
「初めて見る光景です」
クラムとルーデシアは目の前の光景に驚愕する。
「胸が熱い」
「アリア様、しっかりしてください」
アキラに支えられるが胸の奥から熱い何かがあふれ出してきた。
「アリア様!?」
ブワッ
黒く可視化された魔力が宝剣へと吸い込まれていく。
ズズズズッ
ポロポロポロッ
剣の周囲に付けられた宝石が急激に劣化していき剥がれ落ちていく。
「ぐっ」
ドクンッ
ひと際大きな鼓動に呼吸が苦しくなる。
「その剣がアリア様の魔力を!」
カシャッ
アキラは宝剣エクスカリバーを引き抜き振りかぶる。
「止せ!」
ピタッ
俺の声にアキラが寸止めをする。
「それは・・・天竜牙だ」
魔力を奪われながら、剣の名前が流れ込んできた。
「「「天竜牙?」」」
「母の牙を使った剣だ」
「「「母!?」」」
3人が驚愕する。
ボロボロボロッ
黒い魔力が剥がれ落ちて内側から白い剣が姿を現す。
「竜族の血縁者にしか使えない剣だ」
ガッ
台座に登って柄を掴む。
ズズッ
力を入れずに台座から剣が抜ける。
「抜けた・・・」
「代々受け継がれていた宝剣が抜ける日が見れるなんて」
フォンッ
羽根のように軽い剣だ。
「アリア様。コレを」
「あぁ」
宝剣エクスカリバーを受け取って台座に突き刺す。
スタッ
「アリア様、先ほどの話って」
「この剣は母親の牙から作られている事か」
「天竜と魔族のおとぎ話ですね」
「サーペンティン国に長く語り継がれている話か」
俺の知らない情報がルーデシアから伝えられた。
遥か昔に天竜という輝く竜が聖大陸の何処かに住んでいて、そこに現れた一人の魔族に恋をして結ばれたというおとぎ話だった。
「天竜が住んでいたと言われていた場所があの山です」
ルーデシアが指さしたのはサーペンティン王国とベイクラム王国の間にある山脈だ。
「そうか」
図らずも母親の住処の近くで生まれたという訳だったのか。
・・・
「アキラ、済まなかったな」
「いえ」
アキラの宝剣との交換だったが俺が受け取る形となってしまった。
「勇者達のお話をしましょう」
「あぁ」
朝食を摂りながら勇者について話を聞いた。
「新生レーヴァン聖王国だと?」
40年前に壊滅に追いやった国が復活していると聞いた時は耳を疑った。
「新生レーヴァン聖王国では愚かにも勇者召喚を再び行ったんだ」
悲痛な顔をしてクラムが言う。
「王族の血が必要なんだろ?」
「あの国には周辺国の王侯貴族達が集まっているんだ・・・俺達の孫娘もな」
「・・・血を使われたのか?」
「ぇえ、そうとしか考えられないわ」
勇者召喚には王族の血が1人分は必要だと言う。
だが、何処の国も王族が死んだという噂も出ずに勇者召喚が行われた。
それ以外の召喚に必要な大量の血もどこから調達されたのかも形跡が無かったそうだ。
「私達も調査に乗り出しているの。しかし、どうやってやり遂げたのかが分からないのよ」
「他の国でも不信感を持っている者達も少なくない・・・が、証拠が一切出て来なくて困っている所だ」
「勇者について知りたければ直接行くしかないか」
「アリア様、ついでに私達の頼みを聞いてくれないかしら?」
ルーデシアらしかぬ弱弱しい声で言う。
「私達の孫娘、アリシアが心細い思いをしているみたいなの・・・気に掛けて欲しいのよ」
「・・・アリシアはお前に似て美しいか?」
「え? えぇ、若き頃の私にそっくりだと評判がいいわ」
「そうか。ジュルッ」
「アリア様、涎が出てますよ」
「おっとイカン」
「くすくす。アリシアの血を求めるなら本人の承諾が必要ですよ」
「お前はいつでもそうだな」
ニコニコと笑うルーデシアに呆れ顔のクラム。
「これが俺だ」
「頼んでいいんだな?」
「アリア様の悪い癖がでなければいいんですが・・・」
アキラよ、否定はしない。
「早速、訓練をしましょう?」
「訓練?」
「あの国の中枢に入るのは難しいのよ。まずは近しい者に近づくのが鉄則よ」
ルーデシアがニコニコとし始める。
「丁度2ヵ月後に新学期が始まるそうよ。そのタイミングで潜り込んで頂戴」
「新学期?」
「えぇ。あの場所でその口調は何とかしないとね?」
なんだか不味い空気が流れている様だ。
ソッ
ガシッ!
「アリア様。たまには淑女として振舞ってみては如何です?」
「待て! 俺はだな」
「私ですわ」
「いつまでも男口調のままと言うのはダメです。そろそろ収めてください」
「おい、クラム助けろ」
アキラに掴まり引きずられていく。
「健闘を祈る」
「おぃいいい!」
・・・2か月後
「ご機嫌麗しゅう。ルーデシア先代女王様」
スカートを摘まみ淑女の挨拶をする俺が居た。
「ホホホッ!やれば出来ますわね。淑女たる者に近づきつつありますわ」
ルーデシアが扇を口元に当てて笑う。
「アリア様、ぷっ、くく。お美しいですよ」
そこのメイド、腹を抱えて笑いをこらえるな。
俺達はサーペンティン王家の遠縁として新生レーヴァン聖王国へと向かう話が着々と進んでいった。
「これは、アリシア王女。ご機嫌麗しゅう」
そこに件のアリシア王女が通りすがって挨拶を交わす。
「ご機嫌ようアリア様」
アリシアは小さく挨拶すると遠ざかっていった。
ルーデシアの若いころソックリな容姿をしているが大人しい雰囲気を出している。
何度か顔を合わせたが話が弾む感じはしなかった。
「あの子、学園の事は全然話してくれないのよ」
「オホホっ。ルーデシア先代女王様。私が傍にいますからご安心を」
「すっかり淑女になりつつあるわね」
「ブフッ! 駄目だ!! 我慢できん!!」
近くで聞いていたクラムが噴出してテーブルを叩く始末だった。
「後で覚えていろよ」
「ゴホンッ!」
「ひぃ!」
俺の後ろに立ち三角形のメガネをしている壮年の女性が咳ばらいをする。
「アリア様、口調がお戻りになっているザマスよ」
このザマス口調の女性はルーデシアが雇っている淑女教育係の者だ。
学院が長期冬休みになっているアリシアへの淑女教育と平行に俺へのスパルタ教育をしている。
「アリア様が悲鳴を出すなんて可愛いですね」
「アキラさん! アナタも侍女にしては口調がなってないザマスよ!! 私が2人を徹底的に教育するザマス」
「「!!?」」
「さぁ、午前の教育へ行くザマスよ」
ズルズルと引きずられていく俺達だった。




