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幹の終わりに灯るもの――帰れなくなった少女の異世界旅――  作者: 河居


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別れの朝

次の日。

私たちの刻限。

この村で過ごす、最後の朝だ。



みんなで岩棚から供物をおろし、即席のテントを張って、村の跡地で一晩を明かした。

目が冴えて、よく眠れなかった。

一人、テントから出ると早朝の光が朝靄を柔らかく照らしていた。

初めて海と同じ目線で見る景色は岩棚から眺めるより広がって見えた。


砂浜に、ヒロさんが座っていた。


「ヒロさん……」

「カナエか、おはよう」

「おはよう」

おはようを言い合ういつもの朝。

だけど、ヒロさんの目は赤く、目の下に僅かなクマが出来ていた。

「眠れなかったんですか?」

「ああ……。眠らない事なんていくらでもあったのに、今回は堪える」

よわったな……そう呟いてヒロさんは頭をかいた。

「お前らも起きてたのか」

「サチさん、すっかり早起きですね」

サチさんも起きてきた。

サチさんは朝が弱い。

でも、ククリくんとソリを作る為にずっと早起きしていた。

ヒロさんが、どっちが弟子か解らないなと笑ってたっけ。


「……一カ月、あっと言う前でしたね」


そう呟くと、三人それぞれ思い出す。

いつも一緒にいた訳じゃない。

だから、それぞれに思い出が出来た。


「……みんないい奴だった。酒飲んだら馬鹿みてぇなのに、仕事になると目が違う。いい男どもだった」

「あぁ。知る事に貪欲なのに、根を詰めるでもなく、とても柔軟な人達だった。……仲間と言われた時は、嬉しかった」

「お母さん達も、みんなあったかい人でした。世話焼きでおせっかいなところもあるけど……こんな時なのに、みんな親切にしてくれました」


あぁだった、こうだったと……三人それぞれの思い出を共有しあう。


「それでお前、どうするんだ?」


話が一区切りついた頃、サチさんが尋ねた。

聞きたい。

けれど、聞きたくない。

ヒロさんの決断が怖かった。

無意識に体がこわばった。


「最初は、残らないと言ったんだ」


ヒロさんの静かな声を黙って聞いた。


「その後、村の真実を聞いた……」


「死んでいく事を受容するなんて、理解し難い。……けれど、否定も、出来なかった」

「同感だな……ただの死にたがりじゃねぇ」

サチさんが言った。


『俺がヒーローぶって死にたがった事だろうよ』


いつかのサチさんの言葉が今は違う響きを持って胸に沁みた。


「みんな生きたかったはずです。せめて少しでも……未来に残りたかった」

震え無いように気をつけて声をだした。


ぶかぶかの衣服、手紙……。

自分達が居なくなった後も残る、手触り。


「大人たちの決意を尊いと感じた。仲間と言ってくれた者たちだ……彼らに報いねば、行けないと、思ったんだ」


「ただ……俺の中には前に無いものがある」

サチさんと二人、ヒロさんを見つめた。


ヒロさんは言葉を探すように目を閉じていた。


「欲だ。……もっと、世界を見たい。世界は美しいと知ったから……」


それきり、ヒロさんは視線を落として黙り込んだ。

私にも、サチさんにも……言葉をかける事ができなかった。



「みなさんここにいたんですね」

沈黙を割ったのはタタラくんだった。


「おはようございます。みんなも起きて来たのでそろそろ朝ごはんに……あ!」


駆け寄ってきたタタラくんは声を上げて、島を指差した。


今はまだ道の無い、小さな島に、光が見えた。


「……きっとあれが、みなさんの帰り道なんですね」

寂しそうに笑うタタラくんの言葉に、上手く返事が出来なかった。



変わらない朝、聞き慣れた波の音に合わせて、光は小さく瞬いていた。


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