欲望に濡れた 赤い糸
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大問4 アニメ 20/30
第24問
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「この答えは……Fだ」
香本さんから解答を聞いた後、夏恋さん達にその答えを伝える。
まるで伝書鳩のようだ、泣けてくる。
俺の涙ぐましい努力のおかげで彼女たちの順位は同率4位だ。
大問5もこのペースでいけるなら、無事に生き残れるだろうと考えていたら、
「蒼汰くん、アニメお好きなんですね。少し意外です」
夏恋さんがはにかみながら、話しかけてきた。
相変わらず可愛いな。俺の考えは変わっても、感性は変わっていないらしい。
「ああ、意外だろう? よく言われる」
高めの声を出しながら、そう返事をした。
『チョット、私の手柄を横取りする気?』
香本さんが俺の肩を小突いてくる。
幽霊になって触れなくなったせいか、妙にスキンシップが激しい。
男嫌いも幽霊になってしまえば関係がないのだろうか。
「……」
というか、横取りも何もないだろう。
まさか君の友達の幽霊さんから答えを聞いてるんですよ~。という訳にもいかない。
そんなことをすればまた頭がおかしい人扱いだ。もうあの視線は勘弁して欲しい。
今の俺でも無機物と見られるのは堪える。
「ハルも好きだったみたいなんです、アニメ。私やユミには秘密にしていましたけど……ふふっ。
もしハルが生きていれば、蒼汰君ともっと仲良くなっていたかもですね」
思い出を懐かしむように言った。
大きな悲しみを秘めながら。
周囲を見回した後、俺は口を開いた。
「そうか、香本さんは亡くなったんだな」
真剣な顔をしながら、すっとぼけたことを言う。
ふふふ、だがこれで安心した。香本さんは実際に死んでいる。
つまり俺が今見ている香本さんが幻覚である可能性は、低い。
「…………」
視線を話の中心人物に向ける。
彼女は隣で、うわっ、バレてたんだという言葉を発していた。
アニメが好きな事を隠していたんだな、香本さん。
「はい、男の人から私を庇ってくれて……」
鼻をすする可愛らしい音と目に溜めた涙が俺の心にこびり付いていく。
俺はそれを振り払うように、頭を左右に振る。
長い髪からは血の匂いが溢れ出して、俺を正常にしてくれた。
「庇った?」
自分の心が落ち着いた所で、夏恋さんに尋ねた。
さっき香本さんから聞いた話とは少し違う。
「私が……走ってくれる男の人とぶつかりそうになった所を間に入ってくれて、
でも、それが原因で……!
ハルちゃんはいつもそうだったんですっ。
小さい頃から弱い私を助けてくれて、いつも助けてもらってばかりで……何も……私がしてあげられずに」
『カレン、もう気にしないで。
っていうか、そんな訳ないじゃん!』
香本さんが俺の側を離れ、夏恋さんの肩を優しく抱いた。
そして喋りかけていた。届かない声を彼女に伝えようと。
無意味な行為だ……スマホの画面を見る。24問目は無事に正解か。
残す所は大問5のみだ。
俺は目を閉じ、壁に寄りかかった。意味のない行為だが、邪魔をする気にはなれない。
数分の間、俺は夏恋さんの言葉に相槌を打ち続けていた。
香本さんは懸命に彼女を慰め続けていたが、その言葉は届く気配がない。
……仕方がないな。俺は耳を傾けながら、口を開いた。
『「カレン、私がカレンを助けてきたみたいに、私もカレンに助けられてきたんだよ!
