13話 破壊力抜群、偽装彼女の水着姿
燦々と照りつける太陽、水飛沫の音、そして陽気なBGM。
先に水着に着替え、プールサイドのベンチに腰掛けていた俺は、ひたすら己の心に言い聞かせていた。
(精神集中……心頭滅却……どんな水着で現れても動じるな、俺……!)
「聡太氏、お待たせ〜!」
その声に弾かれたように顔を上げると、そこにはいかにもギャルらしく、カラフルで可愛い水着を着こなした浅川さんがいた。
だが、俺の視線はその横にいる雪にだけ注がれていた。長袖のラッシュガードは首元までファスナーを上げているが、もう既に胸のふくらみが目立っている。
猫背でモジモジしている偽装彼女の姿は、なんというか、国宝級に可愛いかった。
「ほらほら雪氏! その破壊力抜群の戦闘服を、早くお披露目するでヤンス〜!」
「ちょ、ちょっと、浅川さん……っ!」
浅川さんが不意を突いて、雪のラッシュガードを強引にはぎ取った。
「ひゃっ」
「うぉっ!?」
次の瞬間、俺は網膜に飛び込んできた圧倒的な情報量に、思わず声を上げて取り乱した。
真っ先に目を引いたのは、普段の制服の上からは想像もできなかった、圧倒的な存在感を放つ豊満な胸元。
(こいつ……普段どんだけ着痩せしてたんだよ……!!?)
水着のデザイン自体は、過度な露出のない上品なものだった。絶妙なフリルとカッティングが、雪の細い四肢と白い肌を完璧に引き立てている。
暴力的なプロポーションを限界まで強調する、完璧な水着チョイスだった。
幼い顔立ちながらあまりの破壊力。俺は言葉を失って完全にフリーズする。
(浅川さん、なんて水着を選んでくれたんだ……! ダメだ、刺激が強すぎて直視できねえ!)
「へ、変なら変って、はっきり言いなさいよ……っ」
俺が黙り込んでしまったのを勘違いしたのか、雪は顔を真っ赤にして、自分の身体を隠すように腕を組んだ。
その姿勢が更に胸元を強調させ、俺の顔面の温度が急激に上がっていく。
「い、いや……めちゃくちゃ、似合ってる」
嘘偽りのない本音を絞り出すと、雪はさらに顔を赤くして「ううぅ……」と小さく呻いて俯いてしまった。
「グハァッ! 糖分と尊みの過剰摂取で、拙者のライフがゴリゴリ削られるゥゥ!」
隣で花がのたうち回っているが、今の俺にはそれをツッコむ余裕すら残されていなかった。
目の前で恥じらう偽装彼女の水着姿は、この灼熱の夏をさらに狂わせるには、あまりにも十分すぎる凶器だった。
と、そこへ。
「見つけたァァ!」
鼓膜を突き破るような奇声が響いた。
「「ふぇっ!!?」」
俺と雪が同時に変な声で振り返った先に立っていたのは、浅川さんのクラスメイトで、雪のことが大好きな狂犬・黒崎杏だった。
抜群のスタイルを惜しげもなく披露する水着姿だが、その目は完全に肉食獣のそれである。
「雪ちゃんかんわいいぃ〜!! 水着になるとよりモチモチふにふに!」
「ぴ、ぴゃぁ……っ」
黒崎さんは猛々しい勢いで雪に飛びつくと、背後から抱きついてベタベタと触り始めた。そして鋭い視線を俺に向けてくる。
「ていうかそこのチャラ男! さっきから雪ちゃんの水着姿をジロジロ見て、不敬よ! シッシッ!」
「いや! 一応これでも俺、彼氏だから!」
「雪ちゃ〜ん、悪い虫はこの私が追い払ってあげるからね〜」
「あ、あわ、あわ……っ」
予想していなかったトラウマの登場に、雪は完全に我を忘れて取り乱している。
「ていうか、なんで黒崎さんまでいるんだよ!」
俺が叫ぶと、隣で浅川さんが「いや〜」と呑気に頭を掻いた。
「さっきLIMEで『雪ちゃんの水着姿需要ある?』って聞いたら、爆速で飛んできちゃった」
彼女はそう言うと、俺の耳元に顔を寄せ、ニヤニヤとした笑みを浮かべて小声で囁いてきた。
「それに……余裕こいてる聡太氏に、ちょっと危機感ってやつを注入してあげようと思ってね〜。ほら、他の奴に雪氏をベタベタ触られて悔しくないでござるか?」
(こ、こいつ……確信犯かよ……っ!)
浅川さんの企みに戦慄しつつも、黒崎さんの腕の中で完全にキャパオーバーを起こして涙目になっている雪の姿が目に入る。
「黒崎さんごめん、雪のやつマジで怯えてるから」
俺は一歩踏み出し、雪の腕を掴んで黒崎さんから力任せに引き剥がした。勢い余って、雪の身体が俺の胸元へと飛び込んでくる。
俺の胸の位置に、雪の頭がすっぽりと収まる形になった。
そして俺の全身を襲う、ふわふわとした柔らかい感触。
「「っっ!!!」」
声にならない声を互いに発しながら、俺と雪の視線が至近距離でぶつかった。
ドクドクと波打つ雪の鼓動が、肌に直接伝わってくる。
「あぁ〜ごちそうさまでヤンス! 拙者の仕掛けたマッチメイク、大・成・功!」
浅川さんは嬉しそうに手を叩いた。
「というわけで、あとは若い二人には楽しんでもろて。杏、一緒にウォータースライダー行こ〜」
「あぁ〜ん、雪ちゃ〜ん! 離れなさいよチャラ男〜!」
浅川さんはジタバタと暴れる黒崎さんの手をガッチリと掴み、そのまま無理やり人混みの奥へと連れ去っていった。
◇
嵐が去ったプールサイド。後に残されたのは、妙に密着したままの俺たち二人だけだった。
「ち、近いわよ、バカ!」
「あ、ご、ごめん!」
慌てて手を離して距離を取る。
赤くなった顔を隠すように俯く雪の水着姿と、まだ手のひらに残る感触。
(俺、今日マジで生きて帰れるのか……?)
夏の日差しよりも熱い、波乱のプールデートが本格的に始まった。




