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第十一服 茶会の誘い


外に出ると太陽は遠くに見える新校舎の背後に消えようと輪郭をなくし、空をオレンジ色に染め上げていた。

4月の終わり。日が長くなったとはいえ夕刻の肌に触れる空気はまだ冷たかった。今日は一段と寒冷で、思わず白い塊を成した呼気を空中で弄びたくなる。



気配を感じて視線を後に巡らせた先には透という人も表に出てくれていた。

冷えた空気を(ぬく)くしてくれるような笑顔で、右手をひらひらとさせている。


ペコリと一礼して大手門をくぐる。





「いつでもいいからさ」


父親の仕事に着いて転校を繰り返してきた碧にとって、この言葉はやけに新鮮に聞こえた。


転校の度にいつも急いで間に合わせの居場所を作ってきた。

あの人の言葉はまるで「君の席はもう用意してあるから、いつ来たっていいんだよ」と言ってくれているようだった。


 (それにしても…)


と碧は思う。

あの部屋にあったものたち。掛け軸にしろ、茶碗にしろ、ひとつひとつがいくらするのか見当もつかないような高価なものに見えた。

なのにあの透という人は、それらをまるで手のひらで花びらを転がすように扱う。



あの手、あの動き。

(やっぱり本当に妖怪なんじゃ...)


ぼうっと考えながら旧校舎の吹き放しを渡ろうとしたその瞬間、右腕をものすごい勢いで掴まれた。


「!?」


美形妖怪…もとい、藤露透がそこに立っていた。

小走りで来たのだろうか、軽く息を弾ませていた。


「言い忘れていたことがあって…」

「明後日の土曜日。松菱斎 有隣館という場所で、小さな茶会があってね」

「茶会? ですか」

「うん。といっても、ごく内輪の私的な茶会だよ」

 

「君が見えた景色、もっと知りたいでしょ?」

いたずらっぽく微笑んだ。



「…」


「まぁ、来たいと思ったら、でいいよ」



「じゃあ、またね。碧くん」


俺の回答を聞く前にくるっと艶やかな髪をなびかせて去っていった。




*  *  *


ようやく広い校舎の敷地を潜り抜け、家路につく頃には、宵の明星がくっきりとその輝きを見せびらかしていた。


「茶会」

 口の中で転がしてみると、その響きは、思ったよりずっと、新しい場所へのドアみたいに、きらきらして聞こえた。


(土曜日ということは...)

(今日は木曜日だから、明日、学校が終わったら、その次の日)


当たり前のことをブツブツとつぶやいて、約束もしていないのに二日後を待ち遠しく思っている自分が、本当に恋煩いでもしているかのようで滑稽だった。



(あれ…)


(雰囲気に気押されてすっかり忘れていたけど)



(俺、そういえば、名乗ってないよな…)


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