記録装置①
予選は順調に進み空座都市内の本戦出場者は250名、各地からの出場者は50名の合計は600名程となった。
中には自身の実力は違うという理由で陳情に来た魔族もいたが理由を話して帰って貰った。
本戦出場者たちも続々と空座都市へと集まり益々活気に溢れている。
カンカンカンッ
「コレだけ集まれば」
日を追うごとに商人達から支払われる入出税の山を見てほくそ笑む。
「お金は集まりますけど、細かすぎません?」
アキラから鋭い指摘があった。
そう、運営資金の保管庫には沢山の入出税が集まっているが乱雑に積まれただけとなっている。
生活の殆どが一番価値が低い銅貨で済んでしまい、銅貨だけが集まってくる。
「銅貨以外の貨幣ですか?」
「そうだ、セバス」
何度も世話になっている空座都市役所長のセバスを呼ぶ。
「銀貨や金貨というのもありますが、殆ど出回っておりません」
「空座都市の中心であるココにも無いのは管理が難しくなってくるぞ」
今までよりも膨大に膨れ上がっている入出税の徴収金は保管庫を圧迫している。
アレを数え直すのは面倒だろう。
「銀行の設立を提案したい」
「銀行ですか?」
「あぁ」
俺とアキラが知っている銀行の仕組みをセバスに伝えてみる。
「たしかに銀行があれば両替が楽になりますが・・・この都市で管理できる者がいるか」
「この間手伝ってもらった連中に声を掛けてみる」
収支報告書について手伝ってもらった魔族達だ。
「管理人が必要では?」
「そちらから1人管理職を貰えないか?」
「信頼のおける人物を選出します。問題は」
「金貨や銀貨を何処から調達するかだな」
コンコンッ
「失礼します」
アキラが遠征から帰ってきた。
「どうだった?」
「OKが出ました。ハムート様が両替をして頂けます」
アキラにはハムートの土地へ行ってもらって交渉をして貰った。
「日程は?」
「使者を大会付近に向かわせるそうです」
「分かった」
「竜魔王様と交渉を? 恐れ知らずですね」
「というと?」
「竜魔王様は八大魔王序列一位に君臨します」
「一位? 順位があるのか?」
「はい、魔王様の中にも序列が存在します。その頂点に交渉をするのは他の魔王様達も遠慮してますよ」
「名づけ親だったからな」
「ほぉ・・・ネームを頂いたんですね。強さの秘訣はソコにもあるのですか」
「否定はしないぞ」
上位種族から下位種族へ名前を受け取る代わりにステータスが上がる仕組みは魔族の中でも常識だ。
「元から無い銀行を設立するんだ・・・元手はココからになるが」
「銀行も保管庫近くのスペースに置きましょう」
「だな」
運営保管庫兼銀行は瞬く間に設立された。
その存在に店を構えている商人たちが食いついてきた。
店の金庫と言っても絶対安全である保障がない・・・それに比べて銀行という安全が保障された場所に金を預けられるシステムだった。
「紙の在庫不足?」
「えぇ、搬入量に対して消費量が上回り始めました」
セバスの困惑した報告を受ける。
「製造先へは?」
「発注をしてますが、向こうも手一杯だそうで」
都市全体の経済が回り、記録する為の書類も出回っている事により想定外の消費量で在庫不足になり掛けているという。
「そうなるとは思っていた」
俺も薄々は紙での管理が難しくなる日がくると思っていた。
ジリリリリッ
「失礼します。ミザール様がお目見えです」
「通せ」
一々、受付から来てもらって伝言をされるより早い。
「この伝達管の開発者をですか?」
ミザールとは奇妙な道具を発明する変わり者で有名であった。
遠くにいても声を届ける伝達管を作り出した本人に以前から依頼していた物があった。
ガチャッ
「アリア様、お久しぶりです」
頭はボサボサ、分厚いメガネに化粧気が全くない兎人で白衣の女性が荷台に何かを乗せて入ってきた。
「頼まれた物は完成したと言う事か?」
「えぇ! アリア様が出資して頂いてこの通り」
大型の箱を見せるミザール。
「それは何ですか? 出資とは?」
「その概念も無いのか?」
出資の概念を伝えるとセバスは似たような事を口にする。
