新しい仲間
翌朝、私はベッドの上で天井を眺めていた。そばでは茶器たちが心配そうにウロウロしている。
窓から差し込んだ光が彼らに反射して天井を不規則に照らしてた。
見るとも無しに光を目で追いながら考える……。
私の想像が追いつかなかった。
一人ではどうする事も出来なかった。
怖かった。怖いとすくんだ自分も嫌だった。
――でも怖い……。
私は布団を頭からからかぶって目を閉じた。
この世界に出ていけそうになかった。
カナエの部屋の外、ドアの前にアヤはいた。
ドアをただ見つめて立っている。昨日の雑巾がそばにやって来て。入らないの?一緒に行く?と尋ねるように小さく跳ねる。
アヤは迷うようにドアノブに手をかけたが…手を離し、静かに去っていった。
店の木戸が音を立てて乱暴に開いた。
勢いよく流れ込んだ外気にホコリが舞って光に照らし出される。
昨日の男――サチだ。
サチは獣の様な目で店を見まわし、昨日の女を見つけて射るように睨んだ。
明るい店内なのに……夜がそこだけ居残っている様な雰囲気をまとっている。
女はカウンターの向こうから無機質な瞳を向ける。
「どう言う事だ……?ユキは……ユキが……。……ここはいったいどこなんだ」
獣が吠える前…低い声で威嚇する様にサチが問う。そして――。
「お前はいったい何をした!」
唸るように吠えた。
「サチ」
空気が変わった。光に照らされたホコリさえ止まった。
この女、俺の名前――。
「妹はお前を呼んだか?……おかえりと、声をかけたんだろう?」
『兄さんお帰り。もうっ!一晩中どこ行ってたの?心配したんだから!』
――あぁ、声を聞いた。ガキの頃に死んだ、母親によく似た顔で笑って……だが。
「あれはユキじゃなかった!」
「お前は異界に招かれた。異界は、ただお前にそうと解るように――」
「少しズレた世界を見せただけだ」
――少しズレた……だと……。
「お前には……必要なズレだろうさ」
あぁ……クソッ……。
殴ってやろかと思った。
だが、握りしめた拳は動かなかった。
「ああ、これ以上無いくらいな……。趣味の悪い事しやがる……」
サチは片手で目を覆い、天を仰いで壁に背をつけ、ずるずると座り込んだ。
噛み締めた口内から血の味が滲んだ気がして、
また、ゆっくりとホコリが宙を舞った。
……雪のようだった。
トントン――。
ノックの音に私は布団から顔を出した。
もう夕暮れの光だ……この世界の時間もきっとそろそろ終わるだろう。
――出られなかった……。
後悔に似た痛みが胸を刺して痛い。
「カナエ……入っても?」
アヤさん?珍しい……。
「はい。大丈夫です」
布団から体を起こし、声をかけた。
ドアが小さな音を立てて開き、アヤさんと男の人が入って来た。
「あ!」
「!お前あの時の……」
サチと呼ばれてた男の人だ。
途端に、あの時の怖さが蘇って体が震えそうになる。震えるまいと、無意識で指先を握り合わせる。
あの時の少女だった。
ベッドの上でこちらを見る目には恐怖が滲んで、顔色が悪い。指先を体温を探す様に握り合わせている。
――ほんとに………似てやがる……どこまでも悪趣味だ。
サチさんは私を見てどこか苦しそうに一瞬俯いたが、すぐに顔を上げた。
あの路地裏で別れた時と同じように――目線は、合わない。




