宴の後
篝火を持った大人達が先導し、私たちは岩棚へ向かった。
大人達は皆、いつのまにか織物で出来た布を顔に巻いていた。
「ヒロさん、あれなんですかね?」
袖を引いてヒロさんに聞いてみたがヒロさんは振り返らなかった。
「神様に会うのは子供達だけだからね。私達は顔を隠しておいているのよ」
答えてくれたのはお母さんの一人だった。
腕には子供が抱かれている。
列の先頭ではムクタさんが小さな土器に香を焚いている。
土器は細い紐で繋がれていて、ムクタさんが歩くたびにゆらゆらと揺れて細い煙の軌跡を描いた。
不思議な香りに包まれて、私達はゆっくりと歩を進める。
はじめに異変を感じたのはサチだった。
――足に力がはいらねぇ。
祭りの雰囲気に当てられてしこたま飲んだ。
だが、これはおかしい。
砂浜でもないのに足が地面にめり込んでいくみたいに重い……。
「――っ!」
立っていられない、ついによろけて膝をついてしまった。
「サチ、大丈夫か?」
ヒロだ。
「……なんだこれは……おかしい。お前、平気なのか?」
影になって、ヒロの顔は見えなかった。
「……毒には幼い頃から慣らされた。このくらいはどうということはない」
「毒だと!?」
思わずヒロの手を退けて立ち上がるが、タチの悪い眩暈でまっすぐ立つこともできない。
「サチ!急に立つな。倒れたら、頭を打つぞ」
ヒロに肩を掴まれ、倒れる事は免れた。
「……うるせえ。カナエは、無事なのか?」
譫言のように呟いてあたりを見回せば、後ろの方で子供と共に倒れているカナエが見えた。
カナエは子供達を庇うように抱き込んでいる。
「カナエ!」
駆け寄ろうとするがヒロが固く掴んだ手を離さない。
「サチ、身を任せてくれ」
「何言ってやがる……お前、頭でも沸いたのか……」
俺はヒロを掴み返した。
指先から、痙攣するように震える。
ちくしょう、力がはいらねぇ。
クソッ……お前、何を言ってる。
何を、知ってる……?
もはや口も震えて言葉にならない。
取り縋った手が、ついに力を無くしてずるりと地についた。
地面に這いつくばるようにして、ヒロを見上げた。
ヒロはサチのそばに片膝をつき、目線を合わせた。
「サチ、俺は……俺には、彼らを止める事など、出来ない」
決意を眦にこぼしたヒロの苦しそうな顔を見ながら、サチは意識を失った。




