既視感
次の日の朝――。
私とアヤさんは木戸の前で朝食も取らずにサチさんとヒロさんを待っていた。
2人が帰って来ないのだ。
何かあったんだろうか――。
このまま2人と別れたらと思うといても立ってもいられない。
握りしめた指先を白くなるほど握り込んだ。
「……来た」
木戸が乱暴に開けられ、ヒロさんがサチさんの肩を抱いて引きずるように店に入って来た。
「ヒロさん!サチさんも!心配したんですよ、何があっ――臭いっ」
2人はそのまま床に倒れ込んだ。
ブワッと濃いお酒の匂いが店に広がった。
「うぇーーーい!!」
「こら!サチ、大人しくしろ!……アヤ、カナエ、ただいま。ちょっと飲み過ぎたみたいだ」
サチさんはよく見れば真っ赤な顔で上機嫌だし、ヒロさんは言うだけ言ってニコニコしながら寝てしまった。
「んんもーー!心配したんですよ!」
思わずダンっと足を鳴らして怒鳴った。
アヤさんは肩を震わせて顔を覆って俯いている……笑っているみたいだ。
「男の付き合いだろうがぁ目くじらたてんじゃねぇや」
なぁ、ヒロ!そう言ってサチさんがヒロさんを叩いた。
ヒロさんがむくりと起き上がって――ぷくっと頬が膨らんだ。
――吐いちゃう!?
「わー!茶器さーーん!!洗面器持って来て!!」
「あ、やべ。俺も」
「サチさんも!?」
それから、笑うアヤさんと2人を介抱した……。
「まったく!お酒って怖いんですよ!死んじゃう事もあるんですからね!」
男2人を私たちで運べるはずもなく、サチさんとヒロさんは店の床に転がっている。
「お前が言うなよな……」
「なんですか!?」
恨めしそうにサチさんが呟くけれど、叱り返した。……だって本当に心配した、帰って来なかったらどうしよう、と。
「死にはしないよ」
アヤさんが茶器から水を受け取りながら言う。
「お前たちはここに招かれている……そう簡単には死なないさ」
サチさんに水を渡し呆れ顔のアヤさんが続けた。
「まぁ、刻限に間に合わなければ知らないがな」
ほら……と、ちょっと乱暴に水を渡す。
――アヤさんも心配してたもんね。
「……悪かったよ」
珍しくサチさんが素直に謝った。
思わず笑ってしまって、サチさんに睨まれた。
それから次の異世界に着くのに3日かかった……。
――お酒はほどほどにしないといけない。
「刻限は午後四時……行っておいで」
木戸を開けて、戸惑った。
アスファルトの道路がまっすぐ奥に伸びている。
道路の奥は幹線道路なのか、車の激しい往来と賑やかな人の気配を感じた。
両側には低めのビルや住宅が並び、電柱と電線が何重にも空を横切っている。
私の世界にあまりにも似ていた。
「なんだか見慣れねぇもんばっかりだな」
「……ずいぶん発展しているようだな」
サチさんとヒロさんが呟くのが、遠く聞こえた。
ビル、行き交う人の服装、信号機……。
通り過ぎる車のナンバープレートを見て、まさかと思って辺りを見渡し、目的の物を探して走り出した。
「カナエ!」
サチさんなのか、ヒロさんか……。
呼び止められたが、止まることは出来なかった。
幹線道路まで走ると、目的の物を見つけた……。
限界まで見開いた目が、瞬きを忘れた。
思った通りで、体から力が抜けて、へたり込んだ。
「カナエ、どうした!?」
ヒロさんがしゃがみ込んで聞いてくれる。
「なんだ、何があった?」
サチさんが私の目線の先を見るが、わからない顔でこちらを覗き込む……。
2人の声が遠のいて、自分の心臓の音が耳元でなっている。
「……読めるんです」
目線の先には案内標識。
――知っている地名が書かれていた。
「ここ……私の世界なの……?」




