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幹の終わりに灯るもの――帰れなくなった少女の異世界旅――  作者: 河居


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余生

島作りもひとまず終わり、今度は祭りの準備に動き出した。



私たちが間借りしている岩棚に食べ物や織物、ワインが運び込まれる。

「カナエちゃん、こっちの籠も持って行ってくれる?」

「はい!まだ乗りますよー」

ここでもククリくんとサチさんが作った小さなソリは大活躍だった。

「それ、本当に便利よね。荷物を全部運び終わったら、それも岩棚に置いておくといいわ」

「これもですか?岩棚にお供えするのってどんな意味があるんですか?」

「うーん、なんて言うか……これまでの私たちの成果を神様にお見せするような感じかしらね」

「神様ですか?」

「神様って言っちゃうとちょっと大袈裟だけれど……そうね、この先を照らす存在よ」

そう言うお母さんの目はとても暖かで、穏やかだった。




「やっぱり妙だな……」

サチは一人、村を歩き回っていた。


飢えることも、凍えることもないこの穏やかな集落で、どうも違和感が消えない。


崖のそばに腰掛けて村を眺めた。

「なんだかすっきりしねぇな」

「何がかな?」

「うぉ!」


ムクタだった。

いつの間に居たのか、ニコニコしながら隣に腰掛けた。

「びっくりした、気配が薄いんだよ」

「老い先短いからねぇ……というのは冗談で、元々この世界の人間じゃないからね。仲間に入れてもらっても、違いがあるのかもしれないね」

「……」

「ヒロくんも同じ感じがしたんだよ。だから親近感持っちゃって、わがままを言いたくなったんだ」

「……ヒロはもう招かれてる。危なかったが……カナエが対価を払った」

「カナエさんが?」

「縁を無くして、ただ元の世界に帰るだけならよかったんだが……間が悪すぎた。帰ったらあいつ死んでたからな」

「……そうかい。優しい子だね」

「お人好しって言うんだよ。…………気付かされることも多いけどな」

カナエは初めて会った頃より、今の方がずっと子供っぽい表情を見せるようになった。

凝り固まった外角が削がれ、彼女の本来が顔を出している。

退行するような成長は歪だが、眩しい。

「サチくんは、二人をよく見ているんだね」

「バカ言え、危なっかしくて見てられねぇよ」

思わず頬が緩むのを感じて、慌ててそっぽを向いた。

「そんなサチくんは何が気になるのかな?」

そろりと振り返ると、ムクタは変わらずニコニコとこちらを見ていた。

「この村は、妙だ」

「妙とな?」

「ここは夜でもあったけぇ。子供だけで遊んでて危険もない。その上食いもんにも困ってねぇ」

「ありがたい事だね」

「畑をもっと大きくする事も出来るのに、今で充分だって言うじゃねぇか……あんまりにも欲がねぇ」

「……」

「もっと発展する事だって出来るだろうに……望んでねぇのか?」

「そうだねぇ……」

ムクタは穏やかな顔のまま村を眺めた。

子供のはしゃぐ声に混じって、カナエの笑い声が聞こえた。

「もし、今以上を欲したら……取りこぼしてしまう物があるとしたら?」

「取りこぼす?」

「そう。人の欲を否定する訳じゃない。ただね、必要以上を手に入れようとすると、争いになってしまうんだ。人って、どうしてもね」

ムクタはため息みたいな声で話したあと、ほんの少し声をはって言う。


「だから、ここの人達は必要充分を超えない。それをずっとずっと続けているんだ」



「私はとても、尊敬しているんだよ」



目線は村を見てるようでいて、その中にいる一人一人を見つめているようだった。



島作りの時、岩棚の岩を切り出そうとして、出来なかった。


『お前らが下手にいじって、崩れでもしたら取り返しがつかないんだ』


ククリの言った不可侵さを、ムクタにも感じた。



「俺には理解出来ねぇが……人の思想にあれこれ言えるほど、上等な人間じゃねぇからな」


あんたらが満足ならそれでいいんだろうさ。そう続けて立ち上がった。



「あんたはずっと満足そうだ、良い余生だな」


「ああ、誰にも負けない自信があるよ」

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