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幹の終わりに灯るもの――帰れなくなった少女の異世界旅――  作者: 河居


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帰宅

「おかえり」

アヤさんの1ヶ月ぶりのおかえり。

安心したように笑って静かに両手を広げた。

「アヤさん!ただいま!」


「だぁ!!相変わらず落ち着きがねぇな!いい子にしてたのか!?」

雑巾がサチさんの顔に飛びついた。

心なしか汚れた体にサチさんはちょっとむせた。

「まったく、また洗ってやらねぇとな」

優しく、ぽんぽんと雑巾をあやすようになぜた。


「みんなも久しぶりだな」

カチャン!茶器さん達はヒロさんの前で高い音を鳴らして跳ねて、ティーポットから湯気の立つ紅茶がほんの少し溢れた。

「いい香りだ……落ち着くよ」

茶器さん達を一つ一つ丁寧になぜて、帰宅を噛み締めていた。


アヤさんの肩越しに、カウンターの上にいつかのUFOキャッチャーで取った人形が並んでいるのが見えた。

「アヤさん、あれ……」

体を離して人形を指差すと、バッとアヤさんが人形を背に隠した。

そっぽを向いた頬が少し赤い。

「なんだぁ?お前、寂しかったのか?」

サチさんがニヤリと笑った。

「心配させたな、ちゃんと戻ったよ」

ヒロさんが優しく笑いかける。

「アヤさん、嬉しいです。ほんとに……ただいま」

アヤさんはゆるゆるとこちらに向き直った。

「戻って来ないかと……嬉しいよ」

はにかんだアヤさんをもう一度しっかり抱きしめた。

サチさんとヒロさんがアヤさんの両方にそれぞれ手を置いて、優しく笑う。

雑巾と茶器が祝うように飛び跳ねた。



三人で昼食を囲みながら、この一ヶ月の思い出を話した。

「ムクタは私に会いにきたよ」

「え!?」

アヤさんはなんでも無い事のように言う。

「ムクタには、もう資格が無い。向こうからは見えないだろうが、私からは見えていたよ」

でも、表情は柔らかかった。

「何か話したのか?」

サチさんが聞いた。

ヒロさんはただじっとアヤさんを見つめていた。

「少しな。お前達の事を褒めていたよ。……刻限を伸ばして欲しいと頼んでいた。お前達に、島が芽吹くのを見せたいと言っていた。子供達と一緒に」

「ムクタさん……」

改めて、ムクタさんの優しさが沁みた。

もし大塩の後すぐに帰るんだったら、どんなに傷ついただろう……。

私達も、子供達も。

ヒロさんだって、ここにいなかったかもしれない。

三人で、黙祷するように言葉を失った。

「私がどうこうできる事ではない。それはムクタもわかっていたよ。だから、刻限を伝えただけだ」


「時間があったのは、必要と必然――いいものになったのは、お前達が引き寄せたんだろう」


よく頑張った。

そう言って、アヤさんも目を伏せた。


「そう言えば、サチは私にお土産があるんだろう?」

「な!?ムクタ、そんな事も言ってやがったのか」

ニヤッと笑ったアヤさんが半目でサチさんを見据えた。

サチさんは、仕方ねぇなとぶつくさ言いながら内ポケットから小瓶をいくつか出した。

「散歩してる時に、これが流れ着いてたからよ……ワインを分けてもらったんだ。待たせてる奴がいるからってな」

「サチさん!優しい」

思わず声を上げてしまう。

照れるサチさんは乱暴に小瓶をアヤさんの方に寄せた。

「……ムクタの村のワインか、ありがとうサチ」

細い指が、撫でるように小瓶を滑る。

見つめ合う二人が大人で……なんだか見てはいけない気がして両手で目を覆った。

……隙間から見ちゃってたけど。


「サチはアヤが好きなんだな」

「そんなんじゃねぇよ!!」


のんびりしたヒロさんの声に、爆弾みたいにサチさんが叫んだ。

アヤさんも、声を立てて笑う――。


帰って来た。

私達の日常、ここからまた、始めていこう。

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