第五十二服 いざ、春戦へ
「第二章 それぞれの色」 スタートします!
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あっという間に大会当日の朝を迎えたが、京絹学院高校茶道部の面々は一様に浮かない顔だった。
というのも昨日、つまり大会前日の出来事である。
「ひゃ〜もう明日大会かぁ…すげぇ緊張してきたぁ…!」
最後の部活での闘茶練習を終え、光瑠の顔は引き攣っていた。
自主練もそれなりに頑張っていたみたいだが、光瑠はなかなか茶の味を感じ分けることが苦手なようだった。
少しずつ返却され始めた中間テストの結果があまり良くなかったのも引きずっているようで、それは茉莉と雪乃も同様にヘコんでおり、今日はやたらと部活の雰囲気がどよんとしていた。
加えて、大会直前だというのに今日も特別顧問は不在だった。
「そういえば、二戦目で対戦予定の福井北陸高校のことをリサーチしてきたんですが…」
光瑠は苦笑いを浮かべながらPinstagramの画面を見せてきた。
「このMeiiiii_っていうアカの女の子が、福井北陸の茶道部に入部して盛り上げているっぽいです」
画面には、今日の日付の投稿が表示されていた。
『明日は高校茶道部の全国大会、春予選!主将として、福井北陸を盛り上げてきまーす!』
と書かれ、顔は隠していたが、セーラー服を着た女子高生五名が各自一つずつ茶道具を持ちながらポーズをとっていた。
(え〜…)
普段SNSはYoutuboでゲーム攻略の動画くらいしか見ない碧にとって、その写真はなんともいえない光景だった。
京絹茶道部の女子部員三人がその画面を覗き込んでスクロールしてみる。
美味しそうなごはんの投稿や、海外旅行などの投稿。俗にいうキラキラ女子っぽい感じであった。
(俺、絶対こういう感じの人苦手だわ…)
その投稿の中に、実家の情報らしき投稿が載っていた。
『うちの実家、永井海生堂は明治4年創業!北前船から誠実に丁寧に天皇さんやお料理人さんたちへ、品質の良い昆布を届けてきました! 自慢の実家でーす!』
「なるほど…豪商の家のもんか」
千歳はちょっと唸った。
「永井いうたら、たしかうちの店もたまにお世話になっとるわ…こりゃもしかしたら、ちょい警戒せんとか?」
銀次郎も少々焦りの表情を見せる。
「五人チームで参戦だし、俺、迷惑かけちゃいけないし、やっぱり控えかな〜」
光瑠は頭をぽりぽりと掻いて弱気である。
「いやいや、ひかるっち、そんなんあかんやろぉ!ちゃんと順番で参戦しい!
いざ!春戦に向けて気合いや! えいえいお〜…って、え?!」
拳を振り上げた茉莉はハッと何かに気づいたかのように雪乃に目を向けた。
「え!ちょ、ちょい!ゆきちゃん先輩!?」
その瞬間、雪乃がどさっという音と共に畳に倒れこんだ。
「うわぁ!ゆきちゃん先輩!!なに!?めっちゃ熱い!! 超高熱でとるやん!!!どないしたんですか!」
* * *
千歳が雪乃を家まで送りとどけた、とメッセージグループに連絡があったが、翌朝雪乃から
「みなさんごめんなさい…ダウンです」
と衝撃の言葉が、猫が大泣きしているスタンプと一緒に送られてきた。
みんなに心配かけたくないと、ここ三日ほどずっと体調が悪いのを我慢していたらしい。
春戦の会場は、毎年、立英館大学の衣笠キャンパス・第三体育館で行われている。
開会式とルール説明が九時から行われるので、八時四十五分に現地集合ということだった。
立英館大学は碧の家からはすぐだったので、少し早めに会場に到着した。
キャンパスに入ってみると広大な敷地は京絹学院に引けを取らないように見える。というよりも、京絹学院の敷地が大学並みに大きいことを改めて実感した。
会場の第三体育館は敷地の奥にあった。
奥に進むにつれて、大会に参戦する茶道部らしき高校生がちらほらと増えてきた。
会場である立英館大学の附属高校もトーナメント表に書いてあったが、銀次郎の前評判では毎年開催校枠で出ているだけで、強くはないらしい。
立英館大学附属高校のエンブレムが刺繍された制服を着た人が前を歩いているが、聞こえてくる会話は「一回戦終わったらどこのカラオケ行く〜?」という内容だったので、おそらくすでにやる気がなさそうだ。
体育館の前でみんなを待つ。
入り口からちらっと中を覗くと、開会式の準備を終えたようだった。
中央には畳が敷かれていた。
十畳のスペースが五つあり、それぞれ『い・ろ・は・に・ほ』と表示されていた。
出場校が少しずつ指定された場所へ入っていく。
すると程なくして、みんな同じバスに乗ってきたらしく、揃って碧に手を振っていたが明らかに全員の顔が曇っている。
(まあ、雪先輩が欠場だから当たり前だけど…)
明らかにテンパった様子なのはやっぱり光瑠だった。
(とはいえ俺も練習はしてきたものの、今週の部活でやった闘茶練習会では正解率が六割くらいだったし…)
「初戦の相手校、もうきとる?」
千歳がおはようという前にそう質問して見渡す。
緊張しているようだった。
「いや、まだっぽいです」
「ほら〜みんな緊張せんと〜!チーム戦やし!ルール発表はこれからやけど、たぶん正解数が多いチームが勝つヤツや。
ちーと、俺が絶対間違え無けりゃ、あとはなんとかなるやろ!茉莉もおるしな!」
(先輩、それ多分、あんまなんとかなってないっす…)
「そ、そやそや!うちも父ちゃんの名にかけてぇ〜って頑張るさかいに! 金田一少年的な!」
銀次郎のなんとかみんなを鼓舞しようとする声に、茉莉も気を遣って呼応する。
「つうか、先生はまだ来ないんかいな〜」
銀次郎がキョロキョロと周りを見渡したその時、
「おや、京絹学院の皆様やないですか」
明らかに自信を纏った声が後ろから聞こえてきた。




