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幹の終わりに灯るもの――帰れなくなった少女の異世界旅――  作者: 河居


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波の行くすえ

みんなで最後の朝食をとった。

いつもなら、そばに寄ってきて一緒に食べてくれる子供たちが、その時は来てくれなかった……。



「そんなしょげた顔すんじゃねぇや」

サチさんに頭を撫でられる。

もうすぐ干潮。

私たち、タタラくんたち年長の子供達は砂浜でその時を待っていた。

……小さな子供達は、タタラくんが誘ってくれたけれど、姿を見せない。

「……チビたちを信じてやれ」

サチさんが励ますように頭をポンと打った。



「サチのおっさん」

ククリくんが前に出た。

「感謝してる。ありがとう、ほんとうに。……おっさんのゲンコツ、忘れねぇよ」

「馬鹿野郎が。ゲンコツより忘れねぇでいる事いくらでもあんだろうが」

二人の照れ隠しの応酬。

少し笑ったククリくんが、俯いて、顔を上げた。

目に溜まる涙をこぼさないようにしっかりと広げてサチさんを見た。

「俺、頑固だから……殴られでもしねぇと解らねぇんだ。……俺は続ける。無理はしない」

サチさんがしっかりとククリくんに向き直って、ククリくんの言葉を待った。

「あんたは、いい大人だよ。何やってるかも解らないガキの俺を、認めてくれた」


「俺を見てくれた。それだけで、ほんとうに嬉しかったんだ」


ありがとう、あんたの事は絶対に忘れない。


そう続けたククリくんの言葉を、サチさんは涙を隠そうともせずに受け止めた。


そして、ドンっとサチさんの大きな拳がククリくんの胸に置かれた。


「ククリ、お前はいい男だ。1番のべっぴんを嫁に貰え。子供を作って、教えて、つなげ……お前なら、きっと出来る」


軽口ばかりのサチさんが、真っ直ぐにククリくんを褒めた。


「一人でなんでもやろうとするな。兄貴も、仲間も、しっかり使え。俺を使えたお前なら出来る」


サチさんが「出来る」と言うたびに、サチさんの殻が解けていくようだと思った。


あったかい、サチさんの祝福だ。


「俺も、お前の事は忘れねぇよ」

そう言って、二人、固く抱きしめあっていた。




「ヒロさん」

「タタラ……」

ヒロさんのそばに、タタラくんがやって来た。

「島を、ありがとうございます」

「俺だけでやったものではないさ」

「いいえ……ヒロさん言ったじゃないですか。俺のわがままである事は否定しないって」

イタズラが成功したみたいな顔で笑うタタラは少しだけ幼く見えた。

「……言葉遊びじゃないか」

「そんな事ありません。実は考えてる事があって――」



「おねーーーちゃーーーん!!」



砂浜に子供達の高い声が響いた。

砂浜の入り口に、みんなで横一列に並んでいる。


「みててねーーー!みんな、せーの!」


子供達が一斉にシャボン玉を吹いた。

大小のシャボン玉が、風にのってこちらに流れてくる。

割れても次が、その次が……。

優しい海風が崖にあたり、海に吹き返して、子供達のシャボン玉はついに私を追い越して、海へ出た。


「おまつりにだしたのがいちばんじゃないの!」

「さいこうけっさくは、おねえちゃんのおわかれのときって」

「みんなできめたの!」


なんて……素敵なお別れ。

みんなで考えてくれた。

寂しいのに、悲しいのに……。

なんて……優しい子たち。


嗚咽を漏らすまいと両手を口に当てたって、漏れてくる嗚咽。

流れる涙は止まらない。


「それにね!みてみてー!そーれ!いーち!」


子供達が木の板に炭で書いたものを掲げ出す。


「きゅーう!ぜろ!すごいでしょ!?みんなでかんがえたのよ!」


見せてくれたのは数字だ。

見た瞬間に膝から崩れ落ちた。


私は知ってる……。


「カナエ、どうした?」

「感動したのか?大丈夫か?」

ヒロさんとサチさんが、私の様子に声をかける。


「サチさん、ヒロさん……あれは、私が初めて行った異世界で見た数字、です」

ヒロさんとサチさんが息をのんだ。



『時計の記号と腕時計の数字を当てはめて見てみる』


あの時見比べた……自分で見つけた手がかり。

忘れようが無い。


じゃあここは……?


