第六十服 永井 芽衣 (キャラクターデザインイラストあり)
* * *
「では、みなさま名乗り紙を表にしてください。
京絹学院:は・ろ・ろ
福井北陸:は・は・ろ
第五服の解は『は』です。
よって、京絹学院・福瀬選手と松葉選手、福井北陸・田辺選手、脱落です。畳の外へ」
(ここまで順調に答えてきたのに、ここにきて銀次郎先輩と茉莉がふたり一緒に脱落?!
このあと俺一人でなんて…)
畳を後にする茉莉は右手を硬くして口元を覆っていた。
膨らませた目元には悔しさの塊が、今にもこぼれ落ちそうだった。
立ち上がった銀次郎の手が碧の肩に軽く触れた。
その表情は悔しそうに少し眉間に皺を寄せていたが、プレッシャーをかけないようにと計らいをしたのだろう。銀次郎の手から感じた色は柔らかく鮮やかな黄緑色だった。
(あお様、なかなかやるじゃん。
さすが私が選んだヒ・ト!)
すると隣の畳を囲んでいた観客から歓声が上がった。
嵐山学院の全ての選手がこの第五服で姿を消し、第三回戦を終えたのだ。
一方の対戦相手である洛西学院は選手五人全員の姿がまだ畳の上にあった。明らかな実力差を見せつけた。
(洛西は橘って人だけじゃなくて、他の部員も強いんだな…)
「洛西学院の皆様は次の決勝まで、選手控え席または、会場外で休憩されてください」
「それでは続いて、第六服をお配りします」
(まずい…一服を飲む度に味が重なって、だんだん舌の感覚が鈍くなっている…
いろんな色が混ざって、頭の中の景色がどんどんぼやけていく…)
あ!そうだ…。
「すみません!水休憩、お願いできますか?!」
「すでに第六服を点て終えて、こちらに運ぶ準備ができています。
水休憩は、進行の合図の前にご進言ください」
「だ、ダメですか…」
(これ以上味が混ざると、色が…ぐちゃぐちゃだ…)
すると、すっと手が上がるのが見えた。
「恐れ入ります!
福井北陸も水休憩をお願いしたく申請いたします。
両校合わせて三名しかいないことですし、許可をいただけないでしょうか」
「仕方ないですね…では一分間の水休憩を許可します。水を飲まれたら速やかにお戻りください」
(た、助かった…!
相変わらずめっちゃ睨まれてるけど…。
とりあえず、お礼しとこう…!)
ペコっと一つ会釈をして水を飲みに立ち上がる。
(きゃぁ〜ペコっだってぇ!あーキュンすぎて好きぃ〜!
なんか困った顔が可愛すぎて敵に塩を送っちゃったぁ〜。
私ってば甘やかしすぎ?
でもまぁ、私も負けないしぃ、ここからが本番!)
(ふう。少しはリセットできたかな…)
銀次郎、千歳、茉莉、光瑠とそれぞれ目を合わせる。
みんなそれぞれから感じ取れた色は様々だった。
少し先の眼界に、あの人の姿が映った。
(だいじょうぶ。たのしんで)
そう口元が動いたように見えた。
にこっと笑ったその人からは淡く穏やかな藤色が微風にゆれるように碧の視界をそっと包んだ。
(あれ…なんだろう。 今、みんなの色が見えた…?)
「それでは第六服をお渡しいたします」
(よし、水休憩がとれてよかった!
しっかり色が見える!この鮮やかな藍色の周りに滲む辛子色と象牙色、虫の羽音に草原をしとしと湿らせる霧雨…これは…)
(や〜ん!目をキラキラさせて飲むあお様、かわいい〜!
でも、私だってこんなの余裕でわかっちゃうし!これは…)
(『ろ』の茶!)
「では両校、名乗り紙を表にしてください。
京絹:ろ
福井北陸:ろ・い
第六服の解は『ろ』です。
福井北陸の伊藤選手は畳の外へご移動ください」
「では、第七服をお配りします。両校二名となりましたので、これより制限時間を二分とします。」
(…二分。落ち着け。
さっきみたいに感じるんだ…。
…。
え…?
なんだ…?『い・ろ・は』とも『客』とも違う色が見える。
音も、なんだか違う…なんだ…この茶…)
(あれ?これ『客』かなぁ?
なんかちょっと味変わった?えぇ〜なんだろ?
あ、ひょっとして…『コレ』のせいね)
(やばい、わからない、いままでに感じた色とも音とも違う…
かすかに『客』で感じた色が見える気もするけど、…音が、全然違う…!
これは『は』か?いや、それとも違う色だ…。それなら『い』?!
なんだ…これ…!わからない…!!)
ピーーー!
(もう時間だ…!早すぎる…)
「では、お二人は名乗り紙を表にしてください。
京絹:い
福井北陸:客」
(…!! 解が分かれた…)
「第七服の解は…『客』です。
勝者は福井北陸!」
正面にいるその子は、ちらっと碧を見てニヤリと笑い、深々とお辞儀をした。
「決勝のスタートは、これより十五分の休憩ののちに行います。
福井北陸はお時間までに会場にお戻りください」
(…くそぉ…)
畳につけた額をなかなか上げることができない。
「多比良選手、決勝の準備がありますので、畳の外へ」
「はい…」
立ち上がって振り返る。
「碧、よくやった!カッコよかったで!お疲れさん」
いつもの銀次郎の手が、碧の頭をくしゃっと撫でる。
「先輩、俺、ほんとすみません…先輩たちが決勝に進む邪魔しちゃって…!」
「何言うとるん、碧、ええんよ。もしうちが最初に脱落せんくても、ここまで残れとるかわからんし、初めてでこんだけ戦った碧を誇りに思うとる。
逆にうちが最初にプレッシャーかけすぎてしもて、悪かったさかい」
千歳は恥ずかしそうに頭を下げた。
「そうだよ碧〜ポンコツの俺のせいだよ〜」
抱きついてきた光瑠の目は真っ赤に腫れていた。
対戦の背後でずっと涙を拭っていたらしい。
「うぅ〜!私も、ぜんぜん…ぜんっぜんダメだった〜。くやしい〜!も〜絶対来年リベンジする〜」
茉莉もぐしゃぐしゃな顔になりながら千歳にくっついている。
「誰のせいとか誰がダメやったとかないねんて。
また、みんなで特訓頑張ろ。うちも頑張るわ」
茉莉をヨシヨシしながら千歳は笑った。その笑顔はすごく綺麗な水色だった。
「たいら、あお様!!」
強烈な声に振り向くと、福井北陸の面々がいた。
(さ、様?)
「あ、さっきは、ありがとうございました。
あの、ぶつかっちゃったの、すみません…」
「あお様、いいの、そんなこと!
ご挨拶遅れました、私、永井芽衣と申します。
芽衣って呼んでください」
「え、あぁ」
「あお様」
「私と結婚しましょ!
わたしの家にお婿さんに来て!」
「…は!?」




