夢か現か、現実か
『拝啓 蒼汰のお父様、お母様 お元気でしょうか。
光宙です。私は身軽な体になりましたが、元気です。
本日はお父様、お母様の大切な子供である、蒼汰君についてです。
まず1点目は彼がちょいワルになってしまったことです。
平然と人を蹴り飛ばしたり、悪い笑みを浮かべたりするのです。
ですが、私は特に問題を感じていません。このままでもいいと思います。
ですので、もしおふたりが問題に感じましたら、ご家族で話し合って下さい。
彼には彼なりの考えがあります。
さて、問題は2点目です。
なんとッ! お宅の息子さんはむっつりから一気にドスケベになってしまいました!
透け透け女の子のパンツを見てニヤリと笑みを浮かべたりしています。
挙句にはあの時の貸しを返してもらおうかぁグヘヘ、と迫ったりまで……。
しかも! その行為は1人にだけじゃないんです。もう1人、息子さんが好きそうな黒ストッキングを履いたOLさんにも同じ行為を……!
お母様、覚えていますでしょうか。高校1年の夏、彼の勉強机に置かれていたエロ――――』
「光宙集中しろ……!」
小さな声で、出来る限りの怒気を込めて言った。
こいつはベラベラと、なに俺の性癖をバラしている!
香本さんは……いないな。まだ索敵中か、幽霊とはいえ女子に聞かれたくはない。
無駄にピュアだからなぁ、情報を鵜呑みにしかねない。
俺が頭を痛めていると、
「蒼汰くん! 右に!」
「っ……ふ」
夏恋さんの言葉を聞き、俺は右手に持ったスマホを振るう。
スマホの上部から直線上に発生する青い光の粒子らしきものが、暗闇に潜む首なし胴体の体に当たる。
どういう原理かはわからないが、宙に浮いていた胴体は攻撃が当たると床に落ち、ピクリともしなくなった。
「いよいよ、現実離れしてきたな……」
元からと言えば、元からだが。
頭から流れ落ちる汗を拭う。この密閉された車内での運動は堪えるな。
『いや~よかった、よかった、流石蒼汰さん!
見事な一太刀――――』
俺の前にいる太鼓持ち野郎からは視線を外す。
というか今は喋りかけるな。光宙を無視していると、
「大丈夫だった?」
後ろにいた夏恋さんが隣まで来て声を掛けてきた。
彼女も俺と同様、一緒の武器を持っていた。粒子の色は赤色だが。
「ああ、ありがとう」
とは言ったものの、俺が倒したのは失敗だったな。
独走してる俺が1ポイントを稼いだ所で仕方がない。2人のどちらかに攻撃させるべきだった。
つい手が出てしまったな、これじゃあ人の事は言えない。
「…………」
心の中で舌打ちをする。
俺が最も優先すべき事は“他のプレイヤーから攻撃を受けないこと”これのみだ。
忘れるな。
「九条、残りの時間は?」
後ろに控えている彼女に声を掛けた。
「4分を切りました」
先程の怯えたような声とは違い、凛とした声が返ってきた。
これが彼女の本来の声なのかもしれない。
「よし、なら夏恋さんと九条、両方とも前に出てくれ」
その言葉に2人は頷く。予め決めていた話だから、スムーズに事が進む。
俺はそのまま言葉を続ける。
「気分は良くないだろうけど、死体を切ってポイントを稼ぐんだ。
攻撃には注意しろよ。いざとなったら迷わず【SPECIAL】ボタンを押せ。
後ろは俺がしっかりと守るから、安心してくれ」
「……わかりました」
夏恋さんの悲しそうで不安そうな返事が返ってきた。
何か励ました方がいいだろうか、と思っていると、九条が先に口を開いた。
「夏恋さん、安心して下さい。
必ず守りますから」
九条は夏恋さんの隣まで歩いてきて、慈しむように語りかけた。
本当、随分な変わりようだ。大人の見本みたいな人物になっている。
「あ、ありがとうございます。
でも、私も頑張りますから!」
九条の声に元気づけられたのだろう。
夏恋さんの声からは不安が消え去っていた。
「…………」
2人の後ろに下がりながら、思う。
ゲームが始まって2分弱、狭い車内だというのにプレイヤーと今だに会っていない。
俺達のスタートが端からというのも理由の1つにあるだろう。
と考察を始めようとして、止めた。
「違うな」
今は過去の結果を考察する時間じゃない。
これから起こりうる未来について考えるべきだ。
「ふぅ」
残り4分と短い時間しかない。
だが、最も死に近い時間になるのは目に見えている。
他のプレイヤーとの遭遇、それは即ち……
「帰ってきたな」
偵察を頼んでいた香本さんがこちらに戻ってくるのが見えた。
「おい、光宙の番だ」
スマホの画面外から発生する1メートル弱の粒子の先っぽで、光宙の尻をつつく。
すると泣き叫びそうな声が返ってきた。
『ひぃぃぃっ、その剣を近づけるなって言ったろぉ!