ソレ、わかってる? 思い出してよ。小学校、中学校、高校、いろんな場面で助けてもらったの覚えてんかね。
それにユミと私はしょっちゅう喧嘩してたけど、いつも仲裁してくれたじゃん!メッチャありがたかったんだから。
3人仲良くしてこれたのも、カレンのおかげ、それを忘れないでよね」』
誤魔化せなくなる情報は省いて、後は香本さんが口にした内容をそのまま言った。
当然、
「そ、蒼汰君?」
夏恋さんは困惑したような表情を浮かべていた。
九条も似たような表情をしている。
俺はその反応を無視して、壁にもたれ掛かりながら、言葉を紡ぐ。
『「私もユミも死んじゃって、ほんとう、ごめんね。
でも最後まで守るから! カレンの事、絶対。
だから泣かないで。ここを生きて出て。そしたら、カレンなら絶対私以上の友達作れるから!」』
そこで香本さんは口を止めた。
代わりにすすり泣くような音が聞こえ始めた。
俺は香本さんの顔を見ないようにしながら、夏恋さんを見た。
「って言うんじゃないかな。香本さんなら」
肩をすくめながら夏恋さんに対して言った。
隣で光宙が無理があるだろう、と冷静に突っ込んで来たので、光宙目掛けて腕を動かした。
「……そう、でしょうか? 私がハルちゃんに何かしてあげられたんでしょうか」
夏恋さんは下を向きながら、ポツポツと喋った。
俺は心の中でため息を吐く。いつ大問5が始まるともわからない。
とっとと他の事に移りたいんだが。
九条をチラリと見た後、もう一度心の中でため息を吐き、夏恋さんへ視線を戻した。
「ああ、断言できるよ」
「どうして、ですか?」
俺の力強い言葉に、夏恋さんは思わず顔を上げた。
それを見て言葉を畳み掛ける。
俺はゆっくりと力強く、視線を曲げずにデタラメ半分を話す。
「実は最初会った時から俺、夏恋さんの事いいなと思ってたんだよね。
だからさ、香本さんと2人で話すタイミングがあった時に聞いたんだ。
彼女のいい所はどこ? って。そしたらさ、さっき俺が話した内容を聞いたんだよ。
だから間違いない」
最後に後半部は勝手な想像だけどね、と付け加えた。
夏恋さんは俺の言葉を噛み砕くように頭をゆっくりと縦に振りながら、聞いていた。
「…………」
はぁ、それにしてもキモ。なーにが“君の事いいなと思ってたんだよね”だよ。死ねばいいのに。
モテる努力はしているつもりだが、こういうチャラい感じのキャラは嫌いだ。
俺が後悔をしていると、
「そうだったんですね。ハルちゃんがそう言ってくれたなら、嬉しいな。
あれ……どうして、かなっ。嬉しいって思ってるのに、えへへ。おかしいですね」
あの……ごめんなさい、と言ったのだろう。
終わりの方の言葉は上手く聞き取れなかった。涙で声がしどろもどろになっているからだ。
顔を両手で隠しながら、夏恋さんは静かに泣き始めた。
『……ありがとう』
「バトンタッチしたのか」
ついさっきまで泣いていたはずの香本さんが俺に近付いた後、声を掛けてきた。
その言葉に冗談っぽく返事を返した。夏恋さんと九条に聞こえないような声で。
『そんな訳ないでしょ。泣くなって言った私がこれ以上泣くのもあれだし。
でも、どうしてここまでしてくれたの? 一歩間違えれば変人扱いよ』
狂人の次は変人か……。つい笑いが溢れてしまった。
そうなったらそうなったで、香本さんの願いを断る方便にもなって気が楽なんだがな。
目を擦っている香本さんを見た。
さて、どう答えたものか。顎に手を置き、少し考えた後に返事をした。
「香本さんが思っていた以上に良い奴で、夏恋さんが好みの人間というのもある。
だが、まぁ最大の理由は俺に協力してくれてる感謝の印と貸しを1つ作っておこうと思ってな」
『か、貸し?』
目を大きく開き、戸惑った素振りをした。
俺は迷わずに言葉を続ける。
「そうだ、何かあったら1つ俺の言うことを聞け」
『いやよ! どうせエッチなことするんでしょ!?
男ってケモノだもの!』
どこでそんな偏見を植え付けられたのだろうか。
というか、そもそも
「お前、幽霊じゃん」
『蒼汰はむっつりだからなぁ。ハルちゃん、覚悟しとけよ』
『うう、ヤバイ奴に借り作っちゃった。
ってネズミにその呼び方を許した覚えはないんだから!』
幽霊同士仲良くガヤガヤしていた。
むっつりという言葉に反応しそうになったが、今はそんな場合じゃない。
小さな問題は片付いた事だ、本命と話をさせてもらおう。
「九条――さん、聞きたいことがある」
居心地が悪そうに肩をたたみ、ロングシートに座っている彼女に声を掛ける。
「……ええ、あと呼び捨てで構いません」
「そうか」
相手はおそらく年上だろう、服装からして。
スーツ姿がなぜか似合わないと感じた。最初見た姿があんなだったからだろうか。
普通なら身長の高さや顔の凛々しさも相まって似合っていると感じてもおかしくない。
顔も美人だしな、どうでもいいが。
「聞きたいことはいくつかあるが、まず1つ目だ。
さっきの話の中で、“お話に聞いた”って言ってたな。
あれはどういうことだ」
人差し指を立てながら、ズケズケと話していく。
こいつに遠慮はいらないだろう。
正直、まだこいつに対する怒りのエネルギーが溜まったままだ。
「あれは、そのままの意味です。
香本さんからのお話で皆さんにご迷惑をお掛けした事を聞きました」
「ん……つまり聞かされるまで自分のしたことを知らなかった。
一連の記憶を覚えてないってことか」
これが本当だとしたら随分と都合の良い事を言うな。
