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幹の終わりに灯るもの――帰れなくなった少女の異世界旅――  作者: 河居


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ソリ

夕暮れ、岩棚に戻るとサチさんとヒロさんが難しい顔で小石と枯れ草を並べていた。


「村の人間の手は借りれたが、今のままじゃ厳しいと思う」


「厳しいって、無理なんですか?」


ヒロさんの静かな声に驚いて、思わず声をかけた。


「カナエか、おかえり。実はな――」


ヒロさんが言うには、男の人達の協力は得られるらしい。

だが時間が無い。


干潮の間に全てを運び切るには何かもう一工夫欲しい所なのだそうだ。


「台車のような物でもあればいいんだが、ここには車輪が無いようだし、あったとしても砂浜では役に立たない」


「そんなぁ……」


せっかくみんなやる気になってるのに……。

完成途中で干潮が終わってしまったらみんなの気持ちが無駄になってしまう。


重くなった空気を変えたのはサチさんだった。


「くっ……ふふ!はははは!!」


「サチ!?」

「サチさん!?なんですか急に?」


サチさんは体を揺らし、膝を叩いて笑っている。


「いや、わりぃな」


「ここはあの坊主の出番だ」





「なんなんだよ、お前ら……」


次の日、私たちはククリくんの家を訪ねた。


「よう、坊主、ちょっと邪魔するぞ」

「あ、おい!」


サチさんはククリくんが服の裾を掴んで外に出そうとするが、お!回復してきてんじゃねぇか、よかったな。

と、気にも止めないでズカズカと家の中に入っていく。


「ほら、お前らも来い。見てみろ」


サチさんに呼ばれ、小さくお邪魔しますを言ってククリくんの家に入った。


「ヒロは前にも見たろ?これは使える」


サチさんが指し示す書き物机の上には何かの設計図が乱雑に積まれている。

布壁にまで広がる走り書きは、腰より低い位置に書かれた物は古くなって消え掛かっている。


――今よりずっと小さなククリくんが書いていたのかな。

ふと、自分が差し出した参考書がよぎった。


「……なんだかソリみたいですね。でも、雪も無いのに、これを使ったら壊れちゃうんじゃ無いですか?」


「ソリが何か知らないけど、あんたの言うとおりだよ。こんなん引いたんじゃすぐ底がダメになっちまう」

「でも砂浜なら使えるんじゃないか?」


ヒロさんが身を乗り出す。


「何言ってんだ。砂浜なんかで引いたら埋まっちまうだろ」


「そんな事はねぇ」

サチさんがニヤリと笑った。


「俺が居た街でもな、でかい岩を動かす時は下に丸太をしく。その上を引けば重くても案外動く。それに丸太の上なら砂に沈み込む心配もねぇ」


「だったらなんだ」

ククリは布でぐるぐる巻きの掌を見つめた。


「こんな手じゃ何もできねぇよ……」


「だったら俺を使え」

サチさんはあっさりと言った。


「お前の言う通りに作ってやる。このタイミングを利用しろ。作って、引いて、壊してみりゃあいい」


「……」


ククリくんは俯いたまま、何も言わない。


「お前が何をしたいのかは知らん。だがな、穴掘りを続けるならこれは役に立つ」


「……役に立つのか?」

ククリくんの声は揺れていた。


「さぁな。でも、今なら俺がいる。完成したら、村の男どもが総出で引く。試すなら今以上はねぇ」



「もう一人で無茶すんじゃねぇ。この先も、お前は穴を掘るんだろ?」



「……わかった」


ククリくんが顔を上げた。


「本当か、ありがとう――」

「だけどな!!」

ヒロさんを遮ってククリくんがサチさんを指刺した。


「俺は!ククリ!だ!!二度と坊主なんて呼ぶな!」


布でぐるぐる巻きの手はブルブル震えていた。

サチさんは解けたようにくっと笑って――


「あぁあぁ、わかったよ。坊主」


ククリくんは特大の癇癪を爆発させたが、サチさんは楽しそうだった。


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