それに当たると体が溶けそうな感じになるんだよ……。
って、またやめ……も、もしかして怒ってます?』
「いや、さして怒ってない。
光宙のそういう姿は中々見れないからな、遊んでるだけだ。
というかだな、夏恋さんがあんな近くにいるのに喋れるわけがないだろう。
察しろ」
頭を掻きながら気だるげに言った。
『あーそうだよな。悪かった、じゃあ今度はちゃんと働いてくるよ』
真面目な声でそう言ったあと、光宙は前方を飛んでいった。
……時間は残り3分半か、状況は悪くない。
夏恋さんと九条の真剣な声を聞きながら、俺も意識を集中させた。
「ほぅ、せめて君を殺せればと思っていたが、私は運がいい。
君達3人を殺せれば私達も生き残れるじゃないか。
なぁ、高安君?」
「偉そうに言うんじゃねえよ、老害モドキ。お前と俺はあくまで対等な関係だ。
それを忘れるなよ」
「ハハハっ、それはすまなかった」
隠しきれない傲慢が鼻につく爺と大学生らしき男が、目の前で話をしていた。
「よりによって相手はあの爺か」
残り2分を切るか切らないかという所で、最悪の相手と会ってしまった。
よりによって俺を殺す気満々な奴が相手か。
「チッ」
嫌な予感はしていたんだが……確認の為スマホの画面を見る。
ランキング2位と9位の人間が死んでいた。どっちかか、はたまた両方の殺しに関与してるに違いない。
高安という男にしろ、爺にしろ、順位から見て、ちまちまポイントを稼いだ所で生き残るのは難しい。
誰かを殺した方が手っ取り早い。
「よそ見をしてる場合かね、この屑がア!」
「……危ないッ」
俺が画面を見て、どうするかを考えている内に爺が青い光の粒子を手に俺に切り込んできた。
だが、俺の前には夏恋さんと九条がいる。
剣の長さから考えても届くことはないだろうに、耄碌してるな。
内心で笑みを浮かべながら、真剣な表情で口を開いた
「九条、助かった」
「いえっ」
赤い光と青い光の粒子がぶつかりあい光が弾ける。
殺し合いとは似つかわしい、幻想的な風景を生み出していた。
ふむ、それにしても実体のない剣でも鍔迫り合いになるんだな。
なら、作戦は決まった。
「夏恋さん! もう1人の相手に攻撃をするんだ。ガードさせればいい!」
「えっ……う、うん。わかった!」
戸惑いながらも、夏恋さんは高安という男を攻撃するために構えた。
『蒼汰ッ! 前の方でも1対1の戦闘が起こってるから巻き込まれないようにな!』
光宙が爺の後ろ辺りで必死に叫んでいた。
俺はその言葉を聞き、静かに頷いた。これ以上面倒な状況になるのは避けたい。
「…………」
九条と爺が鍔迫り合いをしている隣で、夏恋さんが攻撃を仕掛けようとした所に、
「何をグズグズしている、貴様ァ! それでも玉が付いてるのかッ!」
爺の大きな喝が飛んだ。
いくつもの手すりが同時に揺れたが、まさか声で揺れたとは思いたくない。
「わっ、わかってるよ。女を殺すのは気が少し引けただけだ!
