死体を越えた先の仇
「クソッ、本当にこっちでいいのか?」
死体だらけの車内を走りながら、悪態をつく。
『さっき見てきたんだから、間違いないわよ!』
右隣にはこうなった原因の香本さんが、
『ほら~、蒼汰遅いぞ。もっと早く!』
前方には光宙が手招きをしながら、煽り立てていた。
「お前らは、空飛べるからって……!」
俺は死体を踏みつけないように移動してるんだぞ!
というか、お前ら幽霊だから障害物もなんのそのか。
「チッ」
いっそ踏みつけて移動するか? そっちの方が楽だ。
でも汚いな、やめよう。
慎重に足を動かしながら、スマホの画面を見る。
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大問4 アニメ 16/30
第20問
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「全然わからん! 香本さん、解け!」
『ナニその言い方!? ……B、Bよ。
答えを押しながら、走りなさい!』
言われずとも、という言葉を飲み込みながら回答ボタンを押す。
まず間違いなく正解だろう。2人のおかげもあって、首位を独走している。
なのに、いや、だからか。問題を解きながら走る羽目になっている。
『……あの女、なにやってんのよ』
長い爪を噛む仕草をした後、香本さんはそう言った。
どういう意味だ。まぁ、いい。
助けてやるんだ、生きて恩を返せよ。夏恋さん。
じゃなきゃあ、意味がない。
『おおっ……いるいる……? あれ、夏恋さんの隣にいる人だれだ。
メッチャ美人じゃん!』
1人スイスイと先に飛んで行った光宙は訳のわからない事を言っていた。
一緒にいた友達が2人死んで、夏恋さんは1人でいるとばかり思っていたんだが。
「ちょっと待ってろ!」
周りの目線など気にせず、大きめの声を出す。
足の動きを早めようとして――――
「若いの」
――――声を掛けられた。
つい足を止めてしまう。声のする方へ顔を向けると、白髪の老人が柔らかいロングシートに姿勢よく座っていた。
ギラリとした眼差しを俺に向けながら。
「…………」
何も言わず俺も老人の目を見つめた。
何故呼び止めた? 理由はいくつも考えられるが、1番可能性が高いのは……
「手を貸せ」
“協力”の要請だろう。
自分の結論と同じタイミングで、老人は尊大に言った。
偉そうだ、気に食わない。殺してやろうか。
「ふっ……」
視線をスマホの画面へと向ける。
こいつの順位は……8位だ。5人が生き残れるのだから、現段階では死ぬ。
だが、5位までの差は小さい。逆転も可能だろう。
というよりこの老人だけじゃなく、殆どの人間が逆転可能な状況だ。
10位の正解数0とかいうイカレポンチは除くが。
「見返りは?」
視線を老人に戻した後、シンプルに言った。
お前を助けて、見返りはあるのかと。
『チョッ、ちょっと……本気?』
香本さんが俺の肩を揺すってくるポーズをするが無視をする。
その行動、無意味だ。
「ふんっ、若いのが。いいだろう。
ここを出たら、現金で3億用意してやる。
ハワイにある別荘も付けてやろうか。どうだ、満足だろう」
偉そうな物言いで爺は言った。立場は俺が上だぞ? それをわかっているのだろうか。
それにしても発言の内容、トチ狂っているとしか思えん。
今すぐにでも蹴り飛ばしてやりたいぐらいだ。
「それを証明する手立ては?」
足を動かそうとしながら、そう言った。
すると爺は迷いなく懐から財布を取り出し投げつけてきた。
「っ、どういうつもりだ」
「証明書と名刺を見てみろ。時間はないぞ」
俺は長財布を開き、驚いた。
『うわっ、これもしかしてブラックカード……?
