生贄の少女
「私は、生贄として育てられた娘だった」
アヤは視線を落として、ゆっくりと話し始めた。
候補の子供はたくさんいたらしい。けれど、物心つく頃にはアヤが生贄に決まった。
1番見目が良かったからだったらしい。
神様には1番上等な物を捧げなければならないという考え方からアヤは高度な教育を受け贅沢を許された環境で成長する。
自分は唯一無二の価値ある存在であるともてはやされた。
自分の足で外を歩く事も無かったと言った。
「足が穢れるといっていたな。移動する時は神輿で担がれていたよ」
「ずいぶんな生活だな」
「ああ……尊大な子供の出来上がりだ」
だが、生贄として、捧げられて、気づく……。
もう過去の事なのか、アヤの声に波はない。
「洞窟に大きな扉がついた場所が聖域だった。そこに閉じ込められたんだ……たくさんの財宝と一緒にな」
「怖くは無かったのか?」
「最初は全く。綺麗に飾り立てられ、神輿に乗って練り歩き、見る者は私を褒め称えた……そして見た事ないほどの財宝と共に祀られる……この素晴らしい物と自分は等価なんだと……悦に入ってたんだ」
歪まされた価値観だ。
閉じ込められた穴倉の中で歪に笑う少女を想像して、吐き気がした。
「さぁ、神よ来いと思ったよ。迎えに来ると聞いてたんだ」
「――だが、来なかった」
「やがて、喉が渇き腹が減って……蝋燭が尽きて暗闇になる頃、やっと怖くなった」
「欲しい物は全て与えられた、でもそれは私から全て奪うためだったんだ、とね……」
まだ、声に波は無かった。
それがただ、痛ましかった。
「……助けがあったのか?」
半ば祈るように聞いた。
「まさか。さほど広くない室内で、蝋燭は尽きるまで燃えた。どこかに空気の流れがあるはずだと必死に探した。そうしたら、扉のすぐそばが崩れていたんだ……笑ってしまうよ」
外を歩いた事もない非力な少女が、まさか逃げ出すとも思わなかったんだろう……。
泥だらけになって外に出れば、見張りも無く、遠くで祭りを続ける喧騒が聞こえたそうだ。
「必死に土を掻いて這い出した。爪が割れて血が滲んでも……あの暗闇に取り残される方が痛かったんだな」
アヤの声は淀みない。
あった事をただ淡々と話続ける。
「とにかく逃げなければと思って……初めて走ったよ。きっと不恰好だったろうな」
自嘲するように、クッとアヤは笑った。
自分の足にもつれて転んでしまったし、綺麗なだけの靴が鬱陶しくて、脱げば柔らかい肌はすぐに傷ついてしまった。
滲む血が滑ってまた転んで……きっとあざだらけだった。
そう言ったアヤの声は僅かに波立っていた。
――嬉しかったのか……?
ただ澄まして飾られていたものが、自分の意思で歩き出した。
それが恐怖からでも、……自分のものだ。
――誇らしい、が正しいのかもな。
「そうしていたら、灯りを見つけた……」
「そうして私は、この場所に招かれた……」