死ねッ! 俺の金の為にな」
「ひっ……」
不味い。夏恋さんが身をすぼませている。
爺の声で威圧されたのか。あれじゃあ攻撃をモロに食らう……。
「きゃっ!」
「……クソっ」
咄嗟に夏恋さんをロングシートへと弾き飛ばす。
そしてその空いた場所へ体を滑り込ませ、男のブレードを受け止めた。
後ろから“も、もう少し優しく扱いなさいよ”という香本さんの声が聞こえたが、そんな余裕はない。
小物と見合っていると、ニタニタと笑みを浮かべながら口を開いた。
「はっ、彼女を庇ってヒーロー気取りですかぁ?
キモロン毛が調子こいてんじゃねえよ!」
「黙れ、小物が」
眼前で青と青の光が弾け合う。
受け止めた態勢が悪かったのだろう、ジリジリと胸元へと相手のブレードが迫ってきた。
一撃でも当たれば死ぬ。残りの時間、粘りきれるか……?
「九条、俺達は生存圏内だ! 勝つ必要はない。
時間終了まで粘れ!」
「はいッ、持ちこたえてみせます」
彼女は大丈夫そうだが、問題は俺か。
「その小僧をとっとと殺せッ! 何故技を使わんっ!」
「あんただって使ってないだろうが! このクソジジイが……覚えとけよ」
……運がないな。
切り札を温存していたか。
「ふへへ、死ねよ。
お前みたいな奴がなぁ、俺は大っ嫌いなんだよ」
粘りつくような声を出した後、スマホの画面を押す。
すると、機械で作らたような男の声がスマホから発した。
その男の声はまずスペシャルといった。
……俺はこの後に続く言葉を知っている。そしてその力を。
“MAKXIMUM・POWER”
その声と共にブレードの色は淡い青色から濃紺へと変化し、ブレードの幅・長さ共に倍以上になった。
通常状態とは全くの別物だ。見た目だけじゃなく、力も……!
「蒼汰さん!」
『蒼汰ぁ!』
九条と光宙の悲壮な声が俺の結末を暗示しているように思えた。
実際に通常状態のブレードでは力負けをして、着実に死に近付いてた。
だが、俺は死ぬなんて思っちゃいない。
小物の目を見つめ、笑った。
「ヒヒヒッ、気でも狂ったか。
お前もあいつみたいに汚くシネ!」
汚く死ぬのはお前の方だ。臭いツバを飛ばしやがって。
「…………」
ブレードが近付く度に、相手の体制がどんどんと前のめりになる。
そろそろか、じゃないと俺が死ぬハメになる。
右足を後ろへと徐々にズラしながら、気取られるのを避けるため口を開いた。
「お前の敗因を教えてやるよ」
「何を言って――――」
「足の長さだ」
自慢気に言いながら、俺は小物の股間目掛けて足を動かした。
「――――ひぎ」
「バネの効いた蹴りだ、素人のでもダメージはでかいだろう」
『バネ関係ないだろ……股間へのダメージは……』
光宙の唖然としたような呟きは聞かないことにした。
肝心の蹴りを食らった男は、一言情けない声を出した後、泡を吹き出しながら気を失っていた。
ざまあみろ、昔のならともかく今の髪をバカにした奴は許さん。
精々股間の痛みを思い出しながら、死ぬんだな。
「ふっ」
残りの時間はもう10秒。
作戦とは随分とズレた展開になったが、まあいいだろう。
俺の勝ちだ。鍔迫り合いをしている爺を満面の笑みで見る。
と、
「キェェッエエエエエエエィ!」
MAKXIMUM・POWERという音と共に、奇声が車内に響き渡った。
