第五十七服 播磨白鷺(2)
* * *
くそ…なんでだよ…
予め半東を買収して本茶か非茶かのサインを送ってもらうようにしたのに。
毎年半東は、学生がやるから、ちょっと小遣いやればソッコー釣れる。
それなのになんであいつら間違えてんだよ。
全部正解だと怪しまれるからって間違える順番までちゃんと決めていただろうが…。
ちゃんとサイン見てたのかよ。
いや、半東のあいつがサインを間違えたか…?
半東を睨みつける。
(ビクッ)
(おい、ちゃんとやれよな…)
…
「では、続いて第四服をお配りします」
光瑠が茶碗を右手に置き、碧の元に茶碗が運ばれてくる。
(この香り…というか、香りから感じる色…きっと本茶だ…)
一口含む。
(うん。水が変わると表面の味が一瞬柔らかくなるけど…若葉色から次第に深くなっていく翠色が頭に巡る。
微かに細い笛の音のような風音を鼓膜の奥に感じる…。
間違いない…)
がしゃん!
播磨の方から大きな音がした。
「す…すみません…!!」
二人目に茶碗を回す途中でひっくり返してしまったらしい。
「ちょっと…体調が悪くて…別の半東の方にお願いできないでしょうか…」
急いで畳が拭かれ、新しい濃茶が運ばれた。
…
「京絹学院、非・本・本・本・本
播磨白鷺、本・非・非・本・非」
「第四服の茶は…『本茶』
よって、勝ち星は京絹学院となります」
(よしっ…!これでイーブンだ…!)
茉莉も乗ってきたみたいだし。
播磨は明らかに焦りの表情に変わっている。
次の一勝は確実に獲りにいけそうだ。いや、いく!
光瑠…がんばれ…!
「それでは続いて、第五服を…
すみません、少々お待ちください」
(…?)
突然、審査員が司会の元に駆けていき、何かを伝えている。
「え〜ただいま、播磨白鷺主将から、体調不良による棄権申告がありました
よって、京絹学院が第三回戦進出となります」
会場中が一気にざわめいた。
(え…?体調不良?!
一気に正解数が落ちたのそのせいか…?)
「皆様、お静かに願います。
まだ嵐山学院と伊勢旭の第五服が残っております」
…
「これより四十五分間の昼休憩となります。
第三戦の対戦校、洛西学院と嵐山学院、そして福井北陸と京絹学院の四校は時間までに指定の場所にお戻りください」
「ふぅ〜なんとか初戦切り抜けたなぁ〜!」
銀次郎がみんなの肩を叩いて回る。
「いや〜こんな緊張したの久しぶりで、最初の方マジやばかったですよ…」
「いや碧、ちゃんと冷静やったやん!」
「そういえば茉莉は三服から急に復活しはったな。なんかあったん?」
今朝の取り乱した様子が嘘だったかのように千歳は冷静に全て正解した。
銀次郎と同様に三年生としての威厳を見せつけられた。
「いやぁ。うち、闘茶は茶師の登竜門やおもたら、めっちゃ緊張してもうて…。
最初、全く味わからんくなって…」
恥ずかしそうに茉莉が頭を掻く。
「先生がタイムとってくれた時、会場のすみっこにお父ちゃん来てんの見えてん。
今日は忙しい言うて来れんはずやったんやけど…。
父ちゃんがリラックスし〜って笑顔で見とって、なんや気い抜けたっちゅうか…」
てへへっといつもの感じで人差し指を頬につんとくっつけて笑った。
「うぅ…俺…」
隅の方で踞り、今にも大雨を降らせそうな光瑠が掠れた声を滲ませた。
「光瑠!大丈夫やて。緊張すると味わからんくなるんは俺もようわかる!」
「そうや光瑠。次のは落ち着いて行けば大丈夫や。練習でもそこそこいけてたやろ」
「そうだよ光瑠!俺も、最初はめっちゃ焦ったけど、落ち着いて飲めばイケるって」
「そや、ひかるっち、イケるイケる!」
四人で代わる代わる光瑠の頭を撫でくりまわす。
「でも、俺、二択なのに…全部…」
周りに水溜りを作って膝を抱えて縮こまったまま、光瑠はすっかり自信をなくしてしまった。
あれ、こんな時にまた顧問いねぇじゃん…!
励ましてやれよな〜…。
* * *
「なんだよ!あれ!ふざけやがって!」
「まぁ〜でもさすがにずっとあの作戦でいけなかったっすから、ほどほどで良かったんじゃないっすか?」
「お前らがもうちょっと闘茶ちゃんとやりゃよかったんだよ!
俺だけわかっても意味ねーんだよチーム戦は!」
「そうだよ〜。だめだよズルしちゃ」
「あ、藤の…!
ひょっとして、あなたが…チクったんすか…」
「 …お、俺らは京絹みたいに、あなたのような指導者がいない!
恵まれた環境のあなたたちに何も言われたくない!」
「なーに言ってるの。
僕は、君たちのところの半東の子が気分が悪そうだから、大丈夫かって審査員に伝えただけだよ。
それにね、僕は生徒たちのことを指導なんてしたこと一度もないよ。
彼らは、皆茶が好きで真剣に向き合っているだけ」
「う…」
「君だって、せっかくいい目を持っているんだから、こんなことしなくたって十分上って行けるのに」
「…!?
だから…俺がいくら頑張ったって、高校の茶道部がチーム戦である限り意味ねぇんだよ!
俺は、こいつらのせいで全然誰にも認められねぇんだよ!」
「そんな…先輩!!
俺たちだって…勝ちたいって思ってますよ…!
一緒に戦ってくださいよ!
俺ら、ズルじゃなくて、本当はちゃんと実力で戦いたいんです!」
「!?
お前ら…?」
「俺らもっと頑張りますから、一緒にもっと上、目指させてください」
「ふふ。だってさ。
また会えるのを、楽しみにしているよ。
播磨白鷺の黒田孝高くん」
* * *
「ふふふ〜やった〜京絹の皆さん、上がってきたじゃーん!
やっぱ私のラブが効いたかな〜」
「芽衣〜お疲れ〜なんであの時水休憩とったの?なんかあった?」
「いや〜なんか喉乾いちゃってさ〜」
(ほんとは、あの播磨の黒田って人がちょっと怪しいな〜って思ったから、水休憩してチェックしようと思ったけど、向こうも休憩とっちゃったから結局わかんなかったしね)
「それよりさ〜三回戦、どんな対戦ルールかな〜」
「え〜私と王子様のお見合いでしょ?」
「まだ言ってるよこいつ」
(そうだ!王子様!ランチどこで食べているわけ?)
「芽衣〜いっしょにごはん食べないの?」
「ふっふっふ〜ちょっと敵情視察に行ってくるわ」
* * *




