伝えたいこと
暗くなり始めた浜辺で、ククリはサチを探した。
みんなまだ宴を続けていて、潮騒に混じって聞こえる喧騒が暖かい。
――きっとみんな今日は浜で寝るんだろうな。
宵はまだまだ。
男達は篝火を炊いて、女達は浜辺に敷物を並べていた。
宴の輪の中におっさんは居なかった。
自然に足をむけたのは、俺の掘った穴だった。
おっさんは穴を眺めてぼんやりとしていた。
「あんた、何やってんだよ」
「うお!なんだ、お前かよ」
灯りをもって近寄れば、おっさんは飛び上がって驚いた。
「酔い覚まししてんだよ。朝まで続きそうなんでな。休憩は大事だ」
そう言いながらおっさんは手酌でワインを飲んでいる。
――休憩もクソもないな。
ため息を一つして、まぁちょうどいいかと話す事にした。
「あんたに、謝りたいと思ったんだ」
「なんだよ、藪から棒に」
「ヤブ……?しらないよ。」
隣に腰掛けた。言葉はきまってる。
「……」
「……」
酔っ払い相手でも、二の足を踏んだ。
でも言いたかった。
「悪かった。あんたに、ひどい事言ったよ……その、絶望した事も無いだろって」
あんたには感謝してる――そう続けようとして、おっさんが雑に頭を撫でようとして、顔までなぜてきて、遮られた。
「うっ……ぶ!なんだよ!」
おっさんの手を払いのけて顔を見た。
「……おっさん、そんな顔できんのかよ」
「サチさん、だろ」
「……」
「いい。謝るな。お前は俺より上等だよ。」
おっさんはごろんと仰向けに寝転んだ。
星を見てるようで、どこか遠くを見てた。
「妹がいたんだ」
「なんだよヤブカラボウに」
「……お前、案外賢いな」
「案外は余計だよ」
「はは、まぁいい。…………妹は病弱でな」
「貧相な街だった。まともに働いたら食ってくのがやっとだった。」
「なのに二人分稼がないといけねぇ、薬は高い。かっぱらいにイカサマに盗み……無茶やった」
「……いいんじゃないか。仕方ないだろ」
「お前のそういうとこ、悪くねぇな」
「けど、妹は死んだ」
おっさんの顔を見た。瞳が潤んで見えるのは、灯りが揺れているからかもしれない。
「……妹が死んでも、悪事を辞められなかった。金が欲しかったんじゃねぇ。そうしねぇと全部、消えてっちまう気がしたんだ。」
「……」
「守ってやりたかったんだ……でも死んじまった」
おっさんが小さく見えた。
「……でも、あんたは生きてるじゃないか」
ゲンコツを落とした時はあんなにデカく見えたのに。
「あんたのおかげで俺は、続けられる」
死んでいく人たちに、何か残せるとしたら――
「俺は、辞めない」
目線を合わせようとしないおっさんに、投げるように呟いた。
「おいククリ」
「なんだよおっさん」
「サチさん、な」
「……」
「ったく。……やっぱりお前は上等だよ。おかげで俺はガキを卒業できそうだ」
それだけ言って、おっさんはいびきをかいて寝た。
「……クソサチ」
悪態をついて、何か掛けるものでも持ってきてやるかと立ち上がった。
浮ついた足取りに、自分で苦笑いをこぼした。




