帰れない
ヒロさんに引きずられるようにして店の中にいれられ、立っていられなくて座り込んだ。
彼女の呟きが響くほど、店の中は静まり返っていた。
見上げた窓は、やがて霧が立つように彼女の姿を隠し……何も見えなくなった。
「……おかえり」
アヤさんの静かな声にみんなが振りかえった。
これが最後とでもいうような、寂しい、響きだった。
そう思うのは、アヤさんの指がかすかに震えていたからかもしれない。
「アヤ……」
サチさんの声が沈黙に響いた。
「あの嬢ちゃんは、なんで帰れなかった……」
俯いたアヤさんの、表情は見えない。
「理は……彼女の“帰りたい“を叶えた……」
『あの女の理屈で言えば、私はきっと帰れてるのよ』
彼女の言葉が蘇る。
あの時より、重い沈黙――。
「そんな……だって……」
唇が震える。
言葉にならない。床を掻くようにして手を握り込んだ。
「カナエ……」
握り込んだ手に、ヒロさんの手が重なった。
大丈夫、そう言うように緩く握ってくれる。
震えは止まらない。
けれど、大きく息を吐いて、アヤさんを見た。
「帰れてねぇ……」
サチさんの絞り出すような声。
「俺たちを……騙したのか?」
サチさんは私とヒロさんの前に立ってアヤさんに聞く。
庇うみたいに、前に立っている。
そして、1番言いたくない事を言ってくれている。
聞いた事無いくらい、辛そうな、震える声で……。
唇を噛み締めた。
握り込んだ拳を開いて、ヒロさんの手を握り返す。
聞かないと、いけない。
「アヤさん」
彼女は間違えたか、足りなかったか、何か……何か――。
「教えて……私たちは、帰れるの?」
震えないように、精一杯力を込めたけれど、声は少し震えた。
でも、アヤさんを見つめた。
私はまだ、違う答えを期待していた……。
「カナエ……」
アヤさんが顔を上げて、私を見た。
「……すまない」
アヤさんの顔は、苦しそうに歪んでいた。
「お前たちは、目的があって……招かれている」
「全く同じ世界に帰る事など、ほとんど不可能だ」
すっと体温が下がって、目の前が白く濁った。
まるで、自分が世界からいなくなっていくみたいだった……。