俺の怒りの理由を見る。楽しそうに香本さんをからかっていた。
呑気だ……まぁ事実を知らなければそんなもんか。下手したらあいつの事だし、知った所で……。
「すみません、その通りです。ケンタ――彼が死んでしまった後のことを殆ど覚えてないんです。
あなたの顔は朧に覚えていましたが……」
「俺の顔は覚えていたか」
どうしてだろう。2回接触したからだろうか。
それとも……殺めてしまおうとしたからか。
「お話で聞きました。
夏恋さんを……殺そうとしていたこと、あなたがそれを止めてくれたことを」
かなり荒っぽい止め方だったがな。
そういえばあんな派手な転び方をして、怪我らしい怪我が見当たらない。
怪我はなかったか、聞こうかどうか迷い、やめた。気を使ってるようで嫌だしな。
「心から感謝しています、そして申し訳ないと――――」
「ちょっと待て」
彼女の言葉を断ち切る。
まだ話を終わらせるわけにはいかない。
「あんたがやった事の殆どを覚えていないんだよな」
「は、はい」
九条は長い前髪を揺らしながら、戸惑った表情をしていた。
そして碧い瞳はどこか怯えているように見えた。
何に怯えているのだろうか、これから話す内容に検討が付いてるとか、ないか。
「俺はあんたに刺されかかった事に対しては、さして怒っちゃいない。
だけど1つそれ以外で許せないことがある」
「…………」
静かに響き続ける泣き声と唾を飲み込む音が聞こえた。
あとは喧しい声だ。それは俺にしか聞こえないが。
「実はな俺とあんたは2回顔を合わせてる。
1回は夏恋さん達と一緒にいる時だ。
もう1回は俺が1人で、親友の死体の側にいた時だ」
「…………」
九条の顔を見ずに、天井を見上げた。
俺のやっていることは無意味だろうか――いや、価値のある行為だ。
「死体なんて所詮ゴミだ。大した価値はない。
どれだけ生前仲の良かった友人の物であろうとな。
そう、頭では思っている。頭ではな」
この考えは狂った世界に入る前から、あった気がする。
元から中々に酷い人間だ。今の自分になる素質はあったんだろう。
「ふっ……」
あえて間を取った。
考えさせる時間はあった方がいい。
今頃九条は死んだ恋人の死体でも思い浮かべてるに違いない。
「狂っていたあんたは俺の友達の首を蹴り飛ばした。
まるでサッカーボールのようにな。
あんたが死体に対してどんな想いかは知らないが、俺は怒ったよ。
理屈抜きでな。あんたをどうにかしてやろうと思った」
「そんなっ……ことを」
視線を下ろし、九条を見る
ショックだったのだろう。彼女は口元を隠し、顔を横へ逸らした。
悪くない反応だ。本来はまともな人間なんだろう。
どうしてあそこまでおかしくなってしまったんだか……。
まぁ、いい。あともうひと押ししてやれば……ふふふっ。
口元を小さく曲げた後、口を開こうとしたが、
『えええええっ!? この美人さん俺の生首、蹴ったの?
マジかよ……全然知らなかったわ。悪いことさせちゃったなぁ。
って、だから蒼汰怒ってたのかよ~。俺のこと好き過ぎんでしょ』
俺の肩を組みながら楽しげに語り掛けてきた。
いつの間にこっち来てたんだよ、というか幽霊の癖して暑苦しいぞ。
にしても……やっぱり怒らないか。むしろお前が罪悪感を抱くのかよ。
「はぁ……」
『おいおい、ため息吐いてどうした?
あっなんだ、安心しろよ! 俺も蒼汰のこと好きだぞ!』
『うわッ、アンタたちそういう関係だったわけ?」
今すぐに否定したかった。
けど、人がいる前で喋りかけるわけにはいかないか。
……夏恋さんは今だに泣いてて、九条も泣きかけてるし、問題ないかもしれないが。
俺も成長したな。女2人を泣かせられようになるなんて。
「…………」
上を見上げながら、眉間に手をかざす。
物事の張本人である光宙がこれだし、追撃はやめておこう。
俺の目的や……モヤモヤも晴れたしな。充分だろう。
「九条」
下を向いている彼女に話しかける。
「……はい」
予想通りというべきか、ほんのりと目に涙を浮かべていた。
悪くない。
「あんたは多分そんな悪い人間じゃあないんだろう。
恋人の事を想うがあまりっていうのもわからなくもない」
実際は恋人を持った事がないからわからないが。
「だが、あんたは間違いなく倫理的に良くない事をした」
こんな状況で何が倫理だか……
俺の考えも知らずに彼女は暗い声ではいと返事をした。
「わかっているか。
なら、後悔や反省の意識を形にして返してください」
最後はなるべく優しい声で言った。
実際にそうかはわからないが。
「……はい、決めてました。
香本さんは助けられませんでしたが、夏恋さんと蒼汰さんを必ず助けられるようにします。
助けて頂いた分、辛い思いをさせてしまった分を必ず……」
蒼汰さんには特に迷惑を掛けてしまいましたから、と言葉を続けた。
悲愴な決意、というのはこういうのを言うのかもしれない。
声の色だけじゃなく、体全体から痛々しい雰囲気を出していた。
それを見た俺は。
「期待していますよ」
と微笑んだ。
スマホから通常設定のままの着信音が聞こえる。
第5問が始まるらしい。画面を見て、困惑した。
これは一体何を表しているんだ――――
??????????????????????????????????
21/??
『ACTION!』
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