きらきら星
「おねーちゃん、よーしよし」
抱きしめた子がカナエの腕の中からモゾモゾと手を出して、よしよしとカナエの背をなぜた。
「……っ。ううっ」
子供の高い声と小さな暖かい手に、驚いて顔をあげるけれど、喉が詰まって言葉にならない。
「おねーちゃん、なかないで……だいじょうぶよー」
お母さんを真似したみたいな呑気な調子に、ますます涙が溢れた。
サチさんがヒロさんが……みんながこの子の声に、込み上げるものをなんとか飲み下そうとしていた。
「わたしたち、ねるときのおはなしできいてたの」
「お、はなし?」
「そう。かみさまがね、みんながけんかしないように、おとなをうみがつれてくの」
「寝物語だ……ここの子供はみんな聞く」
タタラくんが、揺れる声で寝物語を暗唱してくれた。
「そう!それ!」
「……でも、お父さんもお母さんも、もう……寂しくないの?」
言ってしまったと思った。
寂しく無い訳なんかないのに……。
「さみしいよ。でも、おとうさんもおかあさんも、きっとみてる」
「わたしたちがちゃんとできるように、みてるよっていってた」
「だから、ちゃんと、やる。げんきに、たのしく、まいにち!」
そこまで言って、やっぱりわぁっと泣き出してしまった。
お母さんの代わりにはなれない。
けれど、今もこうして愛を残すお母さんの代わりに少しでもなれたらと、涙を堪えて、精一杯優しく抱きしめた。
「クソっ……チビに尻叩かれたら前向くしかねぇな」
「……本当だな」
サチさんは赤くなった目を隠すように俯いて鼻を啜り、ヒロさんが答えた。
「ヒロ、お前、なんで言わなかった?」
ヒロを見る目にサチさんが力を込めた。
「……彼らの決意は固い。そして、今日まで紡がれて来た……受け止めるには、重すぎる」
「俺じゃ力不足だってのか」
サチさんはそういって、ヒロさんを殴った。
ヒロさんはたたらを踏んで尻餅をついてサチさんを見上げた。
「……八つ当たりだ。俺だって、聞いたところで何も出来なかった」
吐き捨てるように、サチさんがつぶやいた。
――ムクタに、問い詰めるタイミングはあった。
けれどしなかった。
俺は俺を卑下して……また逃げたんだ。
「1発だけだ……クソ……悪い。もらっといてくれ」
そう言って、サチさんはヒロさんの頭を撫でようとした手を引っ込めて、ただ肩を抱いた。
「サチ……すまない」
「いいんだ……悪かった」
「お前、ちゃんといい男になったぞ」
サチさんが眩しいものでも見るようにヒロさんを見ていた。
しばらくすると、子供達もみんな目を覚ました。
みんなさほど混乱する事もなく、タタラくんの指揮の元、年長の子達と一緒に焚き火台に火を入れ、料理を作り、寝床を整えた。
みんな、痛々しくも、強い。
「明日には、潮は引くと聞いています。村に出てみましょう」
簡単な夕食の後、タタラくんがそう言って灯りを落とした。
潮騒がいつもの穏やかさを取り戻して、小さく聞こえる。
静かになった暗闇で、細く、高い、子供達の啜り泣きが響いた。
こんなに小さいのに、周りを思い遣って声を押し殺して泣いている。
たまらなくなって、体を起こし、そっと泣いて居る子供の側へ寄った。
「カナエ……?」
気配を感じたヒロさんが小さく声をかけてくるのを、唇に人差し指を置いて制した。
「私が眠れない時に、お母さんに歌ってもらったの。……お母さんほど、上手じゃないけど」
そっと囁いた。
子供の背をポンポンと叩きながら、子守唄を歌う。
――きらきらひかる おそらのほしよ
お父さんが死んで、お母さんが張り詰めて……私も頑張っていたけれど、夜はよく泣いた。
――きらきらひかる おそらのほしよ
この子達みたいに、声を殺して。
お母さんに、聞かれたくなかったから。
――まばたきしては みんなをみてる
でも、お母さんは気がついて、隣で背中を叩きながら、歌ってくれた。
――きらきらひかる おそらのほしよ
この子達を見て、もっと泣いてくれたらと思った。
――とどくといいな おそらのほしよ
声を上げて泣いたって、きっと抱きしめる。
だから……
――きらきらひかる おそらのほしよ
我慢する辛さまで、背負い込まないで欲しいと思った。
私のお母さんも、そう思っていたんだろうか……。
繰り返して歌うきらきら星を、子供達も口ずさみだして、優しい合唱になった。
サチさんやヒロさんも起き出して、子供達を撫でてまわる。
涙が止まらない子は、抱き上げてゆらゆらと揺らしていた。
「おねーちゃん、おかあさんたち、みてるかな?」
「きっと見てるよ」
祈り、願うように、呟いた。