声の勢いを味方に付け、爺はやぶれかぶれに向かって来る。
それを見て俺も剣を構える。が、必要はなかった。
なぜなら爺の攻撃を受け止めたのは――――夏恋さんだったからだ。
“MAKXIMUM・POWER” “MAKXIMUM・POWER”
という音が2つ響き合った。
おそらく夏恋さんと九条が発動をしたのだろう。
「ごめんなさい……私、助けて貰ってばっかりで……!」
「いや、構わないさ」
ツケにしておこう。
心の中でそう呟いた。
「私もすみません……抑えきれませんでした」
「充分だ、ありがとう」
九条も夏恋さんを支えるように爺のブレードを抑える。
紅いブレードが2本、濃紺のブレードが一本。
暗闇を引き裂くように交わり合う――美しい、ただそう思った。
余裕があるからこそ、そう思えるんだろうな。
輝く赤と青から視線を外し、スマホを見る。
「勝負あったな」
俺の声と同時に光の粒子は消え去り、
「貴様ァきさまは私をコケ二ィィい――――」
老害が叫んだ。
しかし、最後まで言い切る前に老害の体は6等分にカットされていた。
「夏恋さん、見ちゃダメです!」
九条が夏恋の目を隠すのが見えた。
「…………ッ」
俺も肉塊から視線を外し、口元を抑えた。
頭、胴体、右腕、左腕、右足、左足、綺麗に切られていた。
まるでこれが本物の芸術だといわんばかりに。
「思い出すな、思い出す必要はない」
自らに訴え掛ける。
あんな物を覚えていても、何の意味もない。
だが、忘れようとするほどに記憶はより強く、鮮明に残っていく。
「今更だろう……! 生首なり首なし胴体なりを散々見てきたんだぞ」
自分に言い聞かせ、言い聞かせ――――――――
「蒼汰くん! よかった……」
目を開けると、夏恋さんの顔が間近にあった。
「うぉ!? あ、ああ……夏恋さんか」
つい咄嗟に立ち上がってしまった。
もしかしなくても彼女の膝にいたらしい。
もっとゆっくりとしておけば、という考えが浮かんだ瞬間――
「きゅ、急に立っちゃダメですよ!」
――言葉を聞くよりも早く、頭にぐらつく様な感覚が襲ってくる。
その感覚が体全体に広がり体全体がふらついた。
「大丈夫ですか? 蒼汰さん」
そのフラつきを抑えるように、九条が受け止めてくれた。
彼女の髪が鼻元に当たる。どこか……安心するような匂いが俺を落ち着かせた。
「あ、ああ、ありがとう。俺は……気を失ってたのか」
「ええ、あのような物を直視したら仕方がないですよ」
俺を抱き抱えたまま、九条は優しく語りかけた。
クソッ。
自分をコントロールできずに、結局気を失ったのか。
情けないな、たかが汚い物を見たぐらいで。
歯軋りが聞こえる。
音の発信源はどこだろう、と考えていると、
「…………」
俺の頭を撫でる奴がいた。
「やめてくれ……」
自分でも驚く程に力の無い声が出る。
「あっ、すみません……」
「いや……」
この歳で頭を撫でられる羽目になるとは。
っと頭もスッキリしてきたな。いい加減離れよう。
「ありがとう」
自然とそんな言葉が漏れる。
俺もかなりギリギリの状態のようだ。
「いえ、お役に立てたならよかったです」
彼女の儚くも優しげな顔をぼんやりと眺めていると、俺の目を覚ます声が聞こえた。
『蒼汰ぁああああああ! 生きてて良かった……死んだのかと思ったよ、コイツぅ!
