第七服 藤露 透という人
「碧!見ろよこれ」
昼休み、光瑠が碧のクラスに訪れて嬉しそうにスマートフォンの画面を突き出してきた。
画面には茶道部の様子が何枚か写されていた。光瑠は翌日から早速茶道部に入部届けを出しに行ったらしかった。
茶道部の活動は毎週月・水曜日と隔週の金曜日が基本で、活動日が極端に少ない。普段は旧校にある和室を使っているらしく、襖で仕切られたその和室はすべての襖を開け放つと百畳ほどの大広間になり、隣では、襖一枚を隔てて華道部や日本舞踊部、落語研究部といった面々がそれぞれの稽古に励んでいるという。
あの日訪れた、奥の小さな建物は国の重要文化財に指定されており、普段は解放されておらず、学校の要人をもてなす時や茶道部が茶会の演習をするために特別に許可をもらって使用できる場所なのだという。
そして、あの日そこにいた着物の人は、名を藤露 透といい、京絹学園茶道部の特別顧問らしい。(たまに古典の特別授業をやっているとかいないとか)
碧が光瑠に連れられてあの場所に足を踏み入れたあの日は木曜日だった。茶道部も休みの日であり、本来ならあの和室も閉められているはずだったのに、光瑠があの日碧をあの場所に連れて行ったのは"勘"というかただの向こう見ずな行動だった。
この学校を受験するときに文化財に登録された茶室があることを知り、当然茶道部がここで活動しているものと思い込んだ光瑠は見学というなの突撃を決め、偶然その日に再会を果たした旧友はまんまと巻き込まれたというわけだ。
翌日、改めて茶道部について職員室に質問しに行ったところ、3年性の茶道部の部長のクラスを教えてもらい、無事入部に至ったと勢いよく話す光瑠は嬉しそうだった。
(始めからそうしろよな〜)
いくらでもツッコミが出てきそうな光瑠の行動にはもう慣れた。
(しかし…。ひょっとしたら茶の幽霊か妖怪でも見たんじゃないのかと思ったけど、幽霊でも妖怪なく本物だったか…)
碧は、たまに襲ってくるあの感覚と鼓動を、どこか茶室で見たあの美形妖怪の呪いか何かのせいにでもしようかと思っていたが、現実だったと知ってちょっとがっかりしたような、こそばゆいような複雑な気持ちになった。
それにしても、その藤露透という人。美少年と言われてきた碧が思わず固まってしまうような、どこか現実離れした美貌の持ち主だった。あんな人が校舎の中を歩いていたら絶対目立つだろうし、女子はもちろん、なんなら男子も含めたファンクラブがあったり茶室の前に出待ちの人だかりができていてもおかしくない気がするが…。
美しすぎるからなのかどこか人を寄せつけない静けさのせいか、それともあの空間そのものの敷居が高すぎるせいか――。
(顧問と言っても特別顧問とか言っているし、茶道部の活動も少ないし。大してこの校舎に来ていないだけか。)
それでもあの場所にあの人がいるだけで、にぎやかな学院の中で一層あの場所が一段上の別の空間としてゆっくりと時間が流れているように思った。




