9話 ガチオタギャル、サプライズプレゼント
「ふいー、ただいマンゴー」
お花を摘み終えた浅川さんが、軽い足取りで席に戻ってきた。そして、あからさまに険悪な空気を察して首を傾げる。
「あれ、どうした二人とも? 妙にシンクロして固まってるでヤンスが」
「な、なんでもない、ちょっと集中しすぎて……!」
「……」
俺が冷や汗を流しながら必死に取り繕う横で、雪はたんこぶを押さえたまま、絶対に俺と目を合わせようとはしなかった。
◇
それからもしばらく勉強を続け、窓の外の景色が茜色からうっすらと群青色へ変わる頃。
「さて、そろそろ良い時間でありんすし、本日の浅川塾はこれにて閉講!」
浅川さんがパチンとペンを置いて伸びをした。
「今日は本当にありがとう浅川さん。めちゃくちゃ進んだわ」
「あ、ありがとうございました……」
「いいってことよ! 推しカプの赤点回避のためならこの浅川花、一肌でも二肌でも脱ぎますぞ!」
浅川さんはニカッと笑うと、思い出したように自分のカバンをガサガサと漁り始めた。
「あ、そうそう。お勉強頑張った二人に、プレゼント」
「プレゼント?」
「はいこれ」
軽いノリで差し出された、一枚のスケッチブックの切れ端。それを受け取った瞬間、俺と雪の動きが完全に止まった。
「こ、これは……!!」
「!!?」
そこに描かれていたのは、この前のカラオケで一本のマイクを二人で握りしめて顔を寄せ合って歌う、俺と雪のイラストだった。
服のシワから照れた表情の細部まで、プロ顔負けの圧倒的な画力で表現されている。
「この前の尊いデュエットを網膜に焼き付けて、そのままイラストにしちゃいました。てへぺろ」
「なんていうか……クオリティが高すぎて、だいぶ恥ずかしいな……」
「ふふっ……あ、ありがと、浅川さん」
珍しく雪が口角を上げて笑っていた。
「喜んでもらえて何よりンゴね〜。では私はバスの時間があるのでこの辺で! お二人さん、バイビー!」
嵐のように荷物をまとめた花は、最後にまたニヤリと意味深な笑みを残し、図書室を飛び出していった。
「今日は本当にいろいろありがとう!」
「ありがとうございました」
去っていく天才ギャルの背中に向かって、俺達は深く頭を下げた。
図書室を出て、静まり返った廊下を歩いていると、雪がすっと手を差し出してきた。
「そのイラスト、私が預かっておくから」
「ええっ俺が貰ったんだろ?」
「二人にって言ってた。だから、私が持って帰る」
「じゃあせめてジャンケンで決めようぜ」
「ダメ。聡太がうっかり他の人に見せたりしたら、私は恥ずかしくて死ねる」
「はいはい、分かったよ……。お前が持っててくれ」
絶対に譲らないという強い意志を感じて、俺は苦笑しながら折れることにした。
◇
帰宅後、お風呂に浸かって一日の疲れを癒やし、自室のベッドに寝転がったときだった。
スマホがピコンと小気味いい音を立てる。画面を開くと、雪からのLIMEだった。
『さっきのイラスト、一応送っておく』
『絶対他の人に見せちゃダメだからね』
送られてきた画像を開く。画面いっぱいに広がる、あのカラオケでの近すぎる二人のイラスト。
その絵を眺めているうちに、なんだか急に胸の奥がくすぐったくなって、自然と口元が緩んでいく。
(それにしても……本当、よく描けてるな……)
俺はニヤニヤが止まらない顔を隠すように、また枕に顔をうずめて小さく悶絶した。
テスト勉強の疲れなんて、その一枚の画像だけで完全に吹き飛んでしまっている。
他の人に見せたら恥ずかしい、と雪が言った理由が、今ならよく分かる。
だってこの絵の中の俺たちは、どう見ても――うう……っ。