私初めて見たかも』
俺もだ、と心の中で同意した。
だが、ブラックカード以上に驚くものがあった。
「これは…………」
爺の言うとおり身分証明書と名刺を見て、愕然としてしまった。
あの言葉に嘘はないかもな……。
「あの財閥の会長か」
もう一度身分証明書に写っている顔と本人の顔を見比べた。
……紛うことなき本物だろう。あの巨大財閥の会長ともなれば、3億もありえなくはない。
どうする。いや、だがまだだ。
「どうしてこんな電車に乗っている。
アンタほどの立場の人間なら、車で移動するだろう」
もしくはヘリか? そのレベルの人間だ。
「…………」
俺の言葉に爺は腕を組み、沈黙を貫いた。
「なら、交渉は決裂だ。先を急ぐんでな」
視線を光宙へと向けると、
爺は一言‘待て’と言った。
「時間はないぞ」
そっくりそのままの言葉を返す。
俺の言葉を聞いて、爺は視線を下に向けた。
表情から見るに、言うべきか否か迷っているらしい。
「わかった、正直に言おう。
私の孫に会いに行こうとした」
「違うだろ」
俺は間髪入れずに否定をした。
どう考えても嘘だ。孫に会いに行くならそれこそ車を出せばいい。
なぜそんなつまらない嘘をつくのか。どうにも死にたいらしい。
ため息を吐いた後、俺はゆっくりと歩みを始めていると、
「待ってくれ……!
孫に会いに行くのは本当だ。
ただ……ただ、隠し子が生んだ子なんだ。公にできないな。
行く場所を特定されないためにも公共機関を利用した、これでいいだろう」
苦悶が声ににじみ出ていた。
ドラマではよくある話だが、現実の問題となると中々に大変みたいだ。
まぁ、自業自得だが。
「なるほど」
俺は歩みを止め、爺へと再び視線を向けた。
「こっちを見ろ」
「…………どういうことだ」
荘厳な声の中に疑問を浮かべながら、こちらを見た。
目は最初見た時と変わらぬままギラリとした欲望を宿している。
……結論は出たな。
俺は爺に向かって財布を強めに投げ渡した。
「精々生き残れることを祈るんだな」
「待て! 何故断る!?」
爺は勢い余って立ち上がりながら、そう叫ぶ。
俺はその言葉を無視する。
顔は茹でタコのようになっているだろうな、と想像しながら夏恋さんの元へ足を動かした。
『どうして断ったの? スゴくいい条件だったじゃない」
夏恋さんは首を傾げなら、文句を言うように、疑問を言うように口を開いた。
「あの爺に協力した方がよかったか?」
『そんなワケないでしょ……。ただ、結構乗り気っぽく見えたから』
俺は視線を床から、天井へと変えた。
そしてポツリと言葉が出た。
「そうだな、迷いはした。だが、」
そこで言葉を区切った。
これ以上先は言う必要がないだろう。
『……最初に会った時より、なんか失礼な奴になったなと思ったけど、やっぱ男にしてはいい奴ね』
「…………」
いいように勘違いしてくれたらしい。
香本さんは男に偏見を抱いている節があるが、善良な人間だ。人に対しての疑いが少ない。
だから俺みたいな悪意ある利己主義者の思惑を見抜けないのだ。
「20問は正解か。21問目、わかるか?」
『チョット見せなさい――――」
香本さんの方へスマホの画面を向けながら、思う。
俺があの爺の交渉を断ったのは、あのギラつく眼差しが厄介なものだと感じだからだ。
このクイズゲームで全てが終わるのなら、香本さんの願いを反故にして、爺に協力していた。
そちらの方が目に見えて旨みがあるから。
『うーん何かしら……』
だが、このクイズゲームで終わりじゃないとしたら、あの手の人間は面倒になる。
生かしておけば、俺に負債をもたらす可能性が高い。
俺の短い人生経験からでもわかる。あれは平然と裏切りを行えるタイプの人間だ。