「出資・・・良い響きですね。早速銀行にも取り込みましょう」
「確かにな」
「アリア様! 私の新発明を見てください」
「悪い悪い」
「ミザール様、それは何でしょうか?」
「これは記録装置という魔道具です」
「記録装置?」
「実演してもいいですか?」
「あぁ」
「では・・・」
ミザールは魔道具を起動する。
上辺に見えた水晶球に映像が浮かび上がる。
「これはアリア様が所望された記録装置といいまして。この通り」
浮かび上がるのは収支報告書のテンプレート画像だ
「これは!?」
それを見てセバスは驚く。
「それに記録したい文字を打ち込むと」
カタカタカタ
ミザールの名前が表示されていく。
「記録できます。今は作成・修正・記録しか出来ません」
「いや、素晴らしい出来だ」
「これは、ずっと残る物なんですか?」
セバスが食い入るように見る。
「この中にワイバーンの魔石を入れています。滅多な事でない限り残り続けますよ」
「その仕組みをセバスにも教えてくれないか?」
「えぇ! えぇ!! 私はこう言うのが大好きですからね!!」
ミザールの悪い癖が出た・・・大好きな事になると熱弁に語る癖がある。
小一時間程の説明が開かれてセバスが驚き納得していく。
俺が着目したのは自身のステータスという情報は何処からくるのか?
【魂に書かれています】
と、導きの声が数年振りに反応してくれた。
さて、魂とはなんぞや?
そこから始まり、結論に至った。
魂とは肉体を動かすエネルギーであり、思念体であり、自身の情報を保管する物だと。
では、魂は何処にあるのか?
仮説では脳の事を言う人もいる。
それは間違っていないと思う、脳に記憶されている情報は本人が知らない情報もある。
体内で起こっている事を知っているのは脳なのだから・・・
ただ、生物の脳を取り出して使う事は出来ない・・・というか生命維持なんて無理だ。
「そこで注目したの魔石だ」
モンスターの体内にある魔石、魔力を有する器官。
「魔石には様々な使い方がある。そうだな?」
「えぇ。まだ普及されてませんが魔道具の動力源としても使用されています」
魔石を使った魔道具は少なからずある。
魔王同士が通信する遠距離通信の魔道具がいい例だ。
空座城にも完備されていたのは手紙を送った後に判明した事実に俺は泣いた。
「魔石にも記憶する力が備わっている事に気づいてな」
「アリア様は天才です! 私達の常識を覆しましたよ」
「そうですね。いつも驚かされっぱなしです」
ミザールとサバスは意気投合し始めていた。
魔石に情報を刻むことが出来る、どの位刻めるかは大きさに比例してワイバーンの魔石ならば長期間は見込んでいる。
小さな魔石に刻めば紙数十枚分になる・・・つまり資源の削減になるという事だ。
「まずはココで試運転だ」
「えぇ。使い方を教えて頂いても?」
「はい!」
ミザールが使用方法をセバスに伝授し職員へと広がる。
数日後に感想を貰った。
「紙派と記録装置派で別れましたね」
「予想どおりだ」
古くから行ってきたやり方に依存するのは仕方がない事だ。
「まずは使い勝手の悪さが原因だな」
紙派の意見は装置の使い勝手が悪いという評判だ。
装置が1つしか無い為に渋滞ができてしまった様だ。
ワイバーンの魔石を手に入れるのは難しいしな。
それに沢山記録装置を用意しても情報が共有できなければならない。
「とりあえず、子機を準備しました」
ミザールは僅か数日で記録装置を親機にして小さな板型の入力装置を作ってきた。
「どうやって打ち込んだ情報を送るんだ?」
「転送魔法陣を組み合わせました」
情報を転送するのか?
「長距離通信装置も同じ原理ですよ?」
前例があるならば応用も可能なのか。
映像や音声を転送する長距離通信装置の応用で情報をワイバーンの魔石に転送するそうだ。
それによって渋滞する事なく記録がスムーズとなった。
もちろん、ソレを見た商人たちが食いつかない筈がない。
が、ワイバーンの魔石を使用している事に殆どが諦めて帰る事となる。