海を振り返る。

細くでき始めた道、その先にある、小さな島。

大木に抱かれた、小さなお社の島。


あの異世界は、この世界の「もしかしたら」?


だとしたら!


「私は知ってる……もしかしたら、ずっと、ずっと先で……この世界は続いていた」


子供達が走ってこちらにやって来て、飛びつくみたいに抱きついて来た。


「おねーちゃん!私たちわすれない!おねーちゃんたちのこと!」

「しゃぼんだま、おかあさんたちにもきっとみえるよ!」


「きょうをいちにちめにする!まいにちかぞえるよ!」

「だって、すうじができたから!」

「100にちたったら、きっともとのむらにするの!」


自分だけ、何も出来ていないんじゃないかと思ってた。

……出来ていないのかもしれないけど。

でも、私がいた事で……この世界は、あの綺麗で穏やかな「もしかしたら」の未来に近づいたのかもしれない。


「ほめてー!おねーちゃん!」


この、優しい、素晴らしい子供達のおかげで。


「褒めるよ!みんな天才!!とっても素敵よ!!」


精一杯腕をひろげて、子供達を抱きしめた。

みんなから、優しい日の匂いがした……。




「子供達にいいところを取られちゃいましたね」

タタラくんが笑う。

「ヒロさん、言いたかったのは、島の事です」

「俺の、わがままか……」

「そうです。ヒロさんのわがままです。それのおかげで、カナエさんが言うように、この村は続くかもしれないと思うんです」

タタラくんの言葉に、ヒロさんは目を見開いた。

「この島が大きくなったなら、潮の流れだって変わるかもしれません」



「万に一つの可能性かもしれない。でも、潮の流れが変われば……大塩も、やり過ごせるかもしれない」



「ヒロさんのわがままは、素敵な宝物です」


穏やかに笑うタタラくんの向こうにムクタさんが笑っている気がした。


「ククリが坂道掘るんなら、石が出るだろ?」

「その石使って毎年島作りしようと思うんですよ」

「終わったら宴にして、毎年のお祭りにしよう!」


年長の子供達が口々にヒロに話す。

この村の、未来。


「俺は……大人達に、報いれたんだな……」

ヒロさんは呆けたように呟いた。


「言ったじゃないですか。これ以上無い、素敵な宝物です」

ククリくんが笑う。


「自分も、みなさんの事、絶対に忘れません」

潤んだ瞳でヒロさんを見つめて、丁寧に頭を下げる。

周りの子達も、タタラくんにならって頭を下げた。


ヒロさんの瞳が日の光を受けて瞬いた。

光が溢れるように、涙が頬をつたった。


「俺にとっても、ここでの日々は大切な宝物だ」


タタラくんが手を差し出し、ヒロさんが強く握って……お互いに引き合って、強く抱きしめあった。


「弟と支えあって生きろ。……俺は、行くよ」

「ありがとう、ヒロさん」




やがて島への道が出来上がると、島の中央で光は強くなった。

3人それぞれ、最後の別れを惜しんだ。




「それじゃあ、ほんとうにありがとう。みんな元気で!」



お互いに言い合って、手を振って店に帰った。



三人を包んで光は一度大きく瞬いて、消えた。

後には穏やかな風と、優しい潮騒。

最後のシャボン玉がふつりと割れて、優しい子供達は前を向いた。


「さぁ、村を立て直そう」

「それが終わったらソリも作りなおさねぇと」

「なんにちまでに、なにをやるか、けいかくしよ!」


続く未来を、海が暖かく見つめていた。

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