岩棚の混乱
ゴン……ゴン…………ゴッ!!
「壁が崩れるぞ!壁際から人を避けろ!」
「寝てる奴を庇え!抱えて壁から離れるんだ!」
鈍い衝撃で目を覚ました。岩を叩くような音と振動が、身体を揺らす。
「カナエさん!起きましたか、子供を抱えて壁から離れてください!」
必死の形相のククリくんに叫ばれて、とにかく周りにいたまだ意識の無い子供を抱えて壁から離れた。
ここは私たちが間借りしていた岩棚だ。
みんなで宴の帰り道を歩いていて、意識が遠くなって……それで……いったい何があったんだ。
まだ意識が無い子達をククリくんが抱き上げ、タタラくん達年長の子達が起きている子を引きずるように壁際から離した。
バラバラと崩れる壁に怯えながら固まった。
「カナエ!」
「サチさん!」
サチさんだ!
サチさんも子供を抱えて頭を庇っている。
「何があったんですか!?私、ぜんぜん覚えてなくて……」
「香だ!何か混じってたやがった……ヒロが、あいつが何か知ってる」
ヒロさん……ヒロさんはどこに?
見回せば、今にも崩そうな壁の前で背に子供たちを庇っている背中が見えた。
「意識が落ちる時に、身を任せろと言った。あいつはこうなる事を知ってたのかもしれねぇ」
サチさんの歯軋りが聞こえた。
「……まっすぐな奴だ。騙す事なんて、きっとしねぇ。訳を聞かなくちゃならねぇ」
また一つ大きな揺れがきて、起きてきた子供達が叫び声を上げた。
「今は、後です!とにかく子供を守って!」
「もちろんだ!」
サチさんがそう言って、揺れが収まるのを身を硬くして耐えた。
しばらくそうしていると、揺れは収まり、壁の崩落も止まった。
「……これは、どうなってる?」
立ち上がったサチさんが集落を見やって言葉を無くした。
私も立ち上がると、集落のあったあたりが、海に飲まれているのが見えた。
「これは……なんで……」
よろよろと岩棚の縁まできて見れば、海は足元まで迫っていた。
激しい潮流が渦を巻いて、美しい海の面影はかけらもない。
渦の中に、みんなで囲んだやぐらの残骸が流れていた。よく見れば、織物や、食器もある……決定的な物が見えてしまいそうな気配に、血の気が引いて顔を上げていられなかった。
泡立って濁る海はむせ返る様な潮の匂いを撒き散らしながら、全てを飲み込んでいた。
「大人達は……海に飲まれた」
ヒロさんだ。
俯いた顔の表情は見えない。
けれど、真っ白になるくらい、強く拳を握り込んでいた。
「なっ!!お前!知ってやがったのか!?なんで止めなかった!?」
サチさんがヒロさんに掴み掛かった。
あまりの怒号に怯えた子供が服の裾を掴むのを感じて、抱きしめた。
それでも、視線はヒロさんから離れなかった。
子供を抱きしめるのに、下がった目線からヒロさんの顔が見えた。
……こんなに、悲しい顔は見た事が無い。
「サチさん!」
場が裂けるような声が響いた。
タタラくんだ。
「自分が、話します。この村の事。大塩の祭りの事を。」




