おいぼれのわがまま
――ここまでとは……。
ムクタは歓声に沸く人の群れを眺めて息を詰めた。
――おいぼれの、わがままだったんだがな。
作業を言い渡して、それをきっかけに村の者と繋がりを持ってくれたらと思っていた。
作業はなんでも良かったんだ。
なのに、彼らは自分から網を引きに行き、繋がりを太らせて、おいぼれのわがままをこんなに美しく形にしてくれた。
込み上げる熱が、喉の奥で塊になって拍動している。
――感謝してもしきれないよ。
人の輪の真ん中に居る、養い子の二人。
はにかんだ笑顔が、頼もしく思えた。
完成の宴は明日の干潮を眺めながらにしようと決まり、解散となった。
アヤは店の窓から外を見つめていた。
宵闇の中、月があたりを青く染めている。
虫の声一つ聞こえない。
波の音さえ、今は遠い。
「やあ、アヤ。久しぶりだね」
窓の外にはムクタが佇んでいる。
「ここで合ってると思うんだけどな……。私にはもう資格も縁もないから、ただの岩の裂け目にしか見えないけど。君からは見えてるかな?」
みんなが見たらボケたって思われちゃうかな?
あ、サチくんにはもう言われたんだった……。
そう言って、ムクタはおどけた。
懐かしい顔だ。
ずいぶん老いた。
だが……穏やかな顔になったものだ。
「見えている、聞こえている」
アヤは静かに答える。
聞こえていなくとも。
「ヒロくんにね、島作りを頼んだんだ――」
ムクタは語る。
島に来てからの三人を……島作りが、今日成功したことを。
「私がいつかの世界で見た島を、ここに再現したいってわがままだったのに……よくやってくれたよ」
「サチくん、ヒロくん、カナエさん……みんないい子達だ。」
ムクタの目が暖かい。
「君も、彼らとなら心穏やかでいれたんだとしたら、嬉しい。」
三人との時間を思い起こし、アヤは慈しむように微笑む。
「ヒロくんには、この世界に留まってみないかって誘うつもりだけど……彼は行くだろうね」
ムクタは居住まいを正し、まっすぐにアヤを見つめた。
そこに居るよう願う、強い目だった。
「君が決める事では無いことは重々わかっている。だが願わくば、大塩の後、少しだけ彼らに時間をくれないか?」
「今日出来た島の種が芽吹くのを、彼らに、子供達と一緒に、見届けて欲しい」
風の音が流れて、邂逅の終わりを告げるようだった。
「……やっぱり、人のわがままが通る事では無いか」
項垂れたムクタが踵を返した。
『……3日』
ムクタの耳に、懐かしい声が響いた。
『大塩から数えて、3日後……刻限』
振り返り、岩の裂け目を見つめるが闇が広がるばかりだ。
『良い旅の終わりを…………ムクタ』
「ふふ……君の声が聞こえたのも、必要と必然かな。…………ありがとう」
ムクタは深々と頭を下げ、今度こそ家路につこうとし、あ!と、声を上げて首だけでこちらを見た。
「そういえば、サチくんが君へのお土産にするってワインを持ってったよ。仲良しなんだね」
じゃあ。そう言って、後ろ手で手を振ってムクタは帰っていった。
「……まったく」
ワインを抱えるサチを想像して、アヤは緩く笑った。




