再会
その女の子の事、私は知ってる。
あの雨の日、私を店に連れて行ったあの子だ。
あの日はこの子も雨に濡れていたけど、こんなんじゃなかった――。
あの日と同じ二つ縛りはほつれて乱れている。
皮脂で汚れた前髪が束になり、額に張り付いて……酸えた匂いがした。
――家に、帰ってないの?
「カナエ!」
ヒロさんが彼女の手首を捻り、怯んだ隙にサチさんが私を背に庇って距離をとった。
「痛い!離して!」
「騒ぐな!君は……いったい?」
ヒロさんが彼女の手首を離さない。
けれど、彼女も渾身の力で暴れている……。
「ヒロさん待って!」
このままじゃ人が集まってきちゃう。
「知ってる人なの……。私の前に、招かれた子……私、彼女の身代わりで招かれたの」
私の言葉に、ヒロさんとサチさんが息を詰めた。
「どうして?あなた、帰ったんじゃなかったの……?」
彼女の体から力が抜けた。
ヒロさんが手を離すと、彼女は呟くように話した。
「帰ったと、思ったのよ……でも……」
「私の世界じゃなかった」
とにかく店に連れて行って、そう懇願する彼女を放っておく事もできず……。
彼女を連れて電車に乗った。
電車の中の人はまばらで、4人掛けのシートが空いている。
彼女の向かいに私とヒロさんが座り、サチさんは吊り革に捕まって彼女を見下ろした。
電車がゆっくり走り出した。
「君も、招かれたのか?」
最初に口を開いたのはヒロさんだった。
「そうよ……。帰りたいって言ったら、縁を探せばって言われたわ」
さっき手首を掴まれたからか、彼女はヒロさんには目も合わさない。
伏目がちに、ぶつぶつと呟くように話す。
「私もそう言われた……」
『ここに来て、さらにお前は対価を払い受け取った。縁としてはこの上ない』
「あなたがやった事、アヤさんはこの上ないって言ってた……だから、帰ったんだと思ってた」
カナエがそう言えば、彼女の目が、鋭くこちらを見た。
睨まれているようだと思ったけれど、彼女の焦点は、多分私に無い。
「アヤ?あの女の事ね。……私はあなたが縁だと思ったのよ」
私を通り越して、アヤさんを見てる。
「私が?」
彼女が指先で、スカートを握りしめた。
「その制服。……私の行きたかった高校のやつ。ずっと憧れてた、忘れないわ」
「あなたを見つけた時はきっと縁なんだと思って店まで連れてったわ。……傘まで買ってくれた。これで帰れると思ったのよ!」
堰を切ったように、独り言のような彼女の呟きは早くなっていく。
「外に出たら見慣れた街だった。だから……刻限になっても帰らなかったわ」
「なのに、違った……私の世界じゃないのよ」
そこまで言うと、今度は糸が切れたように俯いた。
「勘違いって事はねぇのか?」
サチさんは冷静だ。
声のトーンがいつもより低い、けれどゆっくり、彼女を落ち着けるように話す。
「……最初は、そう……思った、わ」
何かを思い出すように、彼女は追い詰まって行く。
途切れ途切れの言葉の合間に、しゃくりあげるように息を吸いながら話す。
「でも、違うの。……あの女の、言ってる事は合ってる。でも、私たちとは、違うのよ……!」