というかお前羨ましいぞ。夏恋ちゃんの膝枕を受けた後に、九条さんの胸元に顔を埋めるなんて!』
『泣くのか怒るのか、ハッキリしなさいよ。
まっ生きてて良かったわね。アンタが死んじゃうとカレンも悲しむだろうし』
『へーハルちゃんはハッキリしてますもんね。
蒼汰が起きるまでワンワン泣き散らしながら“私……何もできなくてゴメン”って言ったあと、今にも死にそうな顔してたじゃん!』
『ね、ネズミ! それは秘密にって……。ウソ! こいつが言ってんのはウソだかんね!』
「……まったく」
俺の目の前で騒いでる2人を見て、口角がつい釣り上げがってしまった。
にしても失敗だったな。【SPECIAL】の性能を知るために、俺が起動実験をしたのは。
夏恋さんにやらせておくべきだった。そうすればもう少し余裕のある展開に、と考えていたら、
「蒼汰くん……」
席を立ち上がった夏恋さんが顔を俯かせながら話しかけてきた。
「ん? 夏恋さん、どうかした」
腕や足のストレッチをしながら、俺は適当に返事をする。
ふぅ、疲れが蓄積してるな。軽く眠ってしまったせいで余計にそれを感じる。
「ありがとう、それとごめんね。
さっきも、クイズの時も……もう3回も蒼汰くんに助けて貰って。
けど、私は何もできなくて」
スカートの裾を掴みながら彼女はポツポツと言葉を喋った。
香本さんの時に吹っ切れたと思ったんだがな。想像よりも問題の根は深いらしい。
まぁ、いい。精々利用させてもらおう。
「気にしなくていいよ……と言っても納得できないか。
なら俺がピンチにでもなった時は助けてくれ」
好青年っぽい声で、爽やかに言い切る。
俺の言葉を聞いて夏恋さんは顔を上げ、
「う、うん! 蒼汰くんがピンチになったら必ず助けるからね」
「頼むよ」
その言葉と共に、俺は夏恋さんの頭に手を載せる。
……彼女の髪は俺の髪と違って、血に汚れていない。綺麗なままだ。
「蒼汰くん……ちょ、ちょっと恥ずかしいよ……」
「なれないな」
「えっ?」
「いや、何でもない。悪かった」
彼女の頭から手を離す。
どうしてか虚しくなった。
『カレンに気安く触るのよしなさいよ』
香本さんが腰に手を置きながらプリプリ怒っていた。
俺が適当に謝ろうとして、
『代わりに私を撫でなさいよね!』
『キモッ! それ私の真似もつもり!?
ちょっ逃げんな!』
車内を鬼ごっこか。
俺も今の物真似はキモいと思ったから、ぶちのめしておいてくれ。
「仲がいいこった」
車内を飛び交う2人を眺めて、言葉がポロリと出てしまった。
「どういうことですか?」
九条さんに聞かれていたらしい。
解いていた髪を結び直しながら尋ねられた。
ポニーよりストレートの方がいいな、どうでもいいが。
「独り言さ。
それよりも今の状況は?」
車内を見た限り俺達しか生き残っていない。
と言われても納得してしまうほどに静かだ。
……目を閉じると平穏な時の車内が蘇ってくる。
疲れている人間の心を癒すような暖かい光が車内を包み、柔らかくチープなロングシートが体を沈めさせる。
時々聞こえる話し声が喧しくも心を落ち着かせた。可愛い子を見つけてチラチラ見たりして……。
寝ようとする俺を邪魔するあいつの声。決して嫌じゃなく、あれは俺にとっての日常だった。
俺にしろ、他の人間にしろそうだ。
幸せだと断言はできないかもしれないが、死ぬほどに不幸ではなかったはずだ。
どうしてこうなったのかな。
「くだらん」
頭を振り、目を開く。
今ある現実が全てだ。今の自分こそが絶対だ。
それでいい。
「……大丈夫?」
夏恋さんは心配そうに俺を見上げていた。
心も体も、もう限界かもしれないが、もう少しなはずだ。
「ああ、すまない。
話を続けてくれ」
「うん、と言っても変わったことは1つだけしかないんだけどね」
苦笑いをしながら、スマートフォンの画面を見て、と言われた。
俺はそれに従い、いつの間にかポケットに入っていたスマホを取り出す。
画面にはずっと待ち望んでいた言葉が書かれていた。
『サイゴノゲームヲハジメマスカ?』 6
『ハイ』
「ふっ」
見慣れた画面だ。
黒い背景に赤い文字が描かれている。
怖さも何も、もう感じない。
「……?」
今回は選択肢がなくて、潔いなと考えていたら、1つの違和感に当たった。
生存できるのは5人じゃなかったのか?
数字を見る限り6人も生き残っている。同率5位の人間がいて、両方生き残れたのだろうか。
よくわからないな。まぁ、次に進めばわかることか。
「準備はいいか?」
夏恋さんと九条の顔を見る。
2人とも俺を見ながら静かにゆっくりと頷いた。
……覚悟は出来ているらしい。
「ふぅ」
息を吐き出した後、3人揃ってボタンを押す。
すると――――世界は変わった。
「なんだ……これは」
車内には俺達しかいなくなり、
世界は暗闇から地獄へと――姿を変えていた。
お読み頂きありがとうございます。
今回のお話は予定から大幅にズレました。
詳しくは活動報告で。




