もしかしたら
それから、みんなで村の跡地に岩棚から供物をおろした。
保存のきく食べ物、ワインに真水、ぶどうやサトウキビの苗、織物や手に入りにくい長く、まっすぐな木材。
そして――。
「ふくだー!でもちょっと大きいよ?」
子供達の名前が書かれた服は、今着ているものよりふたまわりほど大きかった……。
「俺たちには手紙があるな……」
年長の子達にはそれぞれの親からの手紙が荷物に紛れるように入っていた。
この時にやっと、年長の子達は少し泣いた。
「ムクタ様から、ヒロさん宛にも手紙がありますよ」
鼻を赤くしたタタラくんが、ヒロさんに手紙を渡した。
「ありがとう、……代読を頼めるか?……これは」
「ヒロさん?どうしたんです?」
「……読めるんだ」
ヒロさんがこぼすように呟いた。
「俺の国の文字だ」
「なんだと!?……俺には読めん」
「私にも……ククリくんやタタラくんの使ってる文字とも違うの?」
ヒロさんの手紙をみんなで覗き込んだ。
「違います……でも、文字の癖がムクタ様です」
「ムクタ様は俺たちと同じ文字を使ってた……元はマレビトだから、こっちの文字は覚えたんだろうと思う」
ククリくんやタタラくんも知らない、ムクタさんの側面。
「なんて書いてあるんだ?」
サチさんがヒロさんの顔を覗き込んだ。
ヒロさんは真剣に文字を追っている。
「……読めるかどうかは、賭けだったと書いてある。読み上げるぞ」
ヒロくんへ
この手紙を、君が読めているなら、私は賭けに勝ったようだ。
これも必要と必然なのだろうね。
私はおそらく、君の「もしかしたら」の未来だったのだろう。
世界は幾層にも重なる枝のようなものなのかもしれないね。
ある枝から分かれた未来の一つが私であり――君だ。
だから、君に村に残らないかと誘う事、そして真実を君だけに話す事は私の宿命だった。
私も、前のマレビトからこの役を引き継いだからだよ。
彼も、私のそして君の「もしかしたら」だったんだろうと思う。確証は無いけどね。
本題だ。ヒロくん。
もう一度、君に問おう。
村に残らないか?
君の決断に、君自身が宿る事を祈る。
ムクタ
「……お前、ムクタに残れって言われてたのか?」
サチさんがヒロさんを見た。
私も。
村のみんなが、ヒロさんを見ていた。
ヒロさんの目は、揺れていた。
指先が僅かに力んで、手紙がくしゃりと小さく音を立てた。
「ヒロさん」
タタラくんだ。
「自分達を、哀れに思う事だけはしないで下さい」
凛とした。芯のある声だった。
「そうだ。好きに決めてくれ」
タタラくんに続いて、ククリくんがそう言った。
二人、うなづきあって、タタラくんは続ける。
「流されてしまえば、きっと後悔します」
「みなさんの刻限は明日なんでしょう?……よく考えて下さい」
突き放すようで、それが彼らからの尊重だった。