協力し、裏切られ、対峙した時、あの爺に勝てるかどうか……
どういうゲームかによるが、頭脳戦や心理戦となると相当に場数を踏んでいる爺の方が有利なのは目に見えている。
そういったリスクとリターンを考えた上で、爺の誘いは断った。
まぁ、このゲームで終わりだとしたら……
「精々後悔させてもらうさ」
『なにか言った?』
「いや、それよりも到着だ」
視線を正面に戻すと、夏恋さんがいた。
もう目の前――数歩先にいる。
俺の選択が正解だと思わせてくれよ。
口元を曲げながら、彼女の元へ急いだ。
「お前はッ…………!」
顔を見た瞬間に気付いた。
長い髪を後ろに一本にまとめ上げ髪型を変え、あの時の狂気も消え失せている。
それでもわかった。あの女だ! 間違いない。
「どうしてここにいる!」
『お、おい、どうしてそんな怖い顔してるんだよ! 似合ってるけど……。
と、違った。蒼汰好みの超美人さんじゃん!』
俺の目の前で光宙は落ち着けと言わんばかりに、両手を広げ制止のポーズをしてきた。
なんて呑気なんだ。
「覚えてないのか!?」
『へっ……?』
すっとぼけた顔をしている。
本気で覚えてないらしい。そもそも顔を見てないのか。
「蒼汰君、この人はもう違うんです!
あの時は恋人さんを失ったショックで九条さんも冷静になれなかっただけなんです……」
俺があいつの代わりに、怒りを全身に漲らせていると、いつか聞いた澄んだ声が俺の耳を通りすぎた。
夏恋さんの声だ。視線を彼女に向ける。可愛らしい顔を歪め、必死に俺を納得させようとしている。
「…………」
夏恋さんの必死さに当てられてか、反比例のごとく頭が冷えてきた。
あの女を解放しているまでは予測できたが、まさか一緒に行動しているとはな。
香本さんに視線を向ける。非難の意味を込めて。
『ごめん……』
ただ、一言そう言い俺から視線を逸らした。
全く、こいつがいると知っていたら俺は来なかったぞ。……だからか。
「はぁ」
ため息を1つ吐き、狂っていた女――九条という奴を上から見下ろす。
それに対して彼女は申し訳なそうに頭を垂らすだけだった。
どうしたものか。
「何か言うことは?」
俺は静かに呟いた。誰とは言わないが、誰に言ったかは火を見るより明らかだろう。
ロングシートに浅く座っている2人。小柄な夏恋さんと背の高い九条。
本来なら大きさに差があってしかるべきなのに、今の俺から見たら同じ大きさにしか見えない。
「申し訳ありません。
夏恋さんや香本さんだけでなく、あなた――蒼汰さんにもご迷惑をお掛けしたことをお話に聞いています」
俺の目を碧色の目で見つめた後、九条は深く頭を下げた。
話し方にしろ、態度にしろ、まるで別人だ。狐にでも化かされたか。
それにしても今の話で1つ引っかかる点がある。
「話に聞いてるってどういう――」
疑問を尋ねようとして、邪魔が入った。
『その……色々と言いたい事があるのは私もわかる。
それと騙すような真似をしてごめん。
ケド、今はカレンを助けて欲しいの』
香本さんは懇願するような目を向けた後、頭を下げた。
「まったく」
とんだ女狐だ。
眉間に右手の親指と人差し指を当てる。
取るべき決断は……これか。
「ふむ」
スマホを見る。
2人の順位は6位タイだ。このままなら死ぬ。
このジャンルの正答率の低さから、手を貸さなければおそらく……。
俺は腹に力を込めて言った。
「21問目の正解は――」
隣にいる香本さんに視線を向け、答えを催促する。
意図に気付いた彼女は教えてくれた。
「Cだ。早く答えるんだな」
夏恋さんと九条を見ながら、そう言った。
さて、この後の展開をどうしたものか――――
この話の文字数を4444文字に調整しました!
流石私!バカ!




