告白
「この村は大塩の祭りを境に、大人がいなくなるんです」
タタラくんが話してくれた事は、あまりにも重い、村の真実だった。
「サチさんは不審に思っていたとムクタ様から聞きました」
タタラの視線がサチに向いた。
「あぁ……もっと発展しようと思わねぇのかとは、話したな」
「発展、ですか?」
サチさんは確かに何か疑問気だった。
「カナエは疑問に思わなかったか?ここは豊かだ。畑だって広げられる。なのにしねぇ。こんなに豊かなら人が増えるのが自然だ……なのにここはそんな事考えてもいない様だった」
「……確かに」
言われて見れば、みんな飢えや寒さとは無縁だ。働き者だけれど、子供を遊ばせて
あげる余裕もあった。
「……土地が無いんです。広げる事もままならない。それに、この土地には大塩があります」
「あれか……」
サチさんが目だけで渦巻く海を指した。
「そうです。突然、数十年に一度……この岩棚に居る者だけしか逃れられません」
「前兆はただ一つきり」
タタラくんが私達を指差した。
「あなた方マレビトです。マレビトが来た一カ月後、大塩が来る」
「だから……私は石を投げられたの?」
声は震えた。
だってそんな、不幸を呼び込むようなものだ。
「悪かったと思ってる」
ククリくんがタタラくんの隣に立った。
「あんたらが悪い訳じゃ無い……それに、ムクタ様も言ってただろ?あんたらは福音でもあるんだ」
「福音?」
自分でも、解るくらい弱った声が出た。
人が死んでいく衝撃に、指先から温度が抜けていく様だった。
「そうだ……。マレビトが来ないまま大塩が来たら、みんな避けられず死ぬしか無い。あんた達が来るから、備えられる。……別れの時を大切に出来る」
『ダメよー!お祭りまではお母さんとお父さんであなたを独り占めしちゃうんだから!』
女の子を抱きしめたお母さんの優しい顔を思い出した。
嗚咽を噛み殺して、涙があふれた。
「……毎年、幾つの世代までを残すのか、大人達が話し合って決められます。いつマレビトが来てもいいように……」
「俺たちがほんとにガキの頃、その話し合いを覗いたんだ」
「イタズラ心だったんです。……でも、知ってしまった」
「それから、俺は穴を掘った。みんなで逃げたかったんだ」
「自分は、従順になりました。生き残った後の為に……」
輪唱のような二人の告白は、あまりにも切ない。
頬を伝う涙を拭う事も忘れてほおけたように二人を見ていた。
「なんとか、ならなかったのか」
絞り出すようにサチさんは言った。
「どうにもならなかったと聞いた……」
答えたのはヒロさんだった。
「岩棚の広さにも限界がある。沖に出てやり過ごそうとした事もあったらしいが……助からなかったそうだ」
「だったらせめて、大人を少しでも残す事は……」
カナエは、まだ小さな子供達を思って声をあげた。
しかし、ヒロは力なく首を振った。
「ダメなんだ。大人を残すなら、誰を残すかで争う。残すのは次の世代。そう、彼らは決めたんだ」
痛みを堪えるように、ヒロさんは続けた。
「ここの子供達はよく働く。きちんと教えられているんだ。生きる事と働く事を……そうやって愛されている」
刃物が持てないような小さな子達も、手で魚を開いていた。……大人が当たり前のように子供にも仕事を与えていたのを思い出す。
――ぶどうを絞る時だって……バケツリレーを教えてくれたのは子供達だ。大人が仕事を見せていたんだ。
「そして、ちゃんと遊ばせて、仲間を作らせている。……闇雲に学ばせるのとも、好きにさせるのとも違う。導いていた」
子供達は愛されていた。
今も、愛されてここに居る。
カナエは大人達の愛に、決意に……積み上げてきたものの重さに、抱えきれない感情がないまぜになった。
「彼らが大人になった時に、自分たちがいないかもしれないからだ」
膨れ上がった感情に、名前をつける事も出来ずに、小さな子供を、抱きしめて声を上げて泣いた。